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第二十三話 8月15日 ―α―

9/7 更新


 今日も今日とていつも通りの日常だ。


 別に怪獣が出てくるわけじゃないし、地球滅亡とかの予定もない。内閣が解散とかはやっていたけど。新しい首相はどうなることやら……。


 学校が終わるとやはり徒歩で帰宅をする。寄りたい店はないし、友だちとツルンで遊びに行く気分でもなんでもない。


 だいたい友達なんてアイツしかいないんだから、そういうことはあんまりないのだけど。


「帰るとしますか」


 今日は坂城君がゼミなので一緒にはいられない。仕方ないことだけど少し寂しい気がする。


 帰路は茜色で、それがとても綺麗。アスファルトも無機質な色とは違って見えて、なんだか暖かい気分になる。


 こういう日はあたしのとっておきの場所に行こう。


 自宅へ帰る道から少し外れた山道。そこを十分ほど登ると、ガランとした公園がある。


 古ぼけた遊具とそれで遊ぶ数人の子供たち。


 その顔がとても無邪気で、素直に可愛いと思える。


「ねぇねぇ、お姉ちゃんも一緒にあそばない?」


 ひとりの少年が訪ねてくる。


「うん、いいよ。何して遊ぼうか?」


「わーい、わーい」と、何人かの子供たちがあたしに寄って遊びをせがむ。


 かくれんぼや鬼ごっこ。高い高いや鉄棒遊び……etc、etc


 こうやって小さい頃に遊んだことがないから、今やってとても楽しく感じた。


「あー、もうこんな時間だぁ。帰らなくちゃ……」


 あたしを誘った子供が一番に言い出すとそのほかの子供も「ボクも」「わたしも」とみんな言い出す。よく聞くとお母さんらしき人の探す声がした。


 ここらが潮時だろう。とっくに一八時を過ぎているから。


「さて、あたしも帰りますか!」


 盛大に伸びをしてガクンと体を休める。


 うん、今日はぐっすり眠れそうだ。







 ――ガサ――






「あれ?」


 木陰の方で何か動いた気がする。


「あれは――」


 あれは人だ。微妙に服らしきものが見えた。


 一体こんなところで何をやっているんだろう。


「……くっ! 待ちなさい!!」


 あたしは駆け出す。


 運動神経は決して悪いわけじゃない。見失わなければ追いつくはずだ。


 しばらく走ると暗い裏通りに来た。


 つまりは路地裏だ。


 公園から走って工業地帯付近まで来てしまったらしい。


 ここらの地理はそこまで詳しくはないけど、何度か坂城君に連れられてきたことがある。


 確か――、


「オノキ通り」


「――!?」


 路地の壁を正面にしていたあたしは後ろを振り返る。


 そこには何かの液体で黒く汚れた制服を着た……高校生らしき女生徒が立っていた。


 手には大きな人形らしきものを持っている。


「あなたは……」


 ぺっ、と少女は何かを吐き出し、その何かは壁に当たって地面に落ちる。


「ったく、猫かぶってんじゃねーっつーの」


「え?」


 少女はクスクス言いながらこちらに近づいてくる。半透明な白を纏って。


 どこまでも白く、透けて見えてしまいそうな白。


 ()()は何だ。


「つ……ばさ?」


「そうですよ、翼ですよ、天使様ですよっと。ほら、これあげる」


 ボン、と投げられたもの。それが目の前の地面まで来て光で照らし出される。


「――!」


 人形だと思っていたのはあたしを誘ってくれた男の子だった。


 ただし、四枝や人間のパーツは少なく、ワニにでも食べられたような痕が残っている。


 少女をよく見れば、服についていたのは赤黒い血液だとも瞬時にわかってしまう。


「げっぷ。はぁ~、人間丸ごと食べるのって結構体力いるね。ちょっと休憩しよ」


 少女は壁を背にしてペットボトルを取り出す。


「うん? アンタも飲む? でもダーメ。私は喉乾いてんの。アンタは後」


「…………そ、それって?」


「あー? 血に決まってんじゃん。こうやってずっと飲んでると癖になるんだよねぇ」


 今度は高校生らしくゲラゲラ笑ってみせる。


「う、嘘、そんな……。」


「何が嘘なもんですか。これは現実。ちょおちょお現実。ちょお現実。アンタが見てるものも、私がいることも、私がその男の子を食べたことも。ぜーんぶ、げ ん じ つ!」


「な、何で……何でこんなこと……」


 彼女はまたペットボトルに口を付ける。


「ぷは。えっとぉー、んで、アンタはこんなとこで何やってんの? 店は?」


「み、店?」


「? アンタ何で猫かぶってんの? 優等生ごっこ? だとしたらちょおウケるんですけど!」


 どうしよう。訳が分からない。


「ちょっとアンタ、私を追ってたんでしょ? しっかりしてよね。ここ数日は期待に応えてやったってのに……証拠全部消しちゃうんだから。あ、全部じゃないか。最初の方はちょっと取りこぼしがあった……ね? ね?」


