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第十六話 Be care for.

8/17 更新


「私は別に、殺してもいい人間はそう、たくさんいないと思っているんですけど?」


「ふうん。でも、仕方ないだろ、『腹が減っては仕事ができん』ってな。それに、そいつらはちゃんと『死んでもいい人間』リストには入ってるだろ」


「それは――まぁ、そうだけど……。でもいくらなんでも多過ぎ、ちょっとくらい私のこと、考えてくれないわけ? これでも協力者でしょ?」


 その言葉に俺は首をかしげる。


 おかしいな。


「……はて、天使に知り合いなんていたか、蛇?」


 俺が蛇に尋ねると、奴はコップを真っ白な布巾で丁寧に拭きながら答える。


「いるはずねーだろ。悪魔と天使はついになるもの。そう、仲良しこよしするモンでもねーはずだが?」


「うぐっ……。で、でも協力者であることは確かでしょ。それでいて私の書く報告書が増えるのはどういう状況なわけ? 私、いい加減ショッピングに行きたいんですけど」


 行くなら勝手に行けばいいと思う。


 あ、金がないんだっけ。綺麗に貧乏な天使さんだ。


 時刻は夕方――とはいえ午後七時を回ったところ。客はいないし、浅倉も今日はいない。なんでも家の用事だとか言っていた気がするが、家とは仲が良くなかった気がする。


 この前の大暴露から数日経ってはいるが、彼女はそれから一度も来ていない。


 いや、一度だけ来たか。


 「これから来れなくなります」とだけ告げ、カフェオレとチーズケーキを頬張って出ていったのだ。


 とまぁ、こんな状態で、尚且つ、この自称『協力者』は大抵このくらいの時間にやって来る。それでいて天使に似合わず愚痴をクッキーの食べ滓のようにボロボロ零していく輩なのだから、特に『天使』だからとか、『可愛いから』とかは気にする必要はない。


 気にしたって、気にした分だけ痛い目を見るのはこちらなのだ。


「にしてもこの店、ホント寂れてんじゃん。もうちょいガーって飾り付けとかしなくて良いわけ? 若い男とかあんまし来なしそうなんですけど」


「しねーよ。テメーの提案を受けるぐれーならこっちの鳥肉の意見を聞いてたほうがまだマシだ。それに、若い男ぐらいホイホイ来るから関係ねーな」


「そうだぞ、クレンザー。この店に来る客は『悪い意味』で特別な人間が来んだから関係ないんだ。な、蛇酒」


「「「……………………」」」


「く、『クレンザー』って。私のこのメチャ、キレーな翼からつけてるわけ!?」


「『鳥肉』ってお前。いくら調理してるからって俺をそういう目で……」


「『蛇酒』、か。酒の扱いが得意なテメーの最も言いそうなこった」


 三人が三人――いや、三……いや、三人でいいや。


 三人がそれぞれ自分の印象に対して少し気にした瞬間である。


 それはともかく、この店には結界が張られている。


 結界といっても単なる暗示なので、効く人、効きにくい人ももちろんいる。


 そして、結界の効力は、非常に強い『嫉妬』や『怠惰』に関する罪を持つ人間によく発揮されるのだ。


 人間は誰しも罪を背負って生きている。


 「暴食」、「色欲」、「強欲」、「憤怒」、「怠惰」、「傲慢」、「嫉妬」


 これらはわかっていながら不可避の罪だ。これを回避出来る人間はもはや人間の枠を飛び越えた、ある種人間から格上げされた聖霊の域に達する。これは、並みのことではない。


 そして、ジズ、という悪魔は「怠惰」、「傲慢」、を担当。リヴァイアサン、という悪魔は「嫉妬」、「色欲」を担当している。


 担当……というのはつまり、なんというか、うん。食事の好みだ。


 担当の魂に有りつければ美味しい魂を食べれたと思えるし、そうでなければ普通の魂と変わらない。高級料理店で食べたか、ファミレスで食べたかの違いである。


 担当以外の魂を食べたからって特別、罰もへったくれもありゃしない。


 ただただ空腹具合が少しマシになった程度だ。


 悪魔は天使と違って信仰によるエネルギー充電システムは持っていないので、こうした原始的な方法で生き延びるしかないのだ。


 故に、天使は『人間を捕食する』なんていうことは絶対にないのだ。する必要もない。


 こうした違いはそもそも、悪魔と天使の生まれる違いによるものである。


 気にしたら本当に負けだ。


「ま、いいじゃないか。おかげで金が貰えるんだから。その程度は気にするなよ。むしろ仕事してない分これで稼いでるンだよ。そう、事務仕事で給料もらってるみたいなモンじゃないか」


「えー。天界の事務仕事ってコピーとか資料作成ぐらいだから、報告書ってあんまり私たち関係ないんですけどー」


「おいおい、天界の事務仕事は随分人間のOL染みているじゃないか。冷房が効きすぎて夏でもカーディガンとか着けてたりするわけ?」


「えー、どうだろ。あ、でも、私の同期の子がそんなカンジだって、こないだメールしてきてちょお愚痴ってた。あの子冷え性のくせによくそんな仕事選んだよねー」


 天使は飲んでいたオレンジジュースをストローでブクブクさせながら言った。


 今どき恋のキューピッドを信じている誰かさん。悪いことは言わない。こんな俗物な天使を信じるよりも、もっと即戦力になる紳士で淑女な悪魔に相談しましょう。彼らなら、異性を虜にするなんて朝飯前どころか起床前。


 とはいえ、ご利用は計画的に。あなたの命は蝋燭より儚いのですから。



Be care for.


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