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第15話:はじめましての騎士団長

 宿を出てギルドへと向かうと、受付のミレノさんに個室へと通された。どうやら既に依頼人の騎士さんは来ているらしい。時間よりも早く来たつもりだったが、待たせてしまってはいないだろうかと焦りを覚えた。


 そしてミレノさんのノックと共に部屋へ入ると、赤髪の女騎士とローブに身を包んだ人物が立ち上がって出迎えてくれた。


「君がコンゴーくん……で、いいかな? 初めまして。マギカスタ騎士団の団長を務めているレオナだ。今日は同じ魔法使いとして、よろしく頼むよ」


 そう言って手を差し伸べてくるレオナと名乗った女騎士。

 対して俺は、いきなり団長が出てきたこと、そしてその団長さんが予想外に綺麗な人だったことに驚きながら、「よろしくお願いします」と手を握り返した。


 身長は一七〇を超えているだろうか。騎士団とのことだが、意外にも立派な鎧に身を包んでいるわけではないらしい。必要最低限の部位を守る軽鎧に、その上から羽織られた裾の長い茶色のローブ。そして腰には、剣ではなく三〇センチほどの杖が携えられていた。


「ああ。冒険者の魔法使いの力を、是非とも私たちにも見せてほしい。うちの騎士たちにとっても、きっと良い刺激になるだろうからね」


「はい! 精いっぱい頑張らせていただきます!」


 印象を良くしようとできるかぎり明るくハキハキと話せば、レオナさんは小さく笑って頷いてくれた。どうやら狙い通り、第一印象で良いイメージを持ってくれたようだ。


 ホッと一息つきたくなるが、ぐっとこらえて視線をレオナさんの背後に移す。


 部屋に入った際、レオナさんと一緒に立ち上がっていたもう一人の人物。こちらはレオナさんとは異なり、ローブのフードを深くかぶっているうえに、仮面までつけて顔を隠している。

 身長は一五〇くらいだろうか。その見た目から、男女の判断ができない。


 すると俺の視線に気づいたのか、レオナさんが「紹介するよ」とその人物へ視線を向けた。


「彼女はリゼ。うちの騎士団に所属する騎士だ。少し事情があって顔が出せないんだが、そこは許してやってほしい」


「リゼです。よろしくお願いします」


「あ……はい、こちらこそよろしくお願いします!」


 意外と可愛らしい声が響いたことに驚いたのだが、態度は崩さず頭を下げて礼をする。そう、印象だ。印象は良くしておかなければならない。プラスに働くことなら、できる限りやった方がいい。


「では、顔合わせも済みましたので私はここで。あとは騎士団の皆様にお任せします。コンゴーさん、依頼頑張ってくださいね!」


「はい、ありがとうございますミレノさん!」


 それでは、と一足早く部屋から去っていくミレノさん。

 そして残された俺と騎士団の二人は、お互い対面になって席に着くと、改めて今回の指名依頼の内容について確認を行う。


「それで、今回の依頼の詳細について教えていただけますか? 俺は魔法使いですけど、冒険者としてはまだ成りたての一〇級です。あまり強い魔物が相手だと、足手まといになる可能性も……」


「ああ、そんなに緊張しなくても大丈夫だ。今回はあくまでも、アニモラ周辺の巡回と魔物の討伐が主目的となっている。すでに解決はしたが、最近は物騒だからね。それに、噂では七級の冒険者……それも、融合者を模擬戦とはいえ圧倒したそうじゃないか。その実力があれば、心配することなんて何もない」


「あ、ありがとうございます。そんなことも知ってるんですね……」


 ギルドの中だけの話だと思っていたのだが、あの時の模擬戦の話が騎士団にまで届いていたことに驚きと喜びと気恥ずかしさがない交ぜになり、思わず苦笑を浮かべてしまう。


「もちろんだ。なにせ魔法使いが融合者を圧倒したという話は、我々マギカスタ騎士団の中でももちきりになるくらいだからな。同じ魔法使いとして、魔法使いの可能性を示してくれた君には感謝している」


「え、いやぁ……それはどうも。俺としても、そう言っていただけるのは嬉しいですから」


 それもこれも、俺と契約してくれたヨモギの力があったからこそだ。内心でヨモギに感謝を示せば、念話を通じて『キュウ』とヨモギが返す。


 しかし、話を聞けば聞くほど、この世界では魔法使いの扱いが悪いことが伺えてしまう。そのことを、少々……いや、かなり不服に感じる。たしかに、戦闘という一側面で見れば融合者とやらに劣るのかもしれないが、汎用性やできることの多さは魔法使いの方が上だろう。


「それと報酬についてだが……金貨五枚でどうだろうか?」


「き、金貨五枚!?」


 思わず声をあげ、直後にハッとして謝った。

 おいおい……今まで受けていた街中の依頼は、すべて銅貨が報酬だったんだぞ。それが、いきなり金貨五枚? それも、騎士団について行ってたった一日外で巡回と魔物の討伐をするだけで? テントと食料も騎士団の人たちに用意してもらってるのに?


