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第16話:指名依頼

「【水よ集い、固まり、敵を穿つ球と成せ】!」


 マギカスタ騎士団の魔法使いが突き出した掌に、周囲の空気から集まった水が球状になって浮遊する。

 そしてある程度の大きさになった水の球は、前方からこちらに向かって襲い掛かろうとしていたゴブリンに狙いを定め、勢いよく宙を駆けた。


 バチュンッ! と着弾と同時に水が弾けてゴブリンの体に穴が開くと、ゴブリンは呻き声を上げて後ろ向きに倒れる。


「おお! 俺以外の魔法使いの魔法、初めて見た!」


「ハハハッ! どうだ、すげぇもんだろ!」


 俺が感心して声をあげる傍らで、魔法を使ったおじさん騎士が胸を張り、杖を腰にしまいながら誇らしげに笑った。


 現在俺は、アニモラ近郊の森でマギカスタ騎士団とともに巡回を行い、魔物を見つけ次第討伐する指名依頼の真っ最中。まずはマギカスタ騎士団の魔法使いが見せてくれるということなので、俺は待機して彼らが魔法を使う様子を見学させてもらっていたのだった。


 おじさん騎士……俺がアニモラへ来た際に門番をしていたあのときのおじさんは、「じゃあ次はコンゴーがやってみろ」と俺の背中を叩く。

 同じ魔法使いではあれども、冒険者としてはまだまだ新人の一〇級だからか、それとも若い魔法使いが俺しかいないからだろうか。マギカスタ騎士団の人たちからの扱いはかなり易しいような気がする。


 個室で見た仮面フードの騎士の女性も、俺と年が近いような気がしたが、彼女も俺と同じような扱いを受けているのだろう。


「気を抜くな! 魔物はまだ残っているぞ! 各員、詠唱の隙を狙われないようにタイミングをずらして魔法を放て!」


「「「了解!!」」」


 後ろからレオナさんの指示が飛び、それに呼応した騎士たちが指示通りに動く。さきほどから繰り返されている行動だが、指示を受けてから実行に映り、そしてその指示通りに動く様子は、素人目に見ても無駄がないように見える。


 その組織立った見事な動きに、俺とヨモギは思わず感心してしまった。


「よーし……」


 購入したばかりの服の袖を捲り上げながら、腕を回して気合を入れる。せっかく他の魔法使いの人たちがいる前なんだ。俺もかっこいい詠唱をお披露目し、俺とヨモギの魔法の凄さを見せつけてやろう!


(キュンッ!)


(やるぞヨモギィ!)


 他の騎士の人たちがゴブリンを討伐する中、その群れの奥にひおきわ大きな影を発見した。

 よくよく見てみれば、それはゴブリンではなくオークと呼ばれる魔物。ゴブリンと同じ緑色の肌をしているが、痩せた子供のような姿をしたゴブリンとは違い、でっぷりと肥え太り、二メートルを超える体躯を持つ。


 冒険者の等級で言えば、ゴブリンが九級相当なことに対して、オークは七級に値する魔物だ。本来一〇級の冒険者では倒すことは難しい。


「【風の息吹よ、刃と成りて駆けろ】【風刃】」


 まずは牽制。集めた風が周囲に滞留し、計四つの刃を形成すると、その狙いをオークに定めて飛び出した。

 弾丸のような速度で飛ぶ風の刃は、こちらへと歩いていたオークが何か行動を起こす前に到達すると、容易くその両手両足に深い傷を刻み込んだ。


 途端、痛みでオークが咆哮をあげ、周囲にいたゴブリンやその相手を務めていた他の騎士団の面々もオークへと目を向ける。

 そこを、狙い撃つ!!


