第2章-屍に愛を-
あの夏の夜を境に、私は“愛されたい”という欲だけで生きるようになった。
誰かに必要とされることが私にとっての“生きていていい理由”になった。
だから、優しく微笑みかけてくれる人が現れるたびに簡単に心を預けてしまった。
愛ではなく依存。救いではなく、延命。
そうして私は、心が幼いまま体だけが大人になっていった。
高校を卒業して専門学生になったある日。
友人の紹介で出会った人と付き合い、同棲することになった。
最初は良かった。普通の恋人だった。
けれど、付き合って三年目。
私が別れを告げた瞬間から、関係は壊れ始めた。
優しさが疑いに変わり、束縛が日常になっていった。
何をしても「裏切っている」と責められた。
自由は削られ、言葉は監視になり、私は次第に友人たちと過ごして取り戻していたはずの“自分”をまた見失っていった。
それでも私は離れられなかった。
通帳を握られ、逃げ道を塞がれていたから。
そして何より、心の底では"愛されている"と信じていた。その"愛"を離すのが恐かった。私から別れを告げたはずなのに、歪んだ愛を歪んだ形で受け入れるようになっていった。
――この人がいなくなったら、私は生きていけない
――この人以外に、私を愛してくれる人なんていない
そう思い込むことでしか、私の"生きる意味"を見出せなかった。
だがやがて身体が悲鳴を上げた。
逆流性食道炎。腸閉塞。医者は「ストレスが原因」と言った。
それでも私は生活を変えなかった。彼に「俺のせいにするな」と言われたから。
職場では上司から理不尽に仕事を押しつけられるが、定時を過ぎることは許されなかった。
帰れば疑いの視線が待っていたから。
そしてついに心が壊れた。
「心因性の自律神経失調症です。もう仕事は休んでください」
医師の言葉を聞いても、涙は出なかった。
――まぁ、そうだろうな。でも一番の原因は仕事じゃなくて…。
それだけを、静かに飲み込んだ。
そんな中で私をかろうじて繋ぎ止めていたのは、彼に内緒でしていたとあるネットゲームだった。
チームの仲間たちと会話をすることが、唯一の避難場所だった。
体調は悪く、長く画面を見ていられなかったけれど、
それでも「自分の居場所がある」と思えたし、仲間たちもそんな私を許して傍においてくれていた。
ほんの少しの時間だけ、心の底から笑えた。
けれど現実は容赦なく私を引き戻す。
昼も夜も、私は彼の言いなりだった。
気がつけば、私は“死”を考えるようになっていた。
それが、唯一の"私の意見"になっていた。




