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第18話:マギカスタの宝具

 なにがなにやらあまり詳しくわからない俺だったが、とりあえず落ち着いて話せるところで話がしたいということで、そのまま用意されていた馬車に乗せられてアニモラまで帰還することとなった。


 ギルドへの依頼の終了報告をした方がいいのではないかと思ったが、レオナさんたち騎士団の方が報告してくれるらしい。そのため、このまま話し合いの場へと直行する。


 ではどこへ連れていかれるのかと思えば、高台となった街の中心にある洋館……つまり、マギカスタ家の屋敷であった。


(こ、こんな訳のわからない形で、マギカスタ家と関わりを持ちたくはなかった……!)


(キュウ)


(興味なさそうだけど、ヨモギも当事者だからな?)


(キュ~?)


 対面に座るリゼさん……改め、リーゼインさんの睨むような視線が向けられる中、俺は決して目を合わせないようにと馬車の窓からずっと外の景色を眺めながらヨモギと念話で話す。

 気分は売りに出される子牛の気分だ。ドナドナ~。


 坂道を上がる間も大変気まずい空気が続く中、ようやく馬車が止まる。外から「到着しました」という、御者を務めてくれていたレオナさんの言葉が聞こえた。


「さ、行くわよ」


「はい……」


 先に出ていくリーゼインさんの後を追って馬車を降りれば、目の前には空からも見えていたあの大きな屋敷が建っていた。さすが貴族、アニモラで見たどんな家よりも大きい建物だ。


 さっさと先を行き屋敷の中へと入っていくリーゼインさんと、屋敷の従者らしき人に馬車を預け、「ついて来てくれ」と俺を促してくれるレオナさん。

 歩き出そうとしたその時に、ビュゥッ! と強い風が吹いたことに驚くと、その風に喜んだのかヨモギが紋章から姿を現して頭に乗り、『キュンッ!』と元気に鳴いて後ろを向いた。


 その鳴き声につられるように振り返れば、眼下にはアニモラの街並みが広がり、街中の植物が風に揺られている様子が目に入った。

 ここがアニモラで一番高い場所にあるからだろう。綺麗な街がよく見える。


『キュン』


「……そうだよな。なにも、悪いことばかりじゃないよな」


 なぜこんな場所に連れてこられたのか、俺が何をしてしまったのか。いまいちわからないことばかりであり、しかも友好的に関係を持てればと考えていたマギカスタ家……その娘に悪印象を持たれていることに気落ちしていたことはたしかだ。


 しかし裏を返せば、会うまでに時間がかかるはずだった貴族と、直接こうして話す機会ができたも同然。悪印象を持たれてはいるが、俺の頑張り次第で好印象に変えられる。無関心なまま、関係も持てずに終わるよりかはよほどいいだろう。


「ありがとうな、ヨモギ。俺、頑張るよ」


『キュ~』


 バシッ! と両頬を叩いて気合を入れ直す。

 突然の行動に「どうしたんだ?」と困惑気味のレオナさんには、「大丈夫です!」とだけ伝えた。


 そしてレオナさんに連れられて、俺は話し合いの場へと足を踏み入れるのだった。





「では、簡単な経緯から話そう。コンゴーくんにも、なぜこうなっているのかを知る権利があるからな」


「お、お願いします」


 少しばかりの緊張を伴って案内されたのは、応接間のような部屋だった。

 すでにスタンバイしていたのか、部屋の奥の席に座って腕組をして待っているリーゼインさん。俺はレオナさんに促されるまま、リーゼインさんの対面の席に座った。


「まず初めに、コンゴーくんとリーゼイン様のお二人にも念頭に置いておいてもらいたいのは、我々マギカスタ騎士団がコンゴーくんを害する意志はないということだ。むしろ、君の味方だと思ってくれていい」


「あの、それはいいんですけど……対面の方の視線は何とかなりませんかね?」


「フンッ!」


 リーゼインさんの後ろに立って説明してくれるレオナさんの言葉に、おそるおそる手を挙げて言えば、リーゼインさんは不機嫌そうに鼻を鳴らしてそっぽを向いてしまった。

 これに対してレオナさんは、「リーゼイン様……」と額に手を当ててため息を吐く。


「だ、だって仕方ないじゃない! 本来なら、私が契約するはずだった精霊なのよ!? それを横から搔っ攫われたんじゃ、納得できるはずがないでしょ!?」


「リーゼイン様。お気持ちはわかりますが、その不満をコンゴーくんにぶつけるのは間違っていますよ。そもそもの話、マギカスタの宝具を盗まれた我々騎士団の落ち度でもあります。叱責であれば、後でいくらでも私が聞きましょう。ですので、リーゼイン様。まずは話を聞いてください」