(妙だな……なにか裏でもあるんじゃないか?)


 同時に、あまりにも優遇された内容に内心で待ったをかける。

 好条件が過ぎるだろう。なにせギルドで張り出されている他の等級の依頼でも、金貨が出てくるのは相当上の等級が受領可能な依頼ばかりだったはず。金貨五枚ともなれば、しばらくは依頼を受けなくても十分に生活できる額だ。


 なにか狙いでもあるのだろうか。そう思ってレオナさんの方をチラと見てみれば、どうやらこちらに目を向けていたらしくバッチリと目が合ってしまった。

 そしてなぜか微笑まれる。とっても美人だ。


(キュゥ……)


(……ハッ!? そ、そんな呆れた声で鳴くんじゃないぞヨモギィ!)


 ヨモギに言い訳をしながら、一つ誤魔化す様に咳ばらいをする。


「あの、その条件だとあまりにも俺にとって条件が良すぎる気がするんですが……」


「条件が良すぎて、信じられない……ということか?」


「いえ、そういうことじゃないんですけど……」


「まぁ、疑われるのも無理はないか。なに、理由としては簡単だよ。我々騎士団としても、君という存在には興味がある。要は、縁を繋ぐためのものだと思ってくれればいい」


 縁? と俺が首を傾げると、レオナさんはその通りだと頷いて見せた。


「先ほども言ったが、融合者にも勝って見せた君という魔法使いに、我々も注目している。しかし興味を持って調べてみれば、《雑用》などと言われているそうじゃないか。同じ魔法使いとしても、その状況には少々胸が痛むからね」


 だからこその、今回の指名依頼なんだそうだ。魔法使いが冷遇されている現在において、魔法使いのみで構成されているマギカスタの騎士団は軽んじられていると言っても過言ではないそうだが、それでも貴族が有する騎士団であることに変わりはない。


 だからこそ、ここで俺とマギカスタ騎士団の間に縁があることを知らしめることで、少しでも俺という魔法使いの立場がよくなるようにとのこと。報酬が高いのも、そのお金で見た目や装備を良くしてくれればいいという。


(な……なんていい人たちなんだ!?)


 聖人ではなかろうか。いや騎士なんだけど。

 まさか、魔法使いであるとはいえ、一冒険者にしかすぎない俺のことをそこまで考えてくれるなんて思ってもみなかった。


「わかりました。本日はよろしくお願いします! 精いっぱい、頑張らせていただきます!」


「ああ、こちらこそよろしく頼むよ。君という魔法使いが、我々マギカスタ騎士団に新たな風を吹き込んでくれること、大いに期待する」


 ちょっとそれは荷が重すぎるのではないかと思うのだが……しかし、俺とヨモギの力があれば、彼女ら騎士団に対して大いにアピールすることもできるだろう。それに期待以上の成果を出してより興味を持ってもらえれば、彼女らよりも上の立場でもある貴族、マギカスタ家と関係が持てる可能性もある。


 よろしく、と改めてレオナさんから差し出された手を握り返した俺は、先に退出して街の門まで向かうように言われ、駆け足で向かうのだった。





「……なにかわかりましたか?」


 コンゴーが出て行った個室の中、残された二人のうち赤髪の女騎士……レオナがもう一人の人物へと問いかける。

 リゼとコンゴーに紹介されていた仮面の人物は、レオナの言葉に首を横に振ると、フードと仮面を脱ぎ去ると、その翡翠のような長髪をかき上げローブから外に出した。


 フワリと、風が吹いたように広がった髪を揺らしながら、リゼ……リーゼイン・アニモラ・マギカスタは「でも」と笑みをこぼした。


「見えはしなかったけど、うっすらと反応は感じ取れたわ。私がマギカスタだからこそわかる反応なのかしら? 姿を見ていないのに、不思議なものね」


「ではやはり、彼がマギカスタ家の宝具を……」


「まだ確信は持てないわ。けど、可能性は考えておきましょう。とりあえず今の私は、騎士見習のリゼよ。よろしく頼むわね、レオナ」


「わかりました。では、作戦通りに」


 そう言って一礼するレオナに、リーゼインは苦笑を浮かべながら再び仮面をつけてフードを被り、元の騎士見習であるリゼへと戻るのであった。

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