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第十八話 8月5日 28時

8/21 更新

9/3 修正

9/6 修正

「お嬢様、お時間になりました」


 ふいに執事の声があたしの頭に響いた。


 執事が来て、こう言うのだからもう零時になったのだろう。


 この執事が間違ったことなど言った覚えも、した覚えもあたしにはないのだから、多分そうだ。


「……うん、今起きる……てか、起きた」


 律儀にも、あたしのかけた目覚ましを解除して起こすところが少しイラっとするが、そんなものは眠気に負けてどこか暗いところに落ちていった。


「お着替えをここにおいておきますので、私は廊下そとに待機しております」


 マーベラス、とだけ告げ、あたしは着替える。


 夜の服は言わば勝負服だ。


 別にオシャレをするわけじゃなく、ただのスーツだから面白くも何もないけれど。


 きちんとYシャツを着、暑くてもスーツを羽織る。


 下は……気に入らないけど今日はスカートを持ってこられたので、それになった。鏡を見て、おかしいところがないかチェックしてからそとに出る。


「良く、お似合いです」


 執事はそう真顔で言って会釈をした。


 こっちとしても世辞は嬉しく受け取るが、気持ちは伝わらないのでプラマイゼロだ。


「出かけるから、あとよろしく」


「――わかりました。それとお嬢様」


「……?」


 あたしは横目で執事を見ながらぶっきらぼうな態度でいる。


「遅くまで出歩かないよう、お願い致します。では、お気を付けて」


 そんな執事の台詞にあたしは返答せず、そのまま門を出て、暗闇の路地みちを歩きだした。












 こうしてあたしが夜に出歩くのは別に夜に眠れないから……ということではなく、どうしてか落ち着かないからだ。


 何日かこうやって歩き回っているのだが、それでも気持ちが抑えきれない。






 ――――胸が、苦しい。






 心臓に穴が空いている錯覚に陥る。


 自分でも自分を律することができないなんて……少し腹立たしい。


 昼間の(たか)り。


 夜のざわめき。


 あたしの日常の中には、もうあたしのやりたいことがないから夢中になれるものがない。


 あたしには、こうして夏夜なつよの街を闊歩するしかないのだ。


 夏の夜はうだるように暑く、息をついてしまうほど綺麗な空をている。


 ああ、なんて――、











――――暗転。











「……ふうん。今日は『当たり』かもしれないな」


 しばらく、いや、どれくらい時間をかけて歩いたかわからないけれど、ふと、動いた影があった。それは妙に大きな音をたて、やがて静かになる。


「追いつけっ……!!」


 全速力で道路を走り抜け、現場へ駆けつける。


 しかしそれも遅く、残ったのは水たまりだけ。


 場所は、今は誰も使っていない廃ビルの下。


 コンクリートがボロボロになった、文字通り廃棄されるはずの建物だ。確かここらでは通常の世界に適応できなくなった人間が生活の拠点にしていたと聞く。


 俗に言う、不良のたまり場だ。


 暗い中でも人工の光で、薄暗く、赤い水たまりの中に潰れた人型が数人……五人見えた。


「……飛び降り、かな」


 十秒ほど水たまりを凝視して視線を上にずらす。


「――誰?」


 果たして、そこには()がいた。


 何者かはわからない。


 男であったか、女であったか。


 人であったか、天使であったか、悪魔であったか。


 でもやっぱりそれは人間ではない。そう言い切れる自信がある。


 だって、翼を持った人型それは、決してこの世界の何か(モノ)ではないのだから。












 あたしは急いで階段を駆け上がり、屋上までノンストップで移動する。息を切らしながら屋上のドアを抜け、広い場所に出る。


 辺りを見回すとところどころに引き裂かれた肉片が落ちていることがわかった。でも、それがどこの何であるかまではよくわからない。


 さっき見た翼を持った何かも、完全に姿を消していた。


「誰が……」


 このビルは決して低いわけじゃない。階数から数えて六階はある建物だ。


 あたしは一階一階、確かめながら下へと降りていく。不良が使っていただろう汚い机や、今にも壊れそうな椅子。ヤニで汚れた灰皿。スプレーで描かれた汚い落書きや文字。


 どれをとっても、彼らが生きていた証拠だ。


 その事実だけは、誰が、どんなことをしても拭い取ることはできない。


 死んでいい人間なんて、本当はいちゃいけないと思う。でも、世界はそうキレイは出来ていないのだから、これは仕方ないことなんだと割り切るしかない。


『人間が死ぬのは、いつも早すぎるか、遅すぎるかのどちらかである。しかし、一生はちゃんとケリがついて、そこにある。』


誰かが言った言葉だ。


世界というものは本当にこう、生きにくい場所だと痛感する。


「……今、何時だっけ?」


 携帯の時計を見るともう四時を回っていた。いくら昼寝をしたとはいえ、眠いものは眠い。このまま捜し物をするのは体によろしくない、ということにする。


「今日はもう、帰って寝よ」


 欠伸を一つして、今日はもうおしまい。


 おやすみなさい、翼の使徒。


 また今度。



8月5日 28時


9/3 まさかのサブタイ変え……。

9/6 内容が変わりました。

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