第26話:決着
フォルゲリオの纏う赤いオーラ。その不気味な力は、彼の持つ大剣由来のもののように感じられる。
『ギュゥウウウ……!!』
「ヨモギも危険に感じるよな、あれは」
左手の紋章から姿を現したヨモギは、そのまま俺の肩へと飛び乗って小さく唸り声を上げている。
あの赤いオーラ……妖精や精霊の持つ魔力と同じものなのだろうか?
「コンゴーくん! 大丈夫か!」
「レオナさん! そっちは……」
「問題はない! 私が相手にしていた敵は倒してきた。だが、あれは……」
俺の名を呼びながら駆けつけてくれたレオナさんは、そういって俺が対峙するフォルゲリオの姿を見て息をのんだ。どうやら彼女にも、今のフォルゲリオの異様さが感じ取れたらしい。
「一度追い込んだんですが、つい先ほどあんな感じに……」
「《地砕き》、そしてあれが手にしている宝具……間違いない、あれはゾロアスト家の宝具《復讐の凶刃》だ……!」
「《復讐の凶刃》……?」
言われて、俺は再度その視線をフォルゲリオへと向ける。
真っ黒の刀身に、持ち手の長い柄の中央には真っ赤な宝玉のようなものが埋め込まれている。武器としての見た目はシンプルなものだが……あれが、宝具なのか。マギカスタ家の宝具である《風宝石の首飾り》とは、街ずいぶんと違うものだ。
「ああ。話に聞いたことがある程度だが……たしか、自らの妖精を無理矢理暴走させて、より強力な魔法を使うための触媒の剣だったはず。ただ、その危険性故にゾロアスト家で保管されていたはずだが……」
「……なにはともあれ、あの宝具を確保してしまえばゾロアスト家の関与は明白になりますかね」
「それと、覆面をつけた協力者の身元があれば、だな。そっちはマギカスタ騎士団に任せてくれ。だがすまないが、私ではあれの相手は……」
「はい、大丈夫です。レオナさんは他の騎士の方の援護をお願いします。あれは、俺が倒しますから」
悔しそうなレオナさんにそう声をかけると、彼女は申し訳なさそうな表情を浮かべてその場を後にし、他の騎士の援護へと向かった。
レオナさんの後ろ姿を見送り、改めてフォルゲリオへと向き直った。
「グガァ……!? ハハッ! 話は済んだかぁ?」
「そういう割には、苦しそうだな。その宝具の力、制御できてないんじゃないか?」
胸を抑えて苦しそうにしていたフォルゲリオは、真っ赤に染まった目を細めながらにやりと笑う。大剣を地面に突き立てて杖のようにしているのを見るに、あの《復讐の凶刃》とかいう宝具の力は相当な負担となっているのだろう。
元々は魔法を強化するための者らしいが……融合者が宝具を使ったことによる弊害か何かか?
「これから死ぬんだぁ……最後に女と話すくらい、許してやろうって俺の優しさだぜェ?」
「へぇ、そりゃ優しいな。そんな状態で、戦えるようには思えな――」
瞬間、剣を振り上げたフォルゲリオの姿が目の前にあった。
は? と口から間抜けな声が零れるよりも前に、反射的に体が動く。間一髪で身体を半歩下げたことで、振り下ろされた大剣が体の真横を通り過ぎていく。
地面が砕け、フォルゲリオがチッと舌打ちするとともに大剣から肩手を離して拳を振り抜く。
その拳の攻撃も反射的に差し込んだ腕で防ぐ。しかし、あまりの力に体が浮き、強引に身体ごと吹き飛ばされてしまった。
『キュウッ!!』
「助かる!!」
風が俺の体を受け止めるように包み込む。ヨモギに感謝を告げてその場に着地して前を見れば、こちらに視線を向けていたフォルゲリオがゆっくりと大剣を担いだ。
「……なるほど。さっきと同じように見てたら、痛い目を見そうだな」
ちょうどフォルゲリオの立っている場所が魔法罠の設置ポイントであるため、試しにと【嵐鎚】を発動させてみるが……風の塊が衝突すると同時に、魔法そのものが弾けて消えた。
「何かやったかァ?」
「……へっ。さっきまでの威力は、もう効かないってか」
魔法を強化する宝具……って話だが、どうやら融合者が使うと融合者としての力が増すらしい。一瞬で移動した身体能力に、魔法への耐性。なるほど、なかなかに厄介だ。
正直な話、鍛えていなければ先ほどの大剣の一振りで終わっていただろう。武術や武器を扱う才能こそなかったが、目と身のこなしによる回避は両親からのお墨付きだ。
「そォら!! どんどん行くぜェ……!!」
