W3団の保障4
その夜、僕らはコーパスの自宅にて、シムカがいう未知なる大事件を解き明かすべくための小さな会議を開いた。
「初めまして、あなたがかの有名なシムズ・シムカートンさんですね。私たち警察の間でも有名で大変聡明な方だと存じております。あぁ、申し遅れました。私、ユング・コーパスと申します。三丁目のリーリック通りに配属されております。エルムとは故郷が近く、私がここにくる前からの親友であります。それで、彼から聞かされたのですがなにやら物騒な事がおこっているそうで」
コーパスは両手にマグカップをもち、それを僕たちに渡すと少し不安げな表情でゆっくりと椅子に座った。
「やぁ、こちらこそ。有能なるコーパス巡査。あなたの日頃の活躍は今の警察の中では悲しいかな、非常に際立っている事でしょう。あなたの上司にその真面目さや謙虚さ勇姿を見せたいくらいです」
シムカはコーパスの性格を見抜いたのか、えらく低姿勢で受け答えをしたようである。
「身に余るお言葉ですが、確かに恥ずかしながら今の警察の信用は酷く低迷しております。この原因は明白であり幾度となる怠慢におけるものであります。不当な賄賂に無能とも終えるほどの堕落しきった上官たちによる責任の丸投げ。事件はたらい回しになり一向に進行しない。街の治安は過去最低を示しております。こうなっては民間人の信用は皆無となり、最近現れたよく知れぬ団体なんぞが名をあげて当然であります。私はもう一度、街の治安と警察の信用を回復したいと思っております。あんな顔もわからないような連中にこの街を任せておけません。シムカートンさん、どうか貴方の卓越なる頭脳で良策となるものを練ってもらえないでしょうか? お願いいたします」
コーパスは深々と頭を下げ、シムカもその確固たる姿勢に感銘をうけたのかいつになく真剣な眼差しでコーパスの丸い背中をじっと見つめていた。
「どうか頭を上げなさいなコーパス君。私は君の姿勢にいたくも感銘をうけたつもりだ。大丈夫、君のいう良策は既に練り上げている。今日はそれを伝えにきたのだ。この策には君という人物が必要不可欠なのだからね。よし、それでは事の真相を説明しよう。しかしあくまでも私の考察にすぎなく真実にせまる一つの可能性であることを先に述べておく。それでは話そうか。W3団の実態をね。いいかい、一気に説明するからそのつもりで。コーヒーを飲み終えておく事を強くすすめるよ」
シムカはそういうと、椅子の上であぐらをかき、両手を頭の後ろに置いて、天井をみながら話はじめた。
「結論からいおう。W3団とは善意な保険団体でもなんでもない、あれは大規模な犯罪組織だよ。それもとびきりのね。彼らの狙いはこの街の治安と警察の信用を低迷させ、国の資金源を根こそぎ搾り取り、国家としての力を皆無にすることだ。
方法は簡単さ。なぁ、エルム君。今日君に魚を買い出しにいかせたことを憶えているかい? 」
「ええ、憶えていますとも。忘れるものですか。貴方が盗人に扮し、僕は団員のふりをして魚を頂戴した話ですね」
警察官のコーパスの目がキラリと光るが、事件の真相に迫るには必要だったとシムカがいい、なんともと納得したようだ。
「そのとおり。今回の事件もそれと全くの同一である。解りやすく説明しようか。さて、エルム君。さきほどの君が商いで団体の保険に加入したら、という話を憶えているかい? 」
「だから憶えていますとも。あまり馬鹿にしないでください。確か私が団体の保険に加入したら、数年でまるまる財産が無くなってしまうといってましたね」
「アハハ、まぁむきになるでない。よく考えれば誰にでもわかることなのだよ。いいかい? 例えばエルム君の財産が5000ベールあったとする。君は年間300ベールを払い団体の保険に加入した。そしてその年にそっくり財産を強奪されてしまった。だけど君は団体の保障により財産の7割である3500ベールが返金された。そして君は1500ベールを失ってしまったが地道に働き翌年にはまた財産が5000ベールになった。しかしなんということだ。街の治安が悪い事にまたもや全財産を奪われてしまった。しかし案ずる事なかれ。君は団体の保障が適用され、また3500ベールが返金される。