「わ、わかったわよ……」


 しぶしぶ、といった様子で大人しくなったリーゼインさんは俺へと向き直ると、「あなたも、ごめんなさい」と小さく謝ってくれた。まぁまだ納得こそしていないようだが、俺も状況を知りたいためひとまずは謝罪を受け入れておく。


「コンゴーくんも知っているかと思うが、マギカスタ家というのは、代々優秀な魔法使いを輩出している名家でもあらせられる。特にその当主である魔法使いは、他を圧倒する程の力を持ち、まさに一騎当千とも噂されるほどの魔法使いも多い」


「あー……たしか、先代の当主様がすごい魔法使いだったと、騎士団の方たちから聞きました。アニルダ様、でしたか?」


「そうよ。アニルダ・アニモラ・マギカスタ。私の祖父であり、国一番だった風の魔法使いよ!」


 フンス、となぜか得意げな様子のリーゼインさん。そんな彼女の言葉に、「その通りです」と優しい笑みと共に頷いたレオナさんは先を続けた。


「ではなぜ、先代当主であるアニルダ様がそれほどまでに強力な魔法使いであらせられたのか。もちろん、アニルダ様の資質が素晴らしいこともあるが、やはり一番の要因はアニルダ様が契約された精霊の存在が大きいだろう」


「精霊……」


 その言葉に、俺は左手の紋章へと視線を向ける。

 興味がないのかヨモギは先ほど外へ出たっきりで、今は完全にお昼寝している真っ最中である。起きるつもりなどまったくないらしく、今もキュウキュウという小さなかわいらしい寝息が頭の中で響いている。


「そしてその風の精霊は、当主様が代変わりする際、とある宝具へとその身を宿すことになるんだ。歴代の当主様たちは、精霊に認められ次第その精霊と契約を交わし、そして再びマギカスタの当主として、また魔法使いとして代々その絶大な力を世間に知らしめてきた」


「なる、ほど?」


 少しだけ話がややこしくなってきたように感じたため、頭の中で簡単に整理する。要するに、マギカスタの当主が代々その精霊と契約を交わしてきたことで、魔法使いとして名を馳せていた……ってことだよな? 宝具ってのは、その精霊の家的なもので、マギカスタが大事にしてきた家宝みたいなものってところか?


 そのことを口にすれば、レオナさんは「合っている」と頷いた。


「さて、本題はここからだ。話は一週間と少し遡るんだが……その風の精霊を宿した宝具が、何者かの手によってマギカスタ家から盗まれた」


「……え?」


「宝具を盗んだのは、元ヤニスーイ家の騎士でもあった《地砕き》のフォルゲリオを頭目とする山賊団……とのことだ。私を含めた宝具の奪還部隊は、宝具が盗まれた翌日に《地砕き》たち山賊団のアジトへと向かった。だがそこで見たのは、すでに何者かによって捕縛された《地砕き》たち山賊団の姿のみ。肝心の宝具は、どこにもなかった」


 話を聞くにつれて、どんどん自分の顔が引きつっていくのがよくわかった。そんな顔を見たのか、対面のリーゼインさんの表情もどんどん険しいものへと変貌していく。


(ヨモギさーん! なぁヨモギさーん!? な、なんかめちゃくちゃ身に覚えしかないんですけど、ここから何とかなる保険ってないですかねヨモギさーん!?)


(……キュ、キュッフン)


(お前も当事者だけど!? なに知らんぷりしてるんですかね!?)


 念話で必死に語り掛けるも、ヨモギは知ったこっちゃねぇとばかりに無視してくる。お、お前そんなにかわいいしあれだけ頼りになるのに、なんで契約者の俺がピンチの今、心配の一つでもしてくれないんですかねぇ!?


「……顔色、悪いわね。なにかやましいことでもあるんじゃないの?」


「ヒェッ、べ、別にそんなこと、何にもないですけど……」


「嘘おっしゃい! 挙動不審なんて怪しくみえて当然でしょ!? さぁ、洗いざらい吐いて、私にその精霊を返してもらうわよ!」


 バンッ! と俺との間にある机を叩きながら立ち上がったリーゼインさんは、そう言って「さあ! さあ!」と手を伸ばしてくる。そんな彼女の態度に冷や汗ダラダラの俺は、後ろに控えて困り顔のレオナさんに視線をお送って助けを求めた。


「リーゼイン様……話は最後まで聞いてくださいと、そう言いましたよ」


「でもどうみたって怪しいじゃない!」


「次期当主となられるのであれば、冷静に話を聞いて判断する力も大事な能力です。決めつけで行動すれば、手痛いしっぺ返しを受けるのはリーゼイン様ですよ?」


 とにかく最後まで聞いてください、とレオナさんが着席を促せば、リーゼインさんはしかめっ面のままポスンと腰を下ろした。

 なんかこう、貴族のお嬢様って言うのはもっとお淑やかで可憐なイメージがあったんだが……この人、かなりのはねっかえりだ。失礼だとは思うが、想像していた貴族のお嬢様という感じがまったくしない。


