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W3団の保障

『縦書きで読む[PDF]』機能を使いますと、いくらか読みやすくなると思います。

 シムズ・シムカートンは自宅の階段を早々と降り、外へ出るなり一度振り向いて自室の窓を睨みつけ、ため息まじりにこんなことをいった。

 「なぁ、君。私は酷く思うことがある。私たち、つまり探偵師や哲学者に数学者。それに通ずる探求者にとって、万物のあらゆる真実は道端に転がっているものであり、部屋の中で書物を読み漁っても決して真実は見つからないであろう。

 たとえ見つかったとしても、それは真実ではなく事実という抽象的なものだ。複数性を感じ独創性に欠けている。美しくないよ。だから真の探求者は自ずと旅に出るものだ。君もそう思うだろう? エルム・スピリット君」

 僕の顔面に向かって上から叩きつけるように指をさすシムカに毎度の事ながらよくも次から次へと纏まった言い分が生まれるものだなと感心してしまい、同時に彼の真剣に惚けている目を見て、思わず吹き出しそうになった。

 「たしかにその通りですね。こうして外に追い出されたことによって、家賃を滞納した結果、大家のルイザンヌ婦人に愛想を尽かされ、道端で路頭に迷ったあげく、浮浪者の旅を決意したという、シムズ・シムカートンの確固たる意思の真実を発見することができました。確かに転がっていましたね、そこら中に。当然そこらの大衆も気づいているでしょう」 

 「さすがエルム君。非常に丁寧かつ、解りやすい説明ありがとう。感謝する始末だ」

 そうシムカはいうが、彼の表情は明らかに分が悪そうで眉間に皺を寄せている。そして道端の鳩も飛んでいってしまうような大きな怒鳴り声で昼飯にしようといい、この場から一刻も早く立ち去りたいと云わんばかりに早足でルイジアナ広場へと向かった。

 ルイジアナ広場に着くと、広場の一角にある寂れたカフェで昼食をとることになった。とにかく安上がりにこしたことはないとシムカがいうので私がその店を紹介したのだ。私にとっては大変馴染みのある店であった。店の名前は『ブルータス』という。

 シムカは席につくなりニコニコしながら店内をぐるりと眺め、なんとも高級感のあるトタン屋根だというと昼食はまだかと身を揺らし、非常に落ち着きの無い素振りでいたが、お目当ての昼食くるなりその揺れもピタリと止まった。

 ゴミ入れのバケツをひっくり返してその上にトタンをのせたようなテーブルに彼は両肘をつけ、さも不服そうに握りこぶし大の色の悪い黒パンを弄くりまわしながらいった。

 「ときにエルム君。たしか君はネコ科の亜人族だったであろう。このパンと水だけの質素な昼食にもう一品加えることなんて実に容易いことであろうて。まぁ、このパンをみたまえ。おそろしい硬度を秘めている。まるで岩石のようだ、このように壁に叩きつけても跳ね返ってくるという始末。こんな凶器を堂々と公に晒し、さらには客人に食わせようとは。役所の目は誤魔化せてもこのシムズ・シムカートンの目は誤魔化せんぞ! ええい、エルム君、止めるなよ。私の怒りはこのカビだらけのチーズの横に今朝水揚げしたばかりに魚さえあれば収まるのだ。それで店主の命は救われるというのなら安いものだろう。生きの良いものを頼む。私はここでのんびりと水でティータイムをしているから、あぁそれとこのバッチを付けてゆきたまえ。きっと役に立つ」

 そういい終えるなりシムカはテーブルにドンと両足をのせ、自前のティーカップをポケットからとりだしそれに水を移し替えて何とも有意義な表情を浮かべては目を瞑るなり鼻歌を歌い始めている。

 僕はさもげんなりとし、その見慣れない三角印のバッチを胸ポケットにつけ渋々と店を出た。 

 広場の中心部にある市場に向かいながら思う。まったくあの男の人使いときたら。しかし感情とは裏腹にヨダレを垂らし、唾をぐびりと飲む自分が酷く情けなく単純であり、ネコ科の亜人族である決定的な本能感じさせた。


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