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帯剣と白衣のラプソディ  作者: 万里小路 信房


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6、贖いの金貨

 大陸暦三一八年、雪のゴニアタイト。


 アウグストがテーブルに置いた革袋の重さは、エドガールが一生かけても目にすることのできない額だった。


「これが彼女の意志だ。彼女とのことは忘れるんだ」


 アウグストの言葉が鼓膜を滑り落ち、エドガールの視界は白く染まった。震える指で金貨のつまった革袋に触れたとき、指先に残っていたヒルデガルドの肌のぬくもりが、氷のように冷たく反転した。


 愛していた。その想いさえ、彼女にとっては金で解決できるものだったのか……。


 エドガールはその金を突き返さなかった。泣き崩れることも、絶望に身を投じることもしなかった。ただ、その金の重みを両手で受け止め、自身の細く白い指を見つめた……。


 その日から、エドガールという名のダンサーは死んだ。


 エドガールはその金を、学費に変えた。基礎的な教育はヒルデガルドが与えてくれた。専門的な医学を学ぶためにその金を使った。


 解剖室に漂う死臭を嗅ぎ、卒業後は軍医となって、絶え間ない負傷者の悲鳴を聞いた。しなやかだった筋肉は、重い治療具を運び、暴れる患者を押さえつけるために硬くなった。音楽を聴き分けた耳は、死にゆく者の肺音を聞き分けるための道具となった。


 ヒルデガルドは、エドガールが自由を得るための最初の階段に足をかける手段を与えてくれた。あとはそれをどう生かすかだ。彼は迷わなかった。すべては、いつかヒルデガルドが戦場で傷ついたときに、彼女の命をこの手で繋ぎ止める力を得るため……。


 大陸暦三三九年、帝国による侵攻の報を聞き、エドガールは大公国へ向かう。


「今度は、僕があなたを救う番だ。ヒルデガルド」


 一方、大公国の首都キルトセラス。


 陸軍大臣官房ではアウグストが、前線に立つ妻の無事を祈る聖者のような顔で、同時に彼女の武勲がもたらす自身の政治的地位を計算していた。彼にとっての愛とは、相手を完璧な彫像として磨き上げ、自分のコレクションの最高傑作として飾ることに他ならなかった。


 運命の歯車は、夫の執着と、かつての恋人の献身、そして戦場という巨大な冷気を孕んで、再び二人の男女を引き寄せた。

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