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W3団の保障3

 僕たちは大きな焼き魚をぺろりと平らげ、シムカは胸ポケットからタバコ一本とマッチ箱をとりだしてプカプカと頭上に大きな輪を作り、なんとも愉快そうに鼻からも煙をだしている。

 「そういえば店主がいっていたW3団ってなんですかい? えらく警察よりも信頼されているようですが」

 シムカは待っていましたかと云わんばかりに尻のポケットからくしゃくしゃの新聞紙をとりだし、数枚めくりそれを四つ折りにして僕によこした。

 「声に出して読みたまえ」

 僕はいわれるままに、チェック印がついた新聞の広告面を読んだ。


 『我ら「Wild・West・White(略称・W3)団体」が貴方の大切な財産を悪から守ります。W3団の保険に加入しますと以下の3つの保障がつきます。

 1、保障期間中に財産、商品などの盗難にあった場合、無条件で財産の7割を返金させていただきます。

 2、保障期間中は日夜問わず、あなたの所有する大事な財産や商品を24時間態勢で我が団員が厳重に監守いたします。

 3、捕獲した犯人は厳罰に処置をするため、警察にではなく直接我が団体によって適切な処置をし、今後二度と悪事に手をだせないよう公正させ社会に復帰させてることを約束します。

 以上の保障を一律年間300ベールで加入できます。あなたの大切な財産をW3団が守ります。――――Wild・West・White団体取締役 ウエスト・ラー・ホークマン』


 「なんとも善意のある保険団体ですね。財産が7割も返金されるなら年間300ベールは安いくらいだ。僕が商いをしていたならば必ず加入するでしょう」

 シムカは天井を見上げゆっくり煙を吐き出して、そのまま天井を見つめながらゲラゲラと酷く下品っぽく笑いはじめた。

 「いやぁ、そうだろうに。確かに魅力的な保険制度だ。しかし仮にもし君が商人でこの組合に加入しようとしたら、僕は君に忠告するね。さぁ実に驚くことなかれ。エルム君、君は加入して数年でまるまる財産を失うことになる、とね」

 「それはどういう意味でしょうか? 3年分の加入金は900ベール。全うな商売をしていたらそのくらいの額は払えるでしょうに。それにもし財産が奪われても7割が返ってくるのであれば財産がなくなるなんて考えられないでしょう。それにそういうことにならないための保険じゃないですか」

 シムカはどっと笑うと申し訳なさそうに真面目な顔をみせるもすぐにまた顔をニヤけさせては、わざとらしく咳払いなんかをしてみせる。

 「なにがそんなにおかしいのでしょうか」

 「いや失敬。あまりにも善良な考えで、あまりも君らしい純粋な考察だと思ってね。いや、それにこれは大変な事件の始まりにすぎないかもしれない。しばらくこんな大きな事件はなかったから嬉しくてね。とりあえず店をでようか。散歩ついでに見せたいものがある」

 そういって店をでると彼は広場に向かって歩き始めた。

 「見せたいものってなんでしょうか」

 「まぁ、あせらない。それとそのバッチは外しておくように。偽物だってばれてしまうからね。わかっていると思うがこれは団体の団員である証なんだ。あの店主は最近組合に加入したらしいから気づいていなかったけど団員は皆あのように白い格好をしているからね」

 彼の目線の先にはなんとも異様な格好をしたものが広場の中にいた。それも一人や二人ではない、何人もいる。僕らは近づいて凝らしてみる。彼らは皆、三角型の目の部分だけ穴があいている白いマスクを被り、その下にはマスクと同色の白いオーブを羽織っている。そして彼らの胸には三角印のバッチがついている。

 「なかなか物騒なものを持っているね」

 シムカが眉を潜めながらいった。

 「とくに武器などはもっていないように見えますが」

 さらに目を細めてシムカはいった。

 「たぶん右手に仕込みナイフのようなホルダーが付いているね。いや、サイズからして小剣だろうか。アサシンとは思えないが・・・。それに見えないかもしれないけど腰には長剣をぶら下げているね。長さから察してエストックあたりだろうか。そして彼らはその厳重な武装とは裏腹に、監守としては全くのど素人であろう」

