第24話:待ち伏せ
「予定していた地点は、たしかこっちの方だったよな……」
『キュウ』
アニモラを出てからしばらく。ようやく目的地である森へとやってきたのだが、そこからさらに森の奥へと足を踏み入れる。
レオナさんの話ではこの先、森の奥に木のない広場のような場所があるらしい。作戦通りに事が進めば、その場所で戦うことになるのだろうが……とりあえず今は、指示通りに依頼をこなそう。
ヨモギを通じて周囲の風の流れを探る。森林の木々を揺らす風に紛れて、微かにだが人の息遣いも感じ取れた。
ただこれから天気でも悪くなるのか、先ほどから少々風が強くなっている気がする。これでは、周囲に隠れる敵と味方、その両方の正確な位置まではわからない。
大まかに、これから向かう先と、俺のだいぶ後方に人がいることがわかる程度だ。
「さっすがヨモギ。風の精霊を名乗るだけのことはあるな」
『キュッフン!』
ほれ、と残っていたヴェントベリーを一粒投げてやれば、左手の紋章から飛びだしたヨモギがそれをキャッチすると俺の頭の上で頬張り始めた。
そんなヨモギに、「余裕そうだなぁ~」と若干の呆れと頼もしさを感じながら歩を進める。
後方の人の反応は、ゆっくりと、しかし着実に俺との距離を詰めていることがわかる。俺もだいぶ森の奥へと進んだつもりだが、ここまでくれば俺を付けてきているんだと断定してもよさそうだ。
どうやら、レオナさんの作戦は上手くいっているらしい。
「よし、ならもう少し油断してもらうために……依頼通りに進めますか。ヨモギ、頼むぜ」
『キュキュ!』
任せろ! ともう一つヴェントベリーを要求しながら尾を揺らすヨモギに、俺は追加でヴェントベリーを投げ渡す。
そして予定地としている広場にたどり着く直前で立ち止まると、近くの魔物たちの討伐を開始する。
討伐、とは言っても相手にするのはゴブリンやコボルト、オークといったファンタジーでも定番の魔物たちだ。
これらは基本的に人とコミュニケーションは取れないし、出会ってしまえば見境なく襲い掛かってくる人にとっての脅威であるため、遠慮なく討伐を進めていく。この中で最も強い魔物はオークであり、冒険者の等級であれば七級……つまり、冒険者ギルドで登録したあの時に戦った男が相手にする魔物である。
「まぁ、そのレベルなら俺とヨモギには問題ないんだがな」
『キュキュッ!』
ドスンッ、と風の刃によって袈裟切りにされたオークが倒れる中、当然だと言うように俺の周囲を走り回ってから頭の上でふんぞり返るヨモギ。オークといえば豚のような顔をした魔物で、その体長は二メートルを超えるうえに、太ったような体は耐久性抜群。
ちょっとやそっとの剣戟では致命傷に至らず、しかも相手はその辺の岩を砕く力がある危険な魔物だ。討伐するなら、刃が内部まで届きそうな首から上を狙うか、凄まじい力で厚い体ごと斬り伏せる他ないだろう。
まぁ、ヨモギと俺の魔法の前には、大した妨げにはならないのだが。
「さて、それじゃあ討伐証明の部位を回収して――」
「ずいぶんと調子がいいみてぇじゃねぇか」
倒れたオークに近づき、討伐証明となる耳をはぎ取ろうとしたその時。背後の木から姿を現した男の言葉に、俺はピタリとその足を止めた。
振り返って見てみれば、そこにいたのはいつかの山賊……《地砕き》のフォルゲリオと名乗っていた大男。
「……なるほど。あんたか」
「へぇ? その様子だと、こっちには気づいてたみてぇだな」
「風のおかげでな。もちろん、俺をつけてきていたのが、あんた一人じゃないこともわかっている」
そうだろ? とフォルゲリオの周囲へと目を向ける。すると、にやりと笑みを浮かべたフォルゲリオに合わせて、彼の背後の木から続々と武器を手にした男たちが現れた。
数は二〇ほど。人特徴的なのはその姿だろうか。皆が皆、顔を隠すための覆面をつけているのだが、それに反して防具はしっかりとしたものを身に着けていた。
いささかアンバランスなようにも感じるそのいで立ちには、ついつい俺も眉をひそめた。余程顔バレしたくない、ということなのだろうか。
「……ずいぶんとまぁ、集めたもんだな。おまけに、前とは武器が違うときた。俺相手に対策でも練ってきたのか? あの時あれだけ調子づいてたやつが、えらく弱腰じゃないか」
「ハッ、言ってろ。その減らず口、お前の体ごと叩ききってやる」
以前の大鎚はどこへやら。フォルゲリオは背中に担いでいた武器を抜いて構えた。
フォルゲリオ自身かなりの大男であるが、そんな彼の身の丈を超える大剣が奴の新たな武器らしい。
(ギュゥウウ……)
「……? ヨモギ?」
フォルゲリオが大剣を構えると同時に、脳内から今まで聞いたことがないヨモギの唸り声が響く。
その鳴き声に戸惑いながらも、ヨモギが警戒しているものを注視する。どうやら、あの大剣を相当警戒しているらしい。
これほどヨモギが警戒するということは、何かしら特別な武器なのだろう。ならば、以前の大槌から武器を変えた理由にも納得できる。十分に注意することを了承し、魔法の準備に取り掛かった。
(さて、ヨモギ。準備は良いか?)