「すまない、コンゴーくん。ただ最初に言った通り、我々は君を宝具を盗み出した犯人だと思っているわけではないんだ。そこだけは理解してほしい」


「は、はい……そういうのなら……」


「ありがとう。さて、話を戻そう。当然、盗まれた宝具がないとなれば、マギカスタ騎士団として宝具の捜索を行うことは当然のことだ。だが手掛かりが何一つないときた。騎士団としても、これ以上の捜索は困難だと諦めていたんだが……そんな時、とある話を耳にしてね。魔法使いが融合者を圧倒した、なんて話だ」


「あ……」


 言われて思い出したのは、ギルドで七級の冒険者と戦った時のことだった。どうやらあの話がレオナさんたちマギカスタ騎士団の耳にまで入ったらしい。


「最初は耳を疑ったんだ。年若い魔法使いというだけでも珍しいんだが、その魔法使いが不利だといわれる戦いで圧倒的な勝利を収めたとね。その話が本当であれば、マギカスタ騎士団として興味を持っても不思議じゃないだろ? 当然、何とか勧誘できないかと君のことをある程度調べさせてもらったんだ」


 なるほどなぁ、と納得しながらレオナさんの話を聞く。

 たしかに、魔法使いになろうという若者がいないといわれている状況下でそんな話を聞けば、そういう話を持っていこうとするのも当然だろう。実際、門番をしていたおじさん騎士にも紹介状を書いてもらったほどなんだ。


「そしたらどういう偶然か、どうやら君は私たちが《地砕き》から宝具奪還に向かったタイミングで、私達が討伐隊が利用した道を通ってきたらしいじゃないか。しかも、盗賊に襲われもしたんだろ? しかもあの《地砕き》を相手にして逃げ切ったとも聞いている。ならば、あのアニモラまでの一本道、私たち宝具奪還部隊と出会っていないなんてことにはならないはずなんだ」


「その……街道じゃなくて、森を通ってきたという可能性は?」


「一応、森の浅いところまでは宝具奪還部隊の者が入っている。それより奥を進んできたというのならわからないが、門番の報告では土で多少の汚れはあったが身ぎれいだったと聞いている。あの辺は、衣服に着く植物も多いからな」


 そんなん知らんやん、と内心で文句を零す。まぁ森になんて入っていないので当然なのだが。

 しかし、よくまぁそんなに考えるものだ。


「そういう諸々の事情で、我々は君に興味を持ったわけだ。盗まれ、行方知れずになった宝具に、君がこの街へとやってきたタイミング。さらには、融合者をも圧倒する魔法使いとしての力。もしかしたら、盗まれた宝具と何か関係があるかもしれないと思って、君との接触を図ることにしたんだ」


「それが今回の指名依頼……ということですか?」


「そうなる。君がどういう人物なのかを知るため。そして叶うのならば、もう一つの目的のために、君を街の外へと連れ出す依頼で指名したんだ」


 そう言って、レオナさんは懐を探り、手にした何かを俺とリーゼインさんの間にある机へと乗せた。


「これは……」


「《風宝石の首飾りアエルラピス・ペンダント》! やっぱりあったのね!」


 それはヨモギがもともとの住みかとしていた宝飾の首飾り。

 宿の部屋に飾っていたこれがどうしてここにあるのかとレオナさんに聞けば、彼女は俺に謝ったうえで宿の部屋を調べたことを告げた。宿の主人であるロン爺さんには、ちゃんと許可を得たうえで調べたらしい。


 俺を宿から出し、部屋の中を捜査するための依頼でもあったようだ。


「君を騙し打ちするような形になってしまったことについて、まずはこちらから謝罪させてほしい。申し訳なかった。そのうえで、重ねてお願いするような形になって心苦しいのだが……どうか、君の事情についても話してもらえないだろうか」


 そう言って突然頭を下げるレオナさんの言葉に、俺はどうしていいのかわからず狼狽える。本来であれば、突然異世界に着た挙句山賊団に捕まり、成り行きでヨモギと契約した俺は被害者のようなものだと言ってもいいだろう。

 リーゼインさんが言うように、今更返せなどと喚かれてもどうしようもない問題だが……こんなふうに頭を下げられてしまうと、なんだか俺自身にも少し非があったようにも感じてしまう。


 そんな、何ともいえない罪悪感を感じた俺は、異世界から来たこと以外の事の顛末をレオナさんたちに話すのであった。

応援よろしくお願いします。

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