「何?」


 少女はあたしの顔を覗き込み、すんすん匂いを嗅ぐ。


 次第に少女の顔が苦い顔になっていくのがわかる。


「違う。アンタじゃない。私を追ってたのは……そっちか」


「そっち?」と言い終わる前に誰かがあたしを抱き上げる。見慣れた大きい体だ。それと同時に地面は大きな破壊音でエグれる。


「大丈夫ですか、お嬢様」


「――――執事!!」


「いいえ」


 執事は即否定する。


「常常言おうと思っていたのですが……私は執事ではありません。ボディーガードです。」


 付き人ですから、と彼はいつものような無表情に平坦な声で言う。


 けれど、どこか暖かな気配な気がする。


「ふうん。血族がいたってわけ? 通りで同じ匂いがすると思った。そっちの子はちょっと違うみたいだけど……アンタは不死じゃん」


「――けつ、ぞく? ふ、し?」


 それって一体どういう……。


「お嬢様、奴に耳を貸してはいけません」


 帰りましょう、と彼は促す。


「帰すわけないじゃーん! 一介の人間に私が()()()わけないんだから――」


 その言葉に反応して、彼はあたしを降ろす。


「始末しないとねッ!!」


「――堕天使がッ!」


 瞬時に天使と彼の間はゼロになり、腕と足とでお互いを攻撃する。


「堕天使ってひっどーい。そっちなんて大切な人に大切なことずっと隠してきたんでしょお? それこそ良くないことだと思うけどぉ!」


「黙れッ!!」


 高い塀のコンクリートに囲まれたこの場所。路地にしては多少広く感じる。


 天使は羽を羽ばたかせ、隼のように彼に向かい、彼はそれを真っ向から受け止め反撃する。その攻撃で血を流した天使の方はこころなしか震えているように思えた。


「くあー、ゾクゾクする! 人間どころか、不死なんて食べたらどんだけハイになれるか想像できないっつーの!! た の し みー!!!」


「殺人狂め……」


「殺人? はー、アンタ馬鹿じゃないの?」


 そう彼が言うと天使は顔を歪め、動きを止める。


「殺人っつーのは人が人を殺すことを言うんだよ。だいたい、人間と人間が殺し合ったところでそれは本当に殺人ですかぁー?」


「何?」


「殺人ってーのは人が人間の意思を持って行う行動? 違うね! 殺人欲を持っている時点でそいつは人間じゃなくてただの動物だっつーの!」


 動物には生存本能……というものがある。


 自身に危機が迫ったとき、生きようとする意識だ。


「じゃ、じゃあ、人が殺人を犯すのは自分を守るためだって言うのッ!?」


 天使はまたクスクスと笑う。


「ばーか。そもそも前提条件からしてアンタらは間違ってんの」


「前提……条件?」


「『人間』なんて言い方もおこがましい。それこそ『ウイルス』で充分」


 息が凍る気がした。


「アンタたちは自分らのことを『人間』と呼称するけど……それは過大評価のし過ぎ。アンタならもう気づいてんでしょ?」


 少女があたしをすっと見る。それに耐え切れなくてあたしは視線をそらす。


「それは……」


「あー、ウゼ。猫かぶりのお嬢様だから言いたくないよってか? 馬鹿馬鹿しいったりゃありゃしない。天使がウイルスを殺して何が悪い。つーか、動物以下に信仰されている私たちが一番馬鹿ったらないけど」


 にやり、と天使の顔が崩れる。


「でもまぁ、それだけだよ。私は人間を殺して(食べて)るわけじゃない。家畜を食べてるもんだって。人間の尊厳……微塵も感じないからね。ほら、さっさと()()()っつーの!!」


 双方が動きだし、また戦闘が始まる。


 「…………何だ、これ」


 一撃一撃で壁や地面が破壊され、お互いも傷が深くなっていく。


 「…………何なんだ、これ」



8月15日 ―α―


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