低く構えて早々に、まるでタックルするように突っ込んできたフォルゲリオは、大剣をめちゃくちゃに振るって攻撃してくる。
もともと巨大な大鎚を得物としていたからなのか、その技量はそれほどのものではない。しかし、彼自身の膂力は人外のそれだ。むちゃくちゃに振るっている鉄塊でも、脅威であることに変わりはない。
【浮崩】【嵐鎚】【嵐衝】……どの魔法を試しても、やはり効果はなさそうだ。すべてフォルゲリオの体に触れた途端に弾かれてるように霧散する。ヨモギの風の力も借りて、なんとか大剣の攻撃を回避しながら対策を練る。
「ハハハハハハハァッ!! グゥッ……!? 手も足も出ねェってかァ!?」
不快な笑い声とにやけ面。時折痛みを耐えるような表情を浮かべながらも、フォルゲリオの攻勢は増していく。
そして、大上段から振り下ろされた大剣を躱した途端、目前にまで足が迫っていた。
「グガッ!?」
躱しきれず、腕を差し込んで防ぐ。骨が軋むほどの衝撃に思わず顔を顰めながら、今度は地面を転がるように蹴り飛ばされた。
『キュッ!? キュキュウ!!』
「だ、大丈夫だヨモギィ……くっそ痛いけどな……」
ジンジンと痛む腕を抑えながら立ち上がる。なるほど、このままじゃジリ貧。押し込まれて不利になるのは俺の方だ。
「どうしたよォ!! もう終わりかァ!?」
騒ぎ立てるフォルゲリオの声が耳に響く中、ゴゥ、と強い風が吹いた。空は分厚い雲に覆われ、森の木々が大きく揺れ始める。
「……なぁ、ヨモギ」
『キュ?』
「今ここで、新しく魔法を創る。あいつを倒すための魔法を。だから、お前の力を信じるぞ」
『……キュッ!』
息を吐き、左手を掲げる。魔力を集中させ、その力を天に向け大きく広げていく。
「【集え風よ。吹き荒ぶ風、猛る風、唸る風、荒れ狂う風、轟く風。集いし風を一つに束ね、我が精霊ヨモギの名の下に、邪悪を穿つ矢をここに】」
周囲に渦巻く風を集め、束ね、左手に矢として番えた。
「【番えし矢は天を裂き、地を砕き、我らを阻む壁の悉くを破砕する】」
「まだ魔法かァ!? 効かねェって言ってんだろうがよォ!!」
大剣を担ぎ一気に俺の懐へと飛び込もうとするフォルゲリオ。
しかし、それよりも先に俺の魔法が完成する。周囲の風制御下に置き、集め、立った一本の矢へと収束させる、俺とヨモギの最高の魔法を。
「シネェ……!!」
「【打ち砕け嵐の矢】!! 【天地破砕・疾風弩闘】!!」
番えた風の矢を解き放つ。
放たれた矢は周囲の風を取り込み、進むごとに巨大化しながらフォルゲリオへと向かって飛んだ。
真っ直ぐに、ただ目標を砕かんと、風の渦巻く矢が放たれる。
「無駄だっつって――ア?」
笑みを浮かべたフォルゲリオが大剣を振るう。だが、今までの魔法と同じく霧散するかと思われた魔法は、フォルゲリオの予想に反して大剣と拮抗し……やがて、徐々に大剣を押し返していく。
「ッ!? ふ、ふざけっ……!!」
「俺とヨモギの魔法だ! 存分にその体に刻んでけぇ!!」
焦るフォルゲリオを前に開いた左手を掲げれば、俺の真似をしたヨモギが紋章から飛ぶ出して同じように手を掲げた。
お互いに視線を合わせ、そしてにやりと笑って前を向く。
「いくぞヨモギ! 最高火力! 【破裂】ォオオオ!!」
『キュゥウウウウウ!!!』
広げた手を握りしめると同時に、大剣を押し込んでいた矢が一気にその姿を収縮させる。
そして、内包された魔力と、この森全土から集めた風が一気にその場で解き放たれた。
「テメェ……!!! 魔法使いがァアアアアアア!!!!」
爆発音とともに、周囲にフォルゲリオの声が響き渡る。
空高くへと打ち上げられた巨体は動く様子はなく、そのままドサリと地面に打ち付けられる。
警戒しながら近づいてみれば、大剣を片手に白目を剥いて気絶している様子が見て取れた。いきなり目を覚まされても困るため、そのまま風を操って大剣を取りあげる。
そこまでやって、俺はようやく息を吐いた。
そして、周囲を見てみれば、覆面の男たちを捕縛したマギカスタ騎士団の面々の姿が目に入った。レオナさんも、俺を見てコクリと頷く。
「ふぅ……《地砕き》フォルゲリオは倒した!! 俺たちの勝利だぁああ!!」
『ウォオオオオオオオオオ!!!!』
応援よろしくお願いします。




