決断
王国国王と接見して間もなく、王は崩御してしまう、
その後継者として指名されたサラの兄、フィリップは悩んだ。
けれど彼は一つの決断をするのだった。
「陛下、
はじめてお目にかかります、サラ・リッチフィールド。18歳にございます」
「そなたがサラ・リッチフィールドか。大儀である」
玉座に座る老人こそが、このプードルニア王国国王であるカールトン15世だ。
その存在そのものが威厳の塊ともいうべき迫力ある人物なのだが・・・
サラと同じ聖女であるフランソワーズ・アンドレ女史によれば
「国王陛下はもう高齢ですし、いつ崩御されてもおかしくはないのです
私たち聖女の仕事は、その国王陛下のご病状の回復をひたすら祈るのです」
「解りました。私も聖女のはしくれとして皆様と共に国王陛下の病気回復を
祈ります」
「それでこそプードルニア王国の聖女です。いっしょに頑張りましょう」
「はい!」
その日からサラは王国聖女として、国王の病気平癒を祈る日々を送るのだった。
しかし・・・
そんな聖女たち、家臣たち、国民の多くが国王の病気からの回復を祈っていたが
「陛下・・・・」
「ああ・・・・・・・」
「ううううう・・・・」
【国王陛下崩御】の報は瞬時に国全土に広がり、やがて国葬が執り行われた。
国葬から数日後、
「アンドレさま。私たち聖女として国王陛下の病気回復を祈ってきましたが
その甲斐なく逝ってしまわれました。これから私たちはどうしたら・・・」
「嘆くことは有りません。私たちはこれから国と国民の平和な暮らしの為に
祈ることを続ければよいのですよ」
「解りました。アンドレさまと共に祈ります」
サラたち聖女は、変わらず祈りの日々を過ごすことになったのだった。
そのころ王宮では
亡き国王の後釜を選ぶ過程でいざこざが起きていた。
序列から言えば国王陛下の子息だが、カールトン15世には世継ぎがいなかった。
それ・・・
「正妻は若くして亡くなり、側女が居たけど子供を欲しがらなかったそうよ」
「そうでしたか」
サラと同じ聖女の先輩にあたるミレイユ・ソワレとの会話をしていると
「正妻って毒殺されたっていう噂もあるのよ」
聖女付きメイドのエマが話すのは
「とにかく美女として知られていた正妻を、前国王は一目ぼれして
なんどもアタックしてもなかなか聞いてくれない。そこで前国王は家臣に命じ
その女性を半ば強引に王宮に連れて来たんだって」
エマはゴシップ大好きなメイドなのだ。
「もともと彼女は市井に暮らす一般住民だったんだけどね。
街中をお忍びで巡回していた、前国王の目に留まっちゃったんだね」
「そうだったの。嫌々だったのね?」
「それがそうじゃないのよ。王宮に入った彼女は姑から、前々国王夫人ね。
この人からかなり嫌がらせをされたそうよ。
でも前国王がいつもその都度庇ってね。心底前国王は愛していたのね」
「だから側室が居ても子作りはしないけど、正妻もなかなか子供が出来なくて」
「それで」
周囲から早く子作りをという声を無視し正妻を愛し続けていた前国王
「でも、その周囲の声って次第に大きくなってさ、それが正妻には負担になって、
結局ストレスから病になっちゃって・・・それがもとで亡くなったの」
「かわいそうね。正妻もそうだけど前国王も」
「そうね、サラだったらどうする?」
「うーん難しいね、相手がいくら庇ってくれてもね。ミレイユも?」
「私なら、その場から逃げ出しちゃうかもね。フフフ」
結局、世継ぎが出来ないまま、この世を去った前国王カールトン15世。
「この国はどうなるんだろうねぇ」とミレイユとエマと。。。黙り込む3人。
そんなある日
フィリップ・リッチフィールド伯が王宮に召されたという情報が入ってきた。
(お兄さまが何故?)
メイドのエマと王宮内を歩いていると
「サラ!」
と廊下の先から声をかけてくる一人の立派な男性。
「お兄さま!お久しゅうございます!」
「元気だったか?サラ」
「お兄さまこそ」
このころ兄のフィリップは王国騎士団長に就任していた。
「実は執政のダグラス・ハミルトン閣下から呼び出しがあったのだ」
「執政さまから?」
「そうだ。わからないんだが、サラ。お前何かわかるか?」
「いいえ」
メイドのエマも「存じません」
「じゃあ、また後でな」フィリップは行ってしまった。
執政執務室
「ようこそ騎士団長。よく来てくれた。執政のダグラス・ハミルトンだ」
「お目にかかり光栄に存じます。
王国騎士団長フィリップ・リッチフィールドにございます」
「まぁ、かけてくれ」
そこから約2時間後
「では失礼します」
「頼んだぞ」
王宮内の騎士団控室に妹のサラを呼び出したフィリップ。
「サラ、とんでもないことになった」
「どうされたのですか?」
フィリップはエマを見て「外してくれないか?」
エマは部屋を出た。
サラは何かあると直感で感じていたのだ。
「執政さまからの話なんだが」
「はい」
「国王を継いでくれと頼まれた」
「?」
「確かにリッチフィールド家は国王家に次ぐ家柄だ。
我が家から国王をという声はあってもおかしくはない。だが・・・」
「お兄さまが国王にと言う事ですか?」
「そうだ。私は騎士団長としての任務を全うしリッチフィールド家の当主として
後につながる仕事をしたいと思っているのだ、国王となればそうは出来ない」
悩むフィリップ
「私は国王の器ではない。もっと適任者がいるはずだ。なぜ執政さまは・・・」
いつも優しく、メイドや使用人たちの信頼も厚く、リッチフィールド家の当主として
その存在はサラにとって別格なものがあるのだが。
このプードルニア王国の存亡がかかった次期国王にとなると・・・
「お兄さま、この機会ですから執政さまの依頼を受けては如何でしょう
私たち聖女が、お兄さまをバックアップします。それに騎士団もそうでしょう?
自分たちのトップが国王にとなれば彼ら彼女たちの意気も上がるでしょう」
「たしかにサラの言う通りなんだが、私には・・・」
「大丈夫ですよ。お兄さまには王としての素質、素養があります。
私たちも家臣たちも、きっとサポートしますよ」
「そうか。ではもう少し考えるとしよう」
一晩、二晩しばらく悩んだ彼は決断を下した。