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帯剣と白衣のラプソディ  作者: 万里小路 信房


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1、戦場での再会

 彼と再会したのは戦場でのことだった。


 リソスフェア地峡の野戦病院。ヒルデガルドは視察中、続々と運び込まれてくる負傷兵たちの間を、血に汚れた白衣で黙々と動き回る軍医の背中を見た。


 ヒルデガルドが気づいたのは声ではなく匂いだった。消毒液の匂いの奥に、かつてゴニアタイトで嗅いだ微かな香りが混じっている。


 ヒルデガルドの心が古い名前を絞り出したとき、軍医は振り返った。その男の顔には、かつての繊細なダンサーの面影はなかった。深く刻まれた眉間の皺と、数えきれない死を見てきた冷たい医者の目。そして、かつての羽毛のようにしなやかだった手が、今は無数の命を裁き、繋ぎ止める、硬い、しっかりとした手に変わっていた。


 エドガールは敬礼し、事務的に言った。


「司令官閣下。治療の邪魔ですので、下がっていただけますか」


 懐かしいその声を聞いて、ヒルデガルドの全身が震えた。




 大陸暦三三九年一一月三〇日。その日、空を覆う鈍色の雲から吐き出されたのは、雪ではなく帝国の野心であった。


 リソスフェア地峡。スオミ湾とガドリン湖に挟まれたこの細長い回廊が、大公国の命運を握っていた。帝国軍は全兵力の半数をこの一点に投じた。


「進め。一週間でプシロフィトンを占領せよ」


 ヴァスコ将軍の号令のもと、二万の軍勢が地峡へと殺到した。帝国の首脳陣は楽観に浸っていた。この圧倒的な戦力差ならば、リソスフェア地峡の中心であり、大公国第二の都市プシロフィトンの占領はたやすい。


 対する大公国側、地峡軍司令エステメノスクス伯爵ヒルデガルドは、塔の上からその軍勢を凝視していた。配下にはエキノキマエラ子爵ハラルド、エーリヒという二人の将軍。しかし、手元にある兵力はわずか一万二千。


 ヴァスコ軍の陣営には帝国の誇る精鋭騎士団の姿もある。重厚な鎧が雪原に黒い影を落とし、地響きは数キロ先の大公国のリソスフェア地峡軍司令部まで届かんばかりであった。彼らは今年中に大公国首都キルトセラスで祝杯をあげるつもりでいた。

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