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第13話:それぞれの思惑

「ギルドから件の人物について、指名依頼を受諾したと連絡がありました」


「わかった、報告ありがとう。下がってくれ」


「はい、失礼いたします」


 敬礼と共に部屋から出ていく騎士を見送り、一人部屋へと残ったレオナは手元の資料に視線を落とした。


 件の人物……コンゴー・ドードー。一週間ほど前に冒険者として登録した、若い魔法使いであり、街の外からやってきたとのこと。それは門番を任せていた騎士にも確認済みだ。


「……はぁ」


 一週間前のことを思い出し、彼女は深いため息を吐いた。


 マギカスタ家が奪われた宝具の奪還のため、ゼニル・ゾロアスト率いる騎士団と共に《地砕き》フォルゲリオの山賊団のアジトへ向かったあの日。


 そのフォルゲリオを含めた山賊たちは、レオナたちが赴いた時には全員が拘束され、結局マギカスタ家から盗まれた宝具は行方知れずとなってしまった。

 完全な無駄足を踏まされてしまったことに憤ったのか、ゼニル・ゾロアストは彼らの尋問を行うことを主張。本来であればアニモラを治めるマギカスタの騎士団が担当するべきなのだが、ゼニル・ゾロアストはこれを拒否。


 立場的にも彼に強く言うことができないマギカスタの騎士団は、この主張をしぶしぶ承諾し、盗まれた宝具の行方を追っていたのだった。


 そして、ようやく見つけたのが件の少年……コンゴー・ドードーと名乗る魔法使いであった。


「偶然……というには都合がよすぎるな」


 彼がアニモラへとやってきたのは、ちょうどレオナたちがアジトへ向かい、そして《地砕き》の率いる山賊団が壊滅した日。そして彼がアニモラへと入った門は、その《地砕き》たちのアジトへ続く道だ。


 もしも街道を通ってアニモラへ来たのであれば、タイミング的にも、レオナたちと鉢合わせていなければおかしいのである。


 ではなぜ出会うことがなかったのか。それは街道を使わなかったと考えるのが自然なことだろう。ならその手段は? わざわざ街道を通らずに森の中を抜けてきたのか、あるいはもっと別の手段を使ったのか。


 たとえば、空を飛んできた、なんてことも。


「馬鹿馬鹿しい、とは否定ができないのがな」


 さらに資料へと目を通せば、件の少年は融合者である冒険者と試合をして勝ったとも聞く。

 冒険者等級は七級であるため、そこまで強いわけではないだろう。熟練の魔法使いであれば、勝てる可能性のある相手ではある。


 だが、内容を読む限りでは、件の少年は融合者であるその冒険者を圧倒したのだとか。


 普通では考えられない快挙。

 本来、魔法使いとなるためには妖精との契約が必須だ。しかし、妖精は儚く無邪気な存在。いわば生まれたばかりの子供のようなものだ。


 そのため、契約したばかりでは契約した魔法使いのイメージを理解できず、詠唱によるイメージの補助も大した効果が得られない。契約を通じて妖精が学び、魔法使いのイメージや言葉を理解してようやくまともな魔法が使えるようになるのだ。


 だからこそ、融合者という存在が出てきたことで魔法使いの立場が弱くなっているわけだが……それは今は置いておこう。問題は、融合者に勝つまでの実力を持つにしては、若すぎるということだ。そしてそれが圧倒したということであれば、なおのこと。


 あり得ないことだ。だがしかし、その少年が契約したのが妖精でないのなら……話は変わる。


「精霊契約。やはり、この少年が……?」


 妖精よりも強大な力を持つ精霊。もし契約を交わしたのが精霊であれば、《地砕き》を含む融合者を倒したことも、空を飛んだことも納得のいく話になる。


「代々、マギカスタ家の当主にのみ契約が可能だったという風の精霊。その力は妖精を遥かに凌駕し、契約した魔法使いには風の加護が与えられるというが……」


 融合者という存在が現れたことで、魔法使いの立場が弱くなってから数十年。先代の当主であったアニルダ・アニモラ・マギカスタを最後に、マギカスタ家は風の精霊との契約ができていない。

 故に風の精霊は、宝具である《風宝石の首飾りアエルラピス・ペンダント》で眠りに就き、いつか来るマギカスタ家の契約者を待っているはずだった。


 その風の精霊が、マギカスタとは何の関係もない者と契約した?


「……いや、断定するにはまだ早い」


 資料を仕事机へ置いたレオナは窓際へと歩み寄ると、窓を開けて外の世界を見渡した。

 もうすぐ陽が沈むというのに、まだ幼い子供たちが遠くの広場で遊んでいる様子が目に入った。


 どの子供も、皆剣に見立てた木の棒を片手に遊んでいる。その様子に少しばかり寂しさを感じたレオナは目を伏せ、そして思考を切り替えた。

 今の最優先事項はその少年である、と。


「ゾロアストの者がいない今が、我々が動くことのできる好機なんだ。宝具奪還の手柄は、何としても我々マギカスタの騎士団のものにしなければならない」


 あの日、ゼニル・ゾロアストに感じた違和感は今でも拭いきれてはいない。おそらくは、宝具奪還の手柄を持って何かしらの要求をマギカスタ家へ通すつもりだったのだろうとレオナは予想していた。