そして損失は前年の分を含め3000ベールとなり。君はがむしゃらに働き翌年には5000ベールに増やした。しかし街の治安は悪くなる一方で警察は全く役に立たず、町中は犯罪者で溢れてゆき、今年も当たり前のように5000ベールを奪われた。損失は4500ベールに膨らみ、最初の年に所有していた君の財産の9割にあたる。しかし君は手元に3500ベールあるので気づかずまた5000ベールをためる。もうお分かりだろう。この毎年一定の財産を強奪している盗人はW3団の団員その者なのだよ。おそらく保障している団体が財産を銀貨ではなく、宝石か金に変えるように差し向けているのだろう」
「しかしシムカートンさん。団員が盗人であるなら団体よりさきに我々警察が先に捕まえることもあるはずです。尋問を受ければ彼らは団体のことを話すでしょう。しかし、これまで捕まえて来た盗人どもはそんなことは一切語らず終いです。意思の弱い彼らに、このような大それた事件を黙秘できるなどとは到底思えません」
コーパスは身を乗り出し警察の面子をかけて反論するが、シムカはそれをゆっくりと流し、僕はコーパスの肩に手を乗せ再び席に着かせた。
「確かに、彼らにそのような意思はないであろう。さて、エルム君。W3団の3つ目の保障を憶えているかい? 」
「ええ。ちょっと待ってください。確か新聞に・・・」
僕はコートのポケットから小さく折り畳んだ新聞紙をとりだした。
「これだ。『3、捕獲した犯人は厳罰に処置をするため、警察にではなく直接我が団体によって適切な処置をし、今後二度と悪事に手をだせないよう公正させ社会に復帰させていることを約束します。』ですね」
「ありがとう。さて、この保障で注目すべき点は『警察にではなく直接我が団体によって適切な処置をし』という部分だ。彼らは団員ではない盗人を警察に渡さず、こんな甘い条件を出すのであろう。
『我々の団体に入り、団員として働くのであれば警察には送らず、一定の給料と安全を保障しよう』とね。
盗みを働く連中は大抵飢えにこまって悪事を働いてしまうものだ。そんなこといわれたら誰でもそれに従うであろう。 つまり、あの頼りない団員達の正体はこの街の犯罪者だってわけさ。なんとも滑稽だろう? 元盗人が盗人を追いかける。こんなに奇妙な話は聞いた事がない。よってこの団体自体が犯罪組織だってわけさ」
「しかし謎ですね。そんな膨大な資金をなんのために使うのでしょうか? なにか買うつもりなのかな」
「さすがエルム君! 察しが良いな。そう、この莫大な資金はあるものを大量に仕入れるためのものだ。その手がかりは昼間の市場で見かけた団員の腕を見て解ったよ」
「仕込み拳銃のことですか? 」
「ご名答。僕の知る限り、一端の団体が団員一人一人に仕込み拳銃を用意しているなんて聞いた事が無い。よほどの武装品の余裕がないと無理なことだ。それに気になる事件が一昔前にあってね。ボーダーランドという国が反政府団体に武力行使された話だ。そのボーダーランドは小さい国だったのだが地下資源により財力はあったのだが、ものの数年で低迷し荒れ果て、反政府団体が現れたころには既に国家としては壊滅状態だったのだ。新聞の写真には反政府団体の横には三角帽の連中もいた。おそらく今でいうW3団であろう。彼らは反政府団体に雇われた連中なのさ。狙った国を衰退させ、簡単に没落させる直接は手を下さず相手を蝕む寄生虫のようなやつらだ」
シムカは右手に握り拳をつくり、それを思い切り頭上に振り上げ、ゆっくりと一差し指をピンと直立させた。
「幸いW3団がこの都市にきてまだ間もない。大規模な犯罪がおこる前に事態を完全に鎮火させなくてはならない。そのためにはW3団の頭脳であるこの取締役であるウエスト・ラー・ホークマンを捕まえる必要がある。なぁに、やつを捕まえてしまえば事実上W3団は壊滅する。盗人団員のほとんどに知恵はなかろうて。
さて、本来なら今すぐにでも行動したいのだが、いささか準備が必要なのでね。事は明日の夜中にでも決行するつもりでいたまえ。集合場所はルイジアナ広場の『ブルータス』にしよう。あぁエルム君、団員のバッチを忘れないように。では諸君、明日のW3団壊滅を祝して乾杯しようではないか! 」