(キュキュンッ!!)
じりじりと、フォルゲリオ以外の男たちが俺を包囲するように距離を詰める中、俺は念話でヨモギと会話を続けながら、タイミングを見計らう。
そして――
「てめぇら! ぶっ殺せ!!」
「【砂塵嵐】!!」
フォルゲリオの合図と共に、俺に襲い掛かろうと動き出した覆面の男たち。しかし、彼らが動き始めるとほぼ同じタイミングで、俺は地面に拳を叩きつけた。
瞬間、俺の周囲にいくつもの巨大な旋風が現れた。旋風は地面を削り、砂や石ころを巻き込んで、たちまち天まで登る竜巻へと姿を変える。
突然目の前に現れた風の壁を前にして、覆面の男たちは足を止めた。だがしかし、ただ一人、そんな嵐にも怯まず真っ直ぐ大剣を担いで飛び込んでくる人影があった。
「こんなもんで止められると思うんじゃねぇぞ!!」
砂塵の壁をも融合者特有の強靭な肉体で突破するフォルゲリオ。そんなフォルゲリオに向けて、俺は先ほど倒したまま放置していたオークの死体を蹴り上げ、魔法で作り出した突風でフォルゲリオに向けて吹き飛ばす。
オークほどの巨体がかなりの速度で飛んでいくその様子は、ぶつかればただでは済まない威力があるはず。しかし、そんなオークの死体をフォルゲリオはあっさり斬り捨てると、そのまま俺へと向かってきた。
他の覆面の男たちも、そんなフォルゲリオの姿を見たからなのか、彼と同じように【砂塵嵐】の中へと飛び込んでくる。どうやら彼ら全員、融合者であるようだ。
「【飛翔】」
「逃げてんじゃねぇぞ!!」
そんな彼らの姿を確認した俺は、迷わず魔法を使ってふわりと地面から少しだけ浮かぶび上がると、そのまま移動を開始する。
木々の間を滑るように移動する俺の後を追って、フォルゲリオや覆面の男たちもかなりの速度でついてきた。
しばしの低空飛行。そしてついに、俺は目的地であった広場へと飛び出した。
「なっ、これは……!!」
「へっ、やっぱりそうだよなぁ……!」
俺を追いかけて森から広場へと飛び込んできたフォルゲリオたち。しかし覆面の彼らは、広場に広がる光景を前にして動揺したように足を止める。
唯一フォルゲリオだけはわかっていたような口ぶりをしているが、あれの相手をするのは俺だ。その他は他に任せよう。
「レオナさん! 他の奴らは融合者です! 十分注意してください!」
「ああ、ありがとうコンゴーくん! お前たち! わかっているな? 今ここで、我ら魔法使いの意地を見せてやるぞ!!」
『ウォオオオオオオオオオオ!!!!!!』
広場にて待機していたマギカスタ騎士団の魔法使い。今回の作戦のために、この広場近くで待機していた一〇〇人の魔法使いが、先ほどの【砂塵嵐】を合図にここへと集ったのだ。
彼らを指揮するレオナさんの言葉に、他の魔法使いたちも己の杖を掲げて声を張り上げる。一〇〇人の魔法使いたちの咆哮は、飛び出してきた覆面の男たちをさらに戸惑わせる。
そんな中、フォルゲリオはまっすぐ俺に視線を向けた。
「一対一ってかぁ? なら今度こそ、てめぇの体をぶっ潰してやらぁ……!!」
「やってみろよ。今度は返り討ちにして、逆さ吊りにでもしてやる!」
応援よろしくお願いします。