 だからこそ、件の少年のことはマギカスタの騎士団のみで調べなければならない。彼のことを知れば、強引な手を使って横入りしてくる可能性が大いにある。

 マギカスタ家のためにも、そしてその少年の安全のためにも、今動かなければならなかった。


 もちろん、件の少年の力がマギカスタの精霊とはまったくの別物という可能性もある。その場合は、是が非でも騎士団に勧誘したいほどだ。

 しかし、もしその力が彼女の予想通りのものであるのならば……


 ガチャリと、部屋の扉が開いた。


「話は聞かせてもらったわ」


「っ!? な、なぜあなたが……」


 指先に灯した炎で資料を焼き、それを火皿に乗せて部屋を出ようとしていたレオナは、部屋へと入ってきたその人物を見て目を見開く。

 彼女らの邂逅は、もうすぐそこに迫っているのだった。





「貴様! やすやすと宝具を盗まれるなんて、いったいどう責任を取るつもりだ!? おかげで僕の計画が水の泡になったんだぞ!?」


「んなこと知るかよ。それより御貴族様よぉ、早くこの拘束を解いてくれよ。俺たち協力者なんだぜ? この仕打ちはねぇだろうよぉ?」


 ゾロアスト家が治めるアダマーの街。

 アニモラから一日ほど馬車で移動した場所にあるこの街では現在、アニモラから山賊であるフォルゲリオたちを移送したゼニルは、彼らを牢屋へと叩き込み頭目であるフォルゲリオを相手に取り調べの真っ最中だった。


 しかし、ゼニルの取り調べは犯罪者に対するそれではなく、取り調べを受けているフォルゲリオも拘束されているとはいえ、取り調べを受けている犯罪者には見えない態度で笑みを浮かべる。


「この僕の怒りが、その程度で抑えられていることを光栄に思え《地砕き》ぃ……!! 宝具をこの僕が奪還し、その功績と共に精霊を手に入れる作戦だったんだ……それを失敗した貴様の首を、今ここで叩き斬ってやってもいいんだぞ!?」


「お? やるか? いいぜ、やってやろうじゃねぇか。拘束されているとはいえ、妖精封じじゃねぇんだ。あんた程度なら問題はねぇぜ?」


「ぐっ……」


 携えた剣の柄へ伸ばしていた手を止める。

 たしかに、現在フォルゲリオは融合者や魔法使いの力を封じる妖精封じの拘束具を付けてはいない。今彼を拘束しているのは、ただの金属の拘束具だ。

 彼にかかれば、一瞬でその拘束を外すことができるだろう。部下の騎士たちへのアピールとフォルゲリオへの配慮のための措置だったが、ただの金属の拘束具は失敗したかもしれない。


「ま、まぁいい……今はこれくらいにしておいてやる。それよりも、宝具を盗んだ男について教えろ。まさか、お前が確認しに来た貴族の男が盗んだとでもいうのか?」


「おう、そのまさかだぜ」


「……なら貴様が原因じゃないか! なぜそんなわけのわからない男を、宝具と一緒の牢屋に入れてたんだ貴様!? さっさと殺すか、無視しておけばいいというのに……!」


「うっせぇな、仕方ねぇだろぉがよ。取引を見られたかもしれねぇ以上、あんたに迷惑をかけるかもしれねぇ。それに、上等な服を着てたんだ。もし貴族なら、身代金の要求ができるかもしれねぇんだ。あと牢屋は、単純にあのアジトに一つしかなかったからなぁ」


「何から何まで……! ああ言えばこう言う男だな貴様ぁ……!!」


 ワナワナと怒りで顔を引きつらせるゼニル。だがそんな彼に対して、フォルゲリオはふてぶてしい態度で二人の間の机にドカリと足を乗せた。


「だいたい仕方ねぇだろぉ? あの野郎、精霊と契約してたんだぜ? んなこと誰も想像できねぇっての!」


「なんだ? 自分の力量不足の言い訳でもするつもりか?」


「違ぇって、まぁ聞けよお貴族様。あいつ、あんたが契約するつもりの精霊と契約してると思うぜ? その場合、あんたの計画は根本から意味がなくなるが――」


「黙れ!!」


 飄々とした態度で話すフォルゲリオであるが、そんな彼の言葉に耳を貸すつもりのないゼニル。彼は振り下ろした拳で机を思い切り叩きつけると、怒りで身体を震わせながらフォルゲリオを睨みつける。


「低俗な賊の分際で……! そんな嘘が、この僕に通用するとでも思ったか!? あの精霊は、マギカスタの者でなければ契約が結べないんだ。だからこそ、こんな計画を立ててマギカスタの娘を……リーゼインをゾロアストに取り込むんだろう!? そんなどこの馬の骨とも知れない奴が、契約を結べるはずがないだろうが!!」


「……へいへい、そうですかい」


 ゼニルの怒りの声に、フォルゲリオはこりゃダメだと諦めてため息を吐く。

 そんな彼の態度に再びイライラし始めるゼニルだったが、彼は肩をすくめて「まぁ、ちょっと落ち着けよ」とゼニルを諭す。 


 一応は、莫大な金を払うと約束をしている協力者。本来の彼であればいきなりゼニルを叩き潰してもおかしくはないのだが、殺せば金が手に入らないため、ここはまともに相手をせずに受け流す。


「とにかく、宝具はその黒髪の変わった服を着た奴が持ってんだ。さっさと探すなら、俺に付き合ってる暇はねぇと思うぜぇ?」


「っ……! 余計なお世話だ!!」


 ガンッ! と座っていたから立ち上がったゼニルは、席を蹴飛ばすと部屋から出ていく。

 その際、部下にフォルゲリオを牢屋まで連れて行くように伝えると、その部下たちがフォルゲリオを地下牢へと運び出す。

 当然、妖精封じで拘束されていると信じている騎士たちだ。フォルゲリオなら隙をつき、簡単に潰して逃げることも可能。しかし、ゼニルの手引きで地下牢から逃げられることになっているため、今は大人しくしているのだった。


 そんな中で、フォルゲリオは考える。


 次こそは、あの黒髪の魔法使いを殺してやろうと。

応援よろしくお願いします。

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