03 情景を盛り込みましょう
さてさて、ジョンは情景を盛り込めたかしら…ロマンチックなのを期待……
アリシアはジョンの手紙の封を切った。
『アリシアへ。意外と簡単だったよ。以下、添削よろしく。ジョンより』
『レディキャサリン
こちらは寒さは厳しくなってきましたが連日よく晴れています。そちらはいかがでしょうか。
昨日休憩時間に空を見上げてみると青空に白い雲が浮かんでいました。白い雲は次々と形を変え、腹が減っていたのでそれが骨付き肉やらオムレツやら黒スグリのケーキやらその他美味いものに見えてしかたありませんでした。レディキャサリンの好きな食べ物は何ですか?
ジョン・バーミンガム』
アリシアは頭を抱えた。青い空に白い雲。まあここまではいい。
なぜそのあと骨付き肉やオムレツになるの?
そしてとどめが
「好きな食べ物は何ですか?」
2通目でこれ…。これから知り合って行く男女の初手の質問でこれはないわ。
これやっていいのは子供よ。子供の特権なの。
「わあ〜武術大会のチャンピオンのお兄さんだ〜」
「ぼうや! こっちにおいで」
「か…かっこいい……」
「ぼうや、なんでもわたしに質問していいんだよ」
「あ…あ…あの……えっと……好きな食べ物は何ですか?」
これ!このシチュエーションよ!
この年齢にしか許されないやつよ! 25過ぎた軍人が恋人にならんとしているお嬢様に宛てた手紙の最初の質問に書くことじゃないわよ!
まあ…実際にお付き合いを始めたら訊いてもらわなくちゃ困るけど! それは今じゃない!
『ジョンへ。
お仕事お疲れさまです。
情景は、まあ盛り込めていましたね。
でも骨付き肉とオムレツではお相手がキュンとすることはないと思います。
以下
例文です。
『レディキャサリンへ
こちらは寒さは厳しくなってきましたが連日晴れております。
先日は国境警備をしてまいりました。このあたりの樹は針葉樹ですので樹形と葉の緑が大変美しい。空は青くどこまでも澄んでいて、この同じ青空をあなたもご覧になっているのかと思うと毎日の勤めも楽にこなせる気がいたします。
日々寒くなってきております。
どうぞお身体大切に。
ジョン・バーミンガム』
こんな感じでいかがでしょうか?
もちろんこの通りじゃなくても結構です。
ここからは
お手紙添削関係なしの私信よ。
黒スグリのケーキを思い浮かべたの?
昨日たくさん黒スグリを摘んできたから今から何個か焼くわね。皆さんと食べられるように多めに送るわ。一つだけお父様がロンド国から取り寄せたチョコの入ったものも作るからこれはジョンが食べてね。チョコの数があまりないのよ。目印をつけておきます。
では、
次回のお題は〈大人の文章を書いてみる〉です。
あなたの文章はまあ、私は読んでいて楽しいけれど子供っぽいのよ。
かっこよく大人っぽく書いてね!
幼なじみのアリシア・ブライトンより』
一応努力は認めなくてはね……
ん?西の国境で形を変える雲。積雲ね。
手紙届く時間を考えて今日か明日はこっちも荒れるわ……。
「お父様! 農地の干し麦はきょうはしまわせたほうがよくてよ!」
その時丁度朝食をとりに食堂に入ってきたブライトン伯爵にアリシアは忠告した。