「【左手に集いし風よ、怒りの嵐と成りて、敵を弾け】【疾風弩闘(しっぷうどとう)】!!」


 左腕を突き出し、真っ直ぐオークを狙い撃つ。

 放たれた風の矢は、周囲のゴブリンたちを巻き込みながらオークへと着弾。同時に嵐のような風を爆発させ、オークやゴブリンたちを空高くへと巻き上げた。


 次々に空から落ちて動かなくなる魔物たちの姿に、周囲の騎士団の方々の目が零れ落ちそうになるくらい見開かれる中、俺は拳を突き上げて「しゃー!」と一人喜びの声をあげるのだった。





 日が暮れる頃にはアニモラ近郊の森での魔物討伐も落ち着き、テントを張っても問題ないと判断して野営の準備に入った。もちろん用意してもらった分、手伝いは積極的にやるのが当然のこと。


 討伐依頼や野営準備なども通じて、マギカスタ騎士団の方々とはかなり親睦を深められたようにも感じている。


「ほらコンゴー! これも食っとけ! まだ若いんだから、もっと食ってでっかくなれよ!」


「バーカ! こいつはもう十分でかいだろ! 俺より背も筋肉もしっかりしてやがるんだぜ!? お前本当に魔法使いか!?」


「この体、戦士って言われたら信じるもんな……」


「いやぁ、それほどでも!」


 食事の際、俺の周りに仲良くなったおじさんたちがわらわらと集まると、食料を次から次に俺の皿へと載せていく。

 魔物討伐の際、森で動物でも狩ったのだろう。しっかりと焼かれた肉が山となる様子に、思わず「おお……!」と声を零した。香草と一緒に焼いたのだろうか、食欲をくすぐるいい匂いがしている。


 野営で、しかも依頼中。それにかなりの報酬をもらうことになっているというのに、こんないいものを食べていいのだろうか。


「遠慮するなって! そんなでかい体なんじゃ、一人分だと少ないだろ?」


「そうそう。それにまだ一〇級の冒険者なんだって? ならまだいいもん食うには稼ぎが少ねぇだろ? 今のうちにたらふく食っとけ!」


「まぁあれほど……アニルダ様を思い出させるほどの魔法を使えるんだ。冒険者の等級なんて、すぐにでも上がるだろうさ」


 その言葉に他の騎士たちも「だよなぁ」と同意するように頷いた。一方俺は、「アニルダ様?」と初めて耳にした名前に首を傾げるのだが、それを見かねたのか門番だった騎士のおじさんが「ああ」と口を開く。


「そういや、お前さんは出身がアニモラとは別だったな。アニルダ様は風の精霊と契約を交わした偉大なる魔法使いであり、先代のマギカスタ家の御当主様でもあらせられたお方だ」


 なんでも融合者が登場する以前において、そのアニルダという人は風の魔法使いとして最強を名乗っていたほどらしく、数千にも及ぶ敵兵をたった一人で退けてしまうほどの魔法使いだったとのこと。


 まさに伝説とも呼ばれる魔法使いであり、このアニモラに住む者にとっての英雄。


「だってのに、最近の若い奴らはそんなことも忘れてやがる。くそっ……それもこれも、融合者なんてものが出てきやがったから……」


「そうだな……おかげで、俺たち魔法使いの立場は昔とはえらい違いだ。魔法使いよりも簡単になれる上に、その魔法使いよりも強い戦士。今じゃ魔法使いになりたいっていう奴が少なくなった」


「この騎士団も、ほとんどが四十代以上だもんな……そりゃ弱るってもんよ」


 先ほどとは一転して、いきなり暗い話を始めた面々。しかし「だが!」と再び元気を取り戻した彼らは、一斉に俺の背中をバンッと叩いた。


「コンゴーみたいな奴がまだいるんだ。俺たちも落ち込んでばっかじゃいられないな!」


「それに、俺たちの魔法はまだまだ負けてねぇ!」


「ああ。融合者なんて何するものぞ。魔法使いとしての誇りを胸に、まだまだ頑張ろうじゃないか!」


「そうだろうコンゴー!」とテンション高めのおじさんたちがはしゃぐ中、俺は左手の紋章から出てきたヨモギと一緒に肉を頬張りながら「そっすね」と気のない返事を返していた。


