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世界観制約で罵倒しかできない悪役令嬢なのに、なぜか婚約者が溺愛してくる  作者: 杓子ねこ


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7/20

7.…ヒヨコ?

「地べたを這いつくばって……食らうがいいわ……」

 

 翌週。

 わたくしは小声で言うと、餌をつかみ、ぱらぱらと地面に落とした。

 

 小声なのはまたロアン様に聞かれては困ると思ったから。

 ちなみに一度、無言でまいてみたけれど、それはそれで怖いのか小鳥たちがよりつかない。仕方なく折衷案を採用した。

 

「……」

 

 わたくしの心を占めるのは、ロアン様のことだ。

 高笑いの餌やりを見られて以来、ロアン様とはお会いしていない。

 騎士団で急な仕事を命じられ、しばらく昼食は同席できなさそうだと連絡があった。

 

 べつに、お弁当のことは、約束しているわけではない。だいたい週一でロアン様がいらっしゃるだけで、曜日も決まっていない。

 なのに連絡をわざわざくださるというのが、わたくしを気にかけているという証しでもある。

 

 わたくしの銀髪にはロアン様から贈られた髪飾りが輝きを放っている。

 小粒の真珠とプラチナを組み合わせて花を象った髪飾りは、派手さはなく、どちらかといえば慎ましい印象で、編んだ髪に寄り添っている。

 ロアン様らしい贈り物に思えた。きっとご自身で選んでくださったのだろう。

 

 ロアン様は、どういうつもりでわたくしと婚約していらっしゃるのか。

 同情にしてはずいぶんと……視線が、甘い。

 無意識に考えることを避けていたのだろう事実を、わたくしはようやく認識した。

 

 ロアン様のほほえみを思いだすたびに頬が熱くなる。

 部屋でならいいかと思って、「ロアン様と、結婚……!」と絶叫しようとしたら、

「いったい何を考えていらっしゃるのか、理解に苦しむ……」

 という言葉とため息が口から出てきたので、婚約者の惚気を一人で言うことも許されないのかと思ってちょっと泣いた。

 

 そんなことを思い返しながら、餌を握ったままぼんやりとしていたら、いつもより多くの小鳥たちが腕や肩にのって、チーチーと鳴き声を立てていた。

 はっと我に返り、ごめんね、と心の中で謝って餌をまく。

 おねだりをしていた小鳥たちは我先にと地上に殺到した。かと思えばすぐにわたくしのほうへ引き返してくる。

 

「?」

 

 餌を食べにいったはずなのに。空中で急ブレーキ、Uターン、といった動き。

 そしてみんなが餌とは別の一点を見つめている。

 

 わたくしもそちらに目を向けると、かさりと茂みを揺らし、謎の鳥が現れた。

 

 ……ヒヨコ、よね?

 

 尖ったくちばしに、ふかふかだが幼さのある短い羽毛、小さな翼、よちよち歩きの足。

 どう見ても鳥の雛だ。

 

 ただ、ニワトリの雛ではない。翼は先にいくにしたがって濃い黄色からオレンジ、赤と変わり、ぴんと上を向いた長い尾も同じ色づき方をしている。

 

 そして、これが一番の特徴だけれど、目つきがとても悪い。眉根を寄せてメンチを切る不良のような顔をしている。

 なんだろう、見た目はほぼヒヨコなのにすごい威圧感だ。

 

 派手なよそ者を、小鳥たちは怯えたように身を固くして見つめた。

 そんな視線は意に介さず、謎のヒヨコはのっしのっしと歩みを進める。飛べないのにこの態度のでかさもすごい。

 

 ヒヨコはわたくしの前までくると、「クア」と鳴いた。

 なぜかわたくしには、ヒヨコの言いたいことがわかった。

 

『地に落ちた餌を我に食らえと申すか?』だ。

 

「ヒヨコのくせに態度がでかいわね」

「グアア?」

 

 ヒヨコは肩をいからせて目を細めた。

 人間の言葉が伝わるはずないのに、怒られたような気がする。

 ごめんなさい、と心のなかで苦笑し、わたくしはヒヨコに向かってしゃがんだ。餌を入れた箱から餌をひとつかみ、ヒヨコに向かってさしだす。

 

「クア」

 

 苦しゅうない、といった顔で、ヒヨコはわたくしの手からトウモロコシをつついた。

 トウモロコシ以外はつつかない。ヒヨコなのに贅沢すぎる。

 

 それからヒヨコは黙々とつつき続けた。

 

「クルルルア」


 くちばしの感触が「くすぐったい」から「そろそろ痛い」に変わる頃、謎ヒヨコは満足げな鳴き声をあげて、ふんすと胸をそらした。

 アテレコするなら『祝着であった』だろうか。

 

 くるりと背を向けると、のっしのっしと足を踏みしめ茂みへ帰っていく。

 

 様子を見守っていた小鳥たちが戻ってきて、食べ残しをつつき始めた。

 

 ……なんだかとっても、不思議な体験だった。

 

 手を払い、わたくしは立ちあがる。

 そろそろ帰ろう。

 

 そう思い、校舎を振り返った瞬間。

 

 目に入ったのは、腕組みをするセノリィだった。

 

 ウワアアアア!!!!

 

 飛びあがりそうになるのをなんとかこらえる。

 セノリィのまとう空気がふざけたリアクションを許さなかったからだ。

 

 今日は取り巻きの令嬢がいない、と気づいたわたくしに、セノリィはくいっとあごをしゃくってみせた。

 

「あんた、顔貸しなさいよ」

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