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第十一話 Why do you exist in this world?

8/7 更新


 買い物から帰ると、気になっていることを聞いてみることにした。


「それにしてもお前、どうやって調理したんだよ? 料理したことなくせに、よく死人を出さなかったな」


 一つ、三日前に店主と入れ替わったくせに料理が出来ていたことだ。


 あれだけの世間知らずだから間違いなく大量殺戮兵器ゲテモノを作っていたと思ったのだが、そうでもなかった。


 むしろ旨いぐらいだ。


「ああ、それは――この本を見て作っただけだ。どうやらこの店のメニューのレシピのようだが、えらく詳しく書かれていてな。勝手もわからないからその通りに作ったんだ。おかげで客からは不満の一つもなかったぞ」


 そう自慢げに言いながら手にある本をペラペラと捲っていく。本の大きさはだいたい英和辞書並みだろうか。昨日買ってきたとでも言うぐらいに新品同然の本である。


 どうやらその本のおかげで店の中が死体で埋まらなかったようである。


 全くもって奇跡のレシピだ。


「しかし、この本は相当古いモンだな。一年や十年前の本じゃねーぞ。恐らく作られてから千年は経ってる」


「どうして? 汚れも傷もない綺麗な本じゃないか」


「いや、魔力封印が施されてる。かなり強力だ」


「ふうん。料理好きの魔術師か魔法使いの仕業か? そんなもんほっといたところで何も危害はねーだろ。だいたい、魔力封印なら名前が――」


「名前はジズ・フライマ……と書かれているが?」


「…………なんだって?」


「聞こえなかったか? ではもう一度だけ言おう。名前はジ――」


「いや、聞こえてる、聞こえてる。ちょっとその本をよこせ」


 俺は本を受け取り中身を確認する。ページのスミからスミへと文字は書きつられ、時には挿絵があったりなかったり。


 相手を幻惑にはめる薬や変身薬の作り方、おまけに惚れ薬の調理方法などが書かれている。


「……どうした、鳥頭。 顔が真っ青だぞ?」


 おかしい。この本がこの国にあることはありえないはずだが。


「おい、トカゲ。この本と一緒に何かなかったか?」


「何かって……特に何もなかったぞ――鷲の紋章が描かれた指輪以外はな」


 クソ、ハプスブルグ家め。お前たちは誰のおかげで繁栄したと思ってやがる!!


「何やら文句を言いたげな顔をしているが……これはお前が作ったのか?」


「ああ、そうだ。千年くらい前に召喚されて、ある貴族を王にさせ、尚且つ繁栄させてやったときに作った」


「成程。貸し一つだな。それが魔術師の手に落ちればお前はタイヘンなことになっていただろうからな」


 和かに本を取り上げる蛇。


 なんとも痛いとこ付いてくる女だ。流石、人間の傷口に回復魔法と腐食魔法を重ねがける悪魔は違う。


「これはもう言い逃れできねーだろ。いい加減この店を大規模にして料理を研究したいんだが。当然、手伝ってくれるんだろ?」


 おのれ……一度では飽き足らず二度までも俺に拒否権を与えないなど!!


「あ、ああ! もちろん手伝うとも。全世界にチェーン展開をするほど大企業にしてやるから覚悟しろよ!」


「ああ、期待している」


 俺と蛇はにっこりと頬を上に持ち上げて、しばらくまた視線を交わし合う。


「「………………フ、フフフフフフ。」」


 もうどうにでもなれという心底諦めた笑いと、浮気の果てに弱みを握った愛人独特の笑い声が店内を包み込んでいるのが分かった。


 それにしても、


「三日前にすり替わったんだろ? 浅倉には気づかれていないのか?」


 俺は話題を変えるべくさらなる疑問を投げかける。二つ目の疑問はこれだ。


 どういう理屈か知らないが、浅倉には特殊な能力がある。悪魔の偽名を知り、結界の効力を無視できる能力だ。


 後者だけならまだわかる。結界の無効化……つまり暗示が効かないということは魔術師関連だ。魔術師は大昔から存在していたのだから、暗示を回避する魔術があったところで不思議ではないし、何より正当防衛だ。


 金をぼったくろうとする目の前の蛇が悪い。


 しかし、前者は理解に苦しむ。悪魔の名を知るには相当な手順や力がいるのだから。


 一体何が彼女にあるというのだろう。不思議だ。


「ああ、そういえばそうか。いや、悪いがそれはあたしにもわからない。おそらく、陽子が特別か、浅倉の血に混じりモンがあるはずだ。じゃなきゃ、テメーはともかくあたしの偽名を知り得るはずはない」


 これは最もな意見である。さもなきゃ神か天使クラスを降臨しているぐらいしか思いつかない。こうなればうかつに彼女に近づくのはよろしくない。バックに何がついているかがわからない以上、下手に動けばこてんぱんにやられる。


 『誰』が『誰』を、とは言わない。ここまでくれば大抵の人は察しが――。


「つくに決まってんじゃん」


「そうそう、察しがつ――あれ? お前そんな口調だったっけ?」


「いや、あたしは喋ってねー。 テメーが独り言を言ってただけじゃ――」


「ないわよ。」


「そうか、ねーのか。」


 なぜだろう。


 すごく魔界に帰りたくなってきた。



Why do you exist in this world?


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