 いやだってこの肉野生産だからか、なかなか嚙み切れないんだ。つい食べる方に集中してしまうのも、仕方ないことだと思って大目に見てもらいたい。


「ああ、コンゴーくん。こんなところにいたんだな」


「あ、レオナさん」


 嚙み切れない肉に悪戦苦闘していると、マギカスタ騎士団の団長であるレオナさんがやってきた。その後ろには、夜になっても相変わらず仮面とフードをつけたままのリゼさんの姿がある。


 一瞬こちらを見てビクリと驚いたように足を止めたリゼさんだったが、すぐにレオナさんの後ろに追いついて彼女の肩をつついていた。

 それに頷いた彼女は、そのままこちらへやってくると俺たちの輪へと加わった。


「どうだい、私たちの空気には慣れたかな?」


「はい、皆さんにはよくしてもらっています! それに俺以外の魔法使いには初めて会いましたし、魔法を使っている様子を見れるのは新鮮ですね」


「そうか、それは何よりだ。うちとしても、君ほどの実力ある魔法使いと共に行動できるのは大いに刺激がある」


 「そうだな?」とレオナさんが他の騎士団のおじさんたちに語りかければ、彼らは口々に肯定の言葉を返す。かくいう俺も、明日はもっとかっこいい魔法の詠唱を思案中だ。


 今回の依頼で他の魔法使いの人たちを見て、意欲がどんどん増している。ただ彼ら騎士団の魔法詠唱はわかりやすさ重視なようにも思えるため、俺オリジナルかつかっこいい詠唱を考えたい。

 今は【疾風弩闘(しっぷうどとう)】を決め技的な魔法として使用しているが、それ以外にも派手でかっこいい魔法のレパートリーを増やすのが目標だ。


 レオナさんの言葉に「ありがとうございます!」と元気に返した俺は、ふとそのレオナさんの後ろでこちらに視線を向けている……ような気がするリゼさんの様子が気になった。仮面をつけているためわかりづらいが、どうやら俺の膝の上を見ているらしい。俺も視線を落として見てみれば、そこには肉を嚙み切るのに苦戦しているヨモギの姿があった。


 もしかして、彼女にはヨモギの姿が見えているのだろうか?


 そう考えた俺は肉を食べているヨモギの両足を掴むと、ばんざいをさせてリゼさんの方へと向けてやる。すると彼女は肩をびくりと振るわせてからスッと仮面をつけた顔を背けた。


(おお……ヨモギ、どうやら彼女、お前の姿が見えているらしいぞ)


(キュゥウ?)


 本当? とばんざいをさせられたままこちらを向くヨモギに頷いてやる。しかしそれ以上の興味はないのか、手を離してやればヨモギは再び肉へと噛みついていた。どうやら今は食欲が優先らしい。


「では私たちはこれで失礼する。コンゴーくん、是非明日も存分に力を振るってもらいたい。リゼ、そろそろ行くぞ」


「失礼します」


「はい、こちらこそよろしくお願いします!」


 立ち上がって自分たちのテントへと帰っていく二人の後ろ姿を見送った俺は、その後明日も早いからと早々におじさん騎士たちによってテントへと帰された。どうやら彼らは、このまま夜番をするつもりらしい。冒険者であるため俺もやろうと思ったのだが、まだ若いんだから寝てろと言われてしまった。


 若いからこそだと思うのだが……騎士団の人たち、魔法使いだからって俺に甘すぎやしないだろうか?

 このままでいいのだろうか……と一人悩みつつも、礼を告げてテントに寝そべる。そして意外と疲れてはいたのか、数分後にはいびきをかいて眠りに就いてしまうのだった。


応援よろしくお願いします。

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