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さて、どうしたもんかね?

「ーー……なるほどね。この世界は魔王に支配されつつあって、各国で勇者を召喚しまくっている、と。」

「は、はい……。」

「そんで、アンタ等の国でも何度か召喚したけど、全員が全員クズだったと。」

「……おっしゃる通りです。」


 陛下達から説明を受けた千代子は、頭を整理させるために言われた事を繰り返した。段々と肩身が狭くなっていく陛下達に、千代子はまたもや深く溜め息を吐いた。それと同時に、憤りを感じていた。助けてくれと言われたのにも関わらず、自身より若い連中は勇者だと言われて逆上せ、遊び呆けていたのだ。そして、自身に白羽の矢が立った。それ即ち、こんな老ぼれにでも縋るしかないと言う事だ。ビクビクしている二人をチラッと見遣ると、千代子は勢い良く立ち上がった。


「呼ばれたからには、アタシだってこの世界に何かしら貢献出来るはずさっ。やってやるよ、世界の救済。」

「おおっ、本当ですかっ……!!」

「乗り掛かった船だ。それに、残りの人生を異世界で満喫するのも悪くはないからねぇ。」

「それは頼もし……え? 満喫?」


 何か言いたげな陛下と王妃を差し置いて、千代子は辺りを見渡した。その時、ゴトンッガランッと何か大きな物が落ちる音がした。眼鏡を掛け直し、目を細めながら見遣ると、よく見ていた物が落ちているのが見えた。


「おやまぁ、私のスーツケースじゃないかっ。それに、旦那が買ってくれたフライパン一式っ。」

「す、すーつけ……? あの、それは一体……?」

「こっちのスーツケースは、孫が喜寿のお祝いに旦那とお揃いで買ってくれたもんで、旅行に行く時に荷物を入れとくモンさ。こっちのフライパンは、結婚して五十年の年に旦那が買ってくれた、取手が取れて、他の鍋やフライパンに付け替える事が出来る優れモンさ。」

「は、はぁ……。取り敢えずは、その品々はチヨコ殿にとっては宝同然の代物、と言う訳ですな。」

「まぁ、そうだね……。」


 突如として現れた大切な思い出が詰まった物達を眺めていると、自然と目頭が熱くなってきた。だが、こんな状況下で泣いている場合ではない。千代子はスーツケースとフライパン一式を手に取ると、二人に向き直った。


「さて、感傷に浸ってる場合じゃないね。先ず、この国を見させてもらうよ。状況把握が最優先だ。」

「は、はいっ。では、こちらへどうぞ……。」


 王妃に促され、千代子はスーツケースを引きながら付いて行った。その後ろを陛下が重い足取りで付いて来る。チラッと見るが、陛下は千代子の視線に気が付いていない。千代子はその様子を不審に思いながら前を向いて足を進めた。暗がりの中、ポツポツと松明の灯りが揺らめいている。スーツケースがガラガラと音を発てるのが、よく響く。無言の中、暫く歩いていると、王妃が立ち止まった。


「……こちらが、外に繋がる扉です。」

「おお、そうかい。なら、早く開けておくれ。」

「……。」


 王妃と陛下は無言で見つめ合い、頷くと、王妃が懐から鍵を取り出した。だが、その手は震え、今にも落としそうだった。見かねた千代子が王妃に近付こうとすると、陛下がそれよりも早く王妃に寄り添い、王妃の代わりに鍵を挿した。ガチャッと鍵が外れる音がし、陛下が扉を押す。金具が錆びているのか、扉がギギギッ……と重たい音を発てた。暗い所に慣れだしていた頃合いに、外の光が差し込み、千代子は目を細めた。この眩しい光の先に待っている景色はどんな物なのか。千代子は少しだけ期待していた。ーーだが、その期待は、目が慣れだした頃合いに、打ち壊された。


「な、んだい……。こりゃ……。」


 千代子は思わず、スーツケースとフライパンを落とした。陛下と王妃も、目を背け、唇を噛み締めた。何故なら、目の前に広がる景色が、焼け野原だったからである。フラフラと覚束ない足取りで壊れた城壁に近寄ると、街()()()()()が一望出来た。家だったであろう物は瓦礫と化し、痩せ細った人々が身を縮こませながら寒さと飢えに耐えていた。ドクドクと心臓が早鐘を打った。千代子は戦後復興しだした頃に生まれた為、そこまで貧しい暮らしをしていた訳ではない。だが、千代子より年上だった旦那の話を思い出した。

 ーー昼でも夜でも鳴り響く警報の音。

必死になって逃げる人々。

家が弾け、火が燃え上がり、空が真っ赤に染まるーー。


「……ーーコ殿? チヨコ殿? 大丈夫ですか?」


 王妃の声にハッとすると、心配そうにこちらを見ている二人と目が合った。千代子は一つ大きく息を吐き、目頭を押さえた。


「……すまないねぇ。旦那の昔話を思い出しちまったよ。」

「大丈夫ですか? 顔色が悪いですよ……。」

「あぁ、大丈夫さ……。」


 大丈夫な訳がない。平和な世界で生きてきた千代子にとって、この惨状は目に余る。歯を食いしばって耐え様とするが、風に乗って鼻に入る焦げ臭いニオイと、肉が腐ったニオイに、吐き気がした。飲み込もうとしても飲み込められない唾液が、口に溜まってきている。


「チヨコ殿、無理をなされるな……。失礼ながら貴女は、私共よりお歳を召されておる。それにこの惨状……。とても耐え切れる物ではない。城の中の客間へお通しする。そこで休まれよ。私は今から、貴女を元の世界へ戻す魔法陣をーー……。」

「ーーなぁに、言ってんだい。ひよっ子が。」

「……え?」


 キョトンとする二人を他所に、千代子は先程出てきた扉に向かって足を進めた。そして、落としたままにしていたフライパンを拾い、溜まっていた唾液を勢い良く吐き出すと、二人に向き直った。その目つきは鋭く、口角が上がっていた。


「さぁ、いっちょやってやろうかねぇ。」


 フライパン一式を肩に担ぎ、ニヤリと笑う千代子。だが、そんな千代子の身を安じた陛下は声を荒げた。


「や、やるって……。チヨコ殿、無理をされるなっ!! 勇者ならまた呼べばーー……。」

「黙んな、ひよっ子が。」


 陛下の言葉を遮る千代子の圧に、言葉を続ける事が出来なくなった。そんな陛下を尻目に城壁へと足を進め、また街の様子を見渡す。だが、今度はニオイや惨状に気負けする事がなかった。それだけ、千代子の中の決意が固まっていた。






END

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