陽が刺す明日の目覚めまでに
「僕たち、別れよう。」
「……は?」
「いやいや、急にそんなこと言われても……なんか嫌なことでもあったの?」
「…そうかもしれない。でも、僕じゃ君幸せにはできない。」
「なにそれ、意味わかんないんだけど。」
そう言い残し、彼女は走り去っていった。姿が見えなくなるまで見送った後、真っ白になった頭でも唯一覚えていた帰り道をたよりに帰路に着く。人生で初めての彼女で、誰よりも好きだった。でも、後悔はない。
日暮里駅から少し歩いたところにある二階建ての一軒家の前で、何も考えずに呼び鈴を鳴らす。返事はなかった。しばらく待った後、我に返り急いで鍵を外し、ドアを開ける。すると、玄関からちょうど見えるリビングの窓のカーテンが風で少し揺れ、空いた隙間から陽光が差した。それに少しの間見とれた後、リビングには行かずに、すぐ左にある自分の部屋に入る。
映画の特典でもらった、原作者特別書き下ろし漫画入り冊子と、飲み終わらず手にずっと持っていたレモンソーダを机の上に置いた後、再び玄関に向う。カーテンはもう揺れていなく、また暗くなったリビングは見ずに家を出た。
家の近くにあるコンビニでスイーツを買い、すぐ隣にある大きめな病院に着き、いつものように受付の人に案内され見慣れた部屋に向かう。扉を開けると、沈みかけた夕日に照らされ、オレンジ色に染まった部屋のベッドに座っている妹がいた。逆光で表情は分からなかった。
「暗くないか? 電気つけるぞ。」
「うん。」
明かりをつけ振り返ると、妹が落ち着いた表情でこちらに微笑みかけていた。彼女の笑顔は太陽のよう眩しく、暖かい。その顔は、昨日見た時よりもいっそうやつれて見えた。一瞬ぐっと心臓を締めつかれるような痛みが走ったが、気にせず妹に話しかける。
「今日はお前が好きなチーズケーキ買ってきたぞ。 気分はどうだ?」
「ありがとう。平気だよ。でも、昨日よりちょっと涼しいかもね。」
彼女の優しい声は1日の疲れを取り払い、彼女の表情一つ一つが元気をくれた。でも、今日はなぜかその場にいて、呼吸が辛くなるほどに苦しかった。彼女の笑顔がいつもよりも無理してるように感じたからなのか、それとも、病院を去る時、医者からもう長くはなく、いつ別れが来てもおかしくないと告げられたからなのだろうか。
そうしてしばらく歩いていると、突然街灯が消えた。停電でも起きたのだろう。付近の事故を調べながら、暗くなった十字路を曲がった途端、突然目の前に光が現れ、クラクションの音と共に、自分の体が宙を舞うのを感じた。目を開こうとしても、体が言うことを聞かない。ただ、周りが静かになり、少しずつ真っ黒になっていくのを感じることしかできなかった。
どれくらい経ったのだろうか。目は依然として開かない。もはや、初めから自分には目なんてついてなかったのだろうか、と思うほどに。すると、真っ暗な景色に少しずつ、眩しく、暖かい何かが近づいてくるのを感じた。それはいきなり話しかけてきた。
「ここはどこ?あなたは誰?」
どうやら、向こうも自分の姿が見えなく、気配だけ感じているらしい。しかし、その優しい声は決して聞き間違えることはない、紛れもなく妹の声だった。