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第十七話 8月5日

8/19 更新

9/3 修正

「よう、浅倉。今日も元気か? よかったら飯、一緒に食べねぇ?」


「うん、元気は元気。でもごめん、あたしちょっと用事あるから」


「そうか、用事があるんじゃ仕方ねぇ。んじゃ、また」


 そう言って、ナンパでもするかのように彼は振舞って、教室を出ていった。


 この会話は外の人が聞いたら普通のお喋りだろう。知り合いがあたしに声をかけてきた程度だし、内容も大して深刻なことではないと判断するに違いない。


 でもあたしにはわかる。彼はわたしを探っている。彼はあたしに『何か』があると疑い、それを恐れ、極力それに干渉したくはないのだ。


 もしかしたらその逆、どういうことか、考えがあってアクションを起こすつもりかもしれない。


 ホントのところ、あたしは何もわかってはいないのだから何も言えないところが微妙に悲しい。


「さてと。あんまり寝てないからもう帰っちゃおうかな。次の講義はかなり退屈だし」


 教室を出たあたりで欠伸をしながらそんなことを口にした。


 わざわざつまらない授業に出るよりは、自分に有効な時間の使い方をしたってバチは当たらないだろう。当たったら原稿用紙五枚以上で反省文を書かせてやる。


 何故あたしなのか、と。


 そんなことを考えていると最近、ふと気がついた。


 喋る相手がいなくなると、自分の思っていることを勝手に吐露してしまうようだ。


 理由はよくわからない。


 自分に言い聞かせるためか、それとも誰かに聞いて欲しくて心中を吐露してしまうのかはきっとあたしには一生わからない。


 というか、興味もない。


 でも、と思う。


 でもこうして一人でいることは自分の意思なのだし、他の人に聞いて欲しいわけじゃない。そもそもわたしは人間が嫌いなのだ。それでも自分は人間なので、『人間』を振舞うしかない。


 これはもう諦めるしかないことだ。


 こうした中、『人間』は動物や哺乳類なんて呼ばれている。


 が、持論として、実際は地球にはびこったバイキンだ。雑菌だ。ウイルスだ。決して地球上で最も偉く、最も尊いモノなんかではない。


「いっそのこと、ノアの大洪水の時に全て無くなっちゃえば良かったのに」


 そうすればこうして、面倒な日々を送らなくても済んだだろうに。


 神様がいるとすれば、そいつはとても意地の悪いジジイかババアに違いない。でなければ人間というものを作る必要はなかったはずだ。


 人間は愚かだ。過ちを繰り返す。


 たとえば朝。今日こそはと目覚ましをかけるのに、執事に起こされること、とか。


 たとえば昼。今日はどこで食べようとか考えながら、自宅で食べること、とか。


 それはもう、数え切れないほど繰り返している。


「うーん、こういう時なんて言うのが正しいのかな?」


 自分でもアホらしいと思う台詞を吐きながら考えてみても、頭には出てこなかったので忘れることにした。












 さて、あたしの家は大学から徒歩二十分の場所にある。


 バスで行くにしては面倒だし、自転車に乗るには少し綺麗ではないと思う。


 自分はスカートが苦手なので、そういった類を外では着ない訳ではあるが、それにしたって短パンで自転車っていう女子を普通の人が見てどう思うのか。


 ……うん。あんまり良くないと思うのでやっぱり徒歩で通うのだ。


「はぁ~、眠たい……」


 欠伸をもう一つ追加して自宅の門をくぐる。


 一般家庭からしたら、あたしの家は大きい。


 それはまぁ、数百年も前からある家なので仕方ないのかもしれない。名家なら門ぐらいあっても不思議ではない、という認識もあるだろう。


 そういうわけで、西洋風の家にちょっとした門が付いていても近所で何も言われないのだ。


 近所――といっても一番近い近所は徒歩十五分なので、こちらにあまり来ないだけかもしれないが。


「お帰りなさいませ、お嬢様」


 門をくぐると大きな扉を執事が開け、お辞儀をし、あたしの鞄を手に取る。


「ただいま、執事。これから寝るから零時には起こして」


「かしこまりました。それとお嬢様……」


 あたしは首を少しかしげ、男を見る。


 歳は知らない。そういうのに興味はないので聞いていない。


 いや、聞いたかもしれないが、そんな記憶は遠く昔に廃棄処分をしたため復元不可。


 身長は高い。大柄ではということでもないがヒョロヒョロというわけでもない、家の執事兼、あたしのボディーガードらしい。


 らしい――というのはあたしが嫌がって一緒に歩かないからである。


 当たり前だ。


 この執事とは両手じゃ足りないほどの年月ここにいるが、何が楽しくてこんなつまらない執事と四六時中一緒にいなければならないのか……嫌に決まっている。


「――私の名は執事ではありません」


 じっと、あたしの目を見、無表情のまま執事が言う。


 街でスカウトでもされそうな面をしてる割に、そんなだから出会いがないのだ。


「そ。じゃ、おやすみ」


「――――。はい、おやすみなさいませ、お嬢様。良い夢を……」


 会話はそれだけにして自室に向かう。


 既にメイドがあたしが何をするか見透かしているように部屋の中で行動している。


 ここまでされたら、あたしがしなければいけないことは、メイドによって着付けられた寝巻き……具体的に言うとネグリジェに包まれながらベッドに潜入り込むことぐらいだ。


 そうしてあたしは、天井に飾った天蓋を見ながら零時まで眠ることにした。



8月5日


9/3 サブタイを変えました。申し訳ありません。

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