傾く天秤の反対には
傾く天秤の反対側には何があるのか___。
「アリス・ラールと申します。今日からよろしくお願い致します…!」
そう言葉を発する彼女はアリス。
綺麗な金髪に青い目の、それこそ童話に登場するアリスのような容姿だ。
この国はミー大陸に位置する小さな国、ウェル帝国。ここは鉱山資源に恵まれており、昔ここを見つけた人たちが
「洞窟を見つけたぞ!」
とお祭り騒ぎしたことからつけられたという。
アリスが居るのは複数ある一ギルドのうちのひとつ、『月影の絆』
ギルドでは洞窟に現れる魔物を討伐していく。
「ど、どうしてこんなことに…」
アリスは誰にも聞こえない音量でそう呟く。
その理由は少し前、年に一度の祭りの日にある。
ウェル帝国では昔から、神の祝福を受けた者には人智を越える力が芽生えると言い伝えられている。
人智を越える力、つまり技である。
技にも色々な段階があるが、最も強いとされるものが神の祝福を強く受けた者である。
神の祝福を受けられる者はほんの一握り、その中でもわずか0.1%である。
祝福の受け方は至って簡単。年に一度にある神への感謝祭で祈りを捧げ、神に気に入られた者が技を覚醒させることができると言う。
___が、これは他国へと説明する時の言い伝えである。
本来は神に生贄を捧げ、その生贄と引き換えに神から祝福を受けるという、何とも惨たらしい祭なのである。
これはこの国に住むものしか知らず、他国から来た者はとある神の祝福を受けた者の技、記憶改変によってその記憶ごと抹消される。
そもそも祭の時には基本、他国の者は立ち入り禁止になるのだが。
そんな中で、アリスは今年、神へ捧げる生贄として選ばれてしまった。
毎年、神への生贄となる年齢としては16、17歳頃の女性が選ばれるのだが、今年は14歳のアリスが選ばれるという、異例の事態だったのだ。
この選出にはちょっとした裏側もあるのだが、そんなことを知る余地もなく___。
アリスが
「生贄に捧げられる___!」
と、そう思った時だった。
神はまだ少女であるアリスが可哀想だと思ったのか、生贄となるにはまだ幼く、充分ではないと思ったのか。
アリスへと神から祝福が降ったのだ。
棺桶に入れられた後すぐ、アリスの体がほんのり赤く発光し、技が発芽したのだ。
皆それに驚き、今年の祭は幕を閉じたのだ。
アリスに発芽したスキルは感覚共有であり、洞窟に出てくる魔物とも共有出来るため、魔物を操って倒す、なんて所業も可能なのである。
デメリットとして、自分よりも強い相手に使うと逆に乗っ取られてしまうと言う点である。
まだ14歳である彼女にとっては、殆どが彼女よりも強い存在であるため、使いこなすのは困難なのかもしれないが、使いこなせたら最強だ、とも言える。
『月影の絆』はそこまで有名なギルドだという訳では決してない。
このギルドは盾役回復役攻撃役それともう1人、好きな役を入れて戦う方針という、珍しいギルドである。
今回の場合、技要因でアリスが入った。
ギルドのお偉いさん、つまりギルドマスターからもアリスの存在は認知されており、
「強くなくとも比較的認知度が高く、管理の届く範疇であるギルドへ」
という、監視目的でのギルドの強制加入である。
「初めまして、アリスさん。俺はソラ。このギルドの盾役やってます。よろしくね。」
アリスよりも5歳ほど年齢が上に見えるその青年はソラと言い、1番最初に気さくに話しかけてきた。
手でよっ、と挨拶を作りながら話す彼は、こう見えてもとても強いのである。
「は、初めまして…あたしはソルです…ぇ、えっと、そこにいる盾役のソラの妹です…!こう見えても攻撃役やってるのです…!」
おどおどとしながら話しかけてきたのはソラ。
長髪黒髪ロングで、とても魔物の討伐など出来なさそうだ、とアリスは思った。
見た目に似合わない短剣を腰につけ、準備はバッチリだ、と言う感じだ。
「最後は僕だね。僕はストウ。普通はソルが適役だと思うけど僕が回復役をしているよ。これからよろしくね、アリスさん。」
いかにも爽やかイケメン!と言う感じの彼はストウ。
「確かでもストウって意味としては収納するとかじゃ…?」
「んっ?どうかした?」
彼には聞こえなかったようだが、他の2人には聞こえたようで、笑いを堪えていた。
「アリスさん…一旦やめよう、うん。」
「えっでも事実……」
「ダメです!それ言われたら多分傷つくのですよ!」
「はーい…」
「分かったなら良し!そして今回行く魔物の討伐の件なんだが___」
と言う感じで雑談したあと(絆された後)真面目な話へと移る。
「新しく発見された洞窟で大量発生している魔物のうちの1匹を倒す。親は俺らには到底倒せる敵ではない。だから親の近くで大量発生している魔物を倒す。」
さっきまでの雑談とは打って変わって、真剣に、かつ分かりやすく説明してくれる。
「ソラとストウはいつも通り頼む。アリスさんは出来れば感覚共有で操って欲しい。だが無理は禁物だ。操れないと思ったらすぐ使用はやめてくれ。」
「は、はい…!」
緊張していたのかどこか堅苦しい言い方になってしまったかもな、と反省した。
だが、よく考えたらギルドと言うものに入っているだけの冒険者なんだし結局はいつかは死ぬし解散する。それならば堅苦しくても良いのでは、と思ってしまった自分に気付かないふりをした。
軽い補足
ギルドでは基本、盾役、回復役、攻撃役、遠距離攻撃役の4人で構成されることが多い。
よって、『月影の絆』は珍しいギルドだと言えるということである。