17.ヒロインのはずなのに
王宮の地下にひっそりと作られた牢には窓もなく、堅牢な壁と鉄格子が薄暗い中に浮かびあがるだけ。
笑ってしまうくらいにイメージどおりの、ネズミ一匹逃さぬといったような地下牢だ。
そんな中に閉じ込められ、ぶつぶつと何事か呟くセノリィを、見張りの魔導師が薄気味悪そうに眺めていた。
自分に向けられる視線も、セノリィは気にしない。
モブの感情などどうでもいい。
「おかしいじゃない、あたしがヒロインのはずなのに……全部手に入れるはずだったのに、横取りされたのよ、あの女に」
地下牢に入れられて、全部を失うのはヴェスカのほうだったはずなのに。
なぜか自分が、足を鎖でつながれて、魔獣のように扱われている。
「許せない、ヴェスカ……悪役令嬢のくせに」
爪を噛み、歯軋りをしながら、セノリィは我が身の不幸を嘆く。
セノリィが前世の記憶を取り戻したのは、王都郊外の村。野犬に襲われた村人を助け、聖魔法に目覚めたときだった。
その瞬間、この世界はゲームの中の世界だと知った。自分が主人公だということも。女神から、聖魔法だけでなく闇魔法も与えられたことも。
同時に、怒りが湧いてきた。
(あたしがヒロインなのに、なによこのみすぼらしい姿は!? 今まであくせく働いてきたのはなんのためなのよ!!)
辺鄙な農村で苦労をしながら育ってきた。貧しいのは皆同じで、励ましあって――なんて、美談のように語られるけれど。
(所詮はみんな、モブじゃない)
これまでの生活も、ゲームの本編が始まれば、ただの前日譚となるだけだ。
そのためにこんなに苦労をしたのかと思うと許せない。
許せないことはもう一つあった。
セノリィが聖女となったことで、村は利益を得た。
セノリィの作った聖水の儲けが、聖女を拝みにやってきた人々が落とす金が、セノリィではない者のふところに入る。
(こんなの不当よ。搾取だわ……あたしが大変な目にあったぶん、これからはたくさん幸せにならなきゃ)
そんな気持ちに応えるように、セノリィの噂が広まって、すぐに王都から人がきた。
伯爵令嬢に迎えられ、村で住んでいた粗末な家より広い部屋を与えられ、ドレスを着て、使用人たちにかしずかれて。
そうして暮らしが贅沢になるたびに、よろこびと同時に「足りない」という渇望が募っていく。
ヒューバートを攻略し、王妃になるのは当然だ。
でもそれだけでは満足できない。
(逆ハールートで、攻略対象全員をあたしの虜にして……闇魔法だって、使えるものは使うわ。この国の全部をあたしの手に握ってやる)
聖女の笑顔を張りつけ、ヒロインとしてふるまいながら、セノリィはそんな決意を固めて、学園へやってきたのだった。




