05 弱みを見せてみましょう
〈弱みを見せる……〉これはやりすぎると頼りなく情けない男になってしまうし匙加減が難しいのよね……。
父、ブライトン伯爵と一緒の農地の視察から戻ってきたアリシアは鳩便で届いていたジョンの手紙を開いた。
『アリシアへ。弱みなんてたくさんありすぎて選ぶの困ったよ。ジョンより』
『レディキャサリンへ
昨夜、夜営をしていた見張りの者が白い影を見たと騒ぎ出しました。ここは上官の務めとしてそれが何であるか突き止めねばなりません。しかしわたしはそいうものが苦手なのです。どれぐらい苦手かというと幼なじみがシーツを被ってわたしを驚かせた事があるですが、そのあと1週間1人で厠に行けなかったぐらいです。しかしわたしも武人。がんばって白い物を確かめに行きました。続きは次回! 乞うご期待!
ジョン・バーミンガム 』
アリシアは天を仰いだ。
こ、これは……全くと言っていいほどキュンとこない……!
だいたいこのシーツの話、私が驚かせたあの事件じゃない。あの頃わたし5歳よ。ジョンは8歳。その頃から今に至るまで怖いのを引きずってるってどういうことよ。
極めつけはがんばって見回り……幼な子じゃないのだから「ぼく、怖かったけどがんばりましたー」はだめよ! 軍人なのに!
それに白いものは一体なんなの? もし……もし、危険なものだとしたら……? ジョンは大丈夫……? 手紙出してきてるんだからその時点では無事なことはわかるんだけど……。じゃあ今は……?
アリシアはペンを執った。
『これではあまり…いえ、まったくお相手はキュンとこないと思います。
例文です。
『レディキャサリン
本日夜営をしていた部下が白い物を見たと言って騒ぎ出しました。
得体のしれないものがそこにあるのなら、やはりわたしは確かめに行かねばなりません。お恥ずかしい話ですが、わたしもこういうことは怖い。中隊全員の命を預かっている身としてはそれが危険でないものとわかるまでは、とても怖い思いをしてしまうのです。 …………………… 』
ジョン、だめだわ。続きは次回ってなっているのでここまでしか書きようがないし、それよりもその白い影が気になって気になって。
白い物はなんだったの? 危険な動物? それとも洗濯物? 目の錯覚? こんなところでやめるなんてひどいわ! もったいつけないでなんだったのか教えて! 次のお題は出しません! 私宛に手紙ちょうだい!
ちょっと怒っているアリーより』
アリシアはいつもよりも雑に手紙に封をして、それを鳩に託した。
乞うご期待だなんて!
芝居の宣伝文句じゃあるまいし!
こんなの……こんなの……出されたらキャサリンが心配するじゃない……。
私だって……。心配するじゃないの……。