 「僕には全く解りかねます。まずなぜ仕込み武器があるとお分かりになったのでしょうか? 」

 シムカはもっと近くにいこうといい、順を追って丁寧に話はじめた。

 「まず仕込んでいる武器だが、ちょっとそこの団員をみていたまえ」

 シムカはそういって広場の人ごみに入りあっという間に消えてしまった。

 ほどなくして果物屋の店の前に立っている団員の元に一人の薄汚れた女性が近づき、団員の前を通り過ぎた瞬間、実にわざとらしく大きく転倒してみせた。端から見たら団員が非情にも女性を蹴倒したような光景である。そして女性は苦しそうに倒れたまま団員に起こしてくれといわんばかりに右手を団員に向けた。

 するとどうであろう。団員は仕方が無く右手で彼女の手を握った瞬間、黒く小さいものが勢いよく団員の袖から現れた。女性はそれを見るなり表情を強ばらせ一目散に人ごみの中に逃げていった。一方団員の方はかなり動揺し、右手の手首を左手で覆い近くの団員のもとに駆け寄った。

 「驚いた事に仕込んでいたのは小剣ではなく小銃のデリンジャーだったよ。あのタイプは手首の部分がスイッチなのだよ。しかも銃の使い方もままならないものだから、非常に焦っていたようで手が震えていたね。いやぁ、暴発するのではないかと冷や汗ものだったよ。まぁ、だからこそ彼らは安易に右手が使えないのさ。

 見てごらん、ほとんどの団員が不自然に右手を垂らしているだろう? 全員が左利きの可能性はまず薄い。あれは右手に何かを仕込んでいるという事だ。腕に仕込むとしたら小剣か小銃しかない。僕は小剣とふんで右手を出す。君は右手で握手を求められたら右手で受けるだろ?それと同じ原理さ。万が一左手を使ってきたら強引に感謝の握手を求めようと思っていたよ。まぁ、予想通り右手を使ったので、手を握ったときに手首を捻ってスイッチを起動したのだよ。ちなみに駆け寄った場所にいる団員がどうやら団体の主任のようだね」

 いつの間にか僕の横に立っているシムカは唇の紅をハンカチで落としながらつづけた。

 「それに彼らの足下を見てごらん」

 「なにやら地面に細い線のような跡がついていますね。ふむ、彼らが移動するたびに跡がついてゆく。なんでしょう? 」

 「あれは腰についている長剣がずり落ちて剣の切っ先が地面に擦れて出来る跡だよ。彼の身長は18センチほどであり、そんな長身の彼が引きずる程の長剣とはいかに。素人でも扱え、切っ先の細い長剣といえばエストックに限るであろう。 監視能力はないのは見ての通り、皆一点の方向しかみておらず、たびたび時計をみて何かを待っているようだ。集中しすぎている。あれじゃ近くで盗難があっても気づくはずがあるまい。しかしそんな彼らは幾度も輝かしい功績をだしている。見たまえ、そこの壁に貼っていた広告だよ」

 広告には一人の団員が三人の盗人を縄で縛り、太った貴族と握手をしている写真が写しだされていた。


 『W3団、フランソワ卿の宝石を盗んだ無法者三人をたった一人で捕まえる。屈強なる団員があなたのもとに一人いれば安心解決。――――Wild・West・White団体取締役 ウエスト・ラー・ホークマン』


 「一人で三人も捕まえるなんて凄いですね。想像できないな」

 「さよう。物理的に一人が三人を捕まえるのは不可能だ。かといって仲間の団員に加勢してもらったとは書いていない。屈強なる? 馬鹿馬鹿しい。自前の剣を鞘にも入れず引きずってそれに気づきもしない素人になにができよう。これは全くの捏造だね」

 シムカはそういって、広告に顔を埋め思い切り鼻をかんで地面に叩き付けた。

 「記事だけではない。この団体があからさまな安っぽい作り話なのだよ。こんな低級な芝居にも気づかないから警察の信用が皆無となってしまうのだ。これは警察の信用回復のためにも彼らに少し手伝ってもらおう。たしかエルム君、君の知り合いにイヌ科の亜人族がいたね。名前は確か・・・」

 「コーパス。ユング・コーパスです。おそらく今日は非番だと思いますので、都合はつくかと思いますよ」

 「そう! コーパス君だ。彼はこの事件が終わったら昇進間違いなしだろうね。大手柄であろう。まぁ、とにかく今日の夜にでもコーパス君の家に行こうではないか。あいにく私たちは引っ越しの最中で宿がないものでね」

 シムカは自慢の無精髭を撫で回しながら大きく笑ってみせた。 


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