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第0話 英雄との出会い

世界が、闇に染まった。

空が、紅く染まった。


この世界〈オルアロウ〉は、ある時突如魔族が()()した。

どこからともなく現れたそれは、居場所も発生場所も目的も分からないまま、

何百年にもわたり撃退されては数を増やし、幾度となく侵略行為を繰り返していた。


何百回と繰り返されてきた魔族による侵略だが、

今宵の来訪は、これまでのそれとは比べ物にならない規模であった。


その数、その質、そして群れの中央にある指揮官らしき存在。

魔王と呼ぶに相応しいその圧倒的な気配とオーラに、世界が悲鳴を上げていた。


魔王の放った耳鳴りのする信号とともに、魔族が1体、また1体と地上に降りていく。

空を舞う魔族の群れは、まさにこの世の終わりを表していた。



降りてきた魔族たちは街へ、村へ、森へ。

目に映るすべてを蹂躙せんと侵攻を開始する。

「魔族が来たぞ‼」「討伐隊はまだ来ないのか⁉」「パパ――っ」

土地が、家が、人が襲われ始め、そこかしこで悲鳴や怒号が飛び交っている。

こうした事態のために組織されていた魔族討伐隊は、規模が想定外であったことや前日の隊長の失踪により思ったように動けていなかった。

また、1個体ごとの強さも大幅に上がっており攻撃を受け流すだけで精一杯であった。

「こいつら、俺たちが知ってる奴らと比べ物にならないくらい強いぞ!」

「こいつらの強さは恐らくあの親玉が原因だろうな…… さしずめ魔王と言ったところか……」

「あんなバケモノ一体どうすりゃ…… くそっ、こんな時に隊長はどこ行ってやがんだ⁉」



「ハァ、ハァ…… ゲホッ」

1人の少年がその戦禍の中から逃げていた。

どれくらい歩いていたであろうか。

ついに心身ともに疲れ果てて倒れこんでしまった。

仰向けになりながら息を整え、虚ろな目で空を見ていた。


家の近くが襲撃され、家族でがむしゃらに逃げていた。

しかし、どこもかしこも被害にあっていて逃げる人たちでごった返しになっていた。

それでも必死に逃げているうちに家族と離れ離れになってしまった。

こういったときは集団行動を心掛けろ、とは父の言葉であった。

それにも関わらず、ただひたすらに逃げて、逃げた先に、人の消えた外れの村に辿り着いていた。


遠くで聞こえる喧騒をよそに、紅い空に別れた家族を浮かべていた。

今、自分は無事であるが家族はどうであるか。

今頃いなくなった自分を探しているのだろうか。

もしかしたら……、と最悪な状況も思い浮かんだ。

(僕のせいだ……)

自分が言うことを聞いていれば。

自分が強くあれば。

孤独な現状が、心が弱らせる。ネガティブな方向へ、思考が引き寄せられていく。

空にはまだ、魔族が蠢いている。

淋しさと紅い空模様が、彼の意識と心を削り取っていた……



ぼんやりと見ていた視界の先で、無数の魔族の1体が少年を捕捉した。

その魔族がにやりと微笑み、少年にめがけて飛び込んできた。

慌てて体を動かそうとするが、恐怖か疲労か体が言うことを聞かなかった。

(父さん……母さん……)

声も上げることができず、死を覚悟した少年の体を黒の一閃が貫く――


「――――!」

「ガァアアアアッ⁉」


――はずであった。

「……えっ」

自分を貫いたはずの魔族が、隣に倒れこんできたことに驚きながら。

突如として現れた、風と雷を纏った謎の騎士に目を奪われていた。


「やっと討伐隊が来てくれたのか!」「でもあんな鎧見たことない……」

「なんかバチバチしたオーラも出ているぞ」「もしかして神様の使いなのか?」

断末魔を聞いて集まった周囲の人々が漏らしたそんな会話も、少年の耳には入らなかった。

襲い掛かってきた魔族を。

絶望的な空気を。

蹂躙されるだけであった戦況を。

目の前の騎士は、一撃で変えてしまった。

羽のようなマントを纏い、鳥の紋章を鎧につけたこの騎士は、

まさしくこの世界に舞い降りた「英雄」であった。

(この人は、一体……)


英雄との出会いによる衝撃と興奮で心臓の鼓動が早くなる。

この人は誰なのか。どうしたらそんなに強くなれるのか。

僕の家族は――

「あ、あの!」

興奮のまま問いかけようとした少年は、ここが戦禍の中であることを忘れてしまっていた。

「キ――ッ!」

陰に潜んでいた魔族が少年に襲いかかる。

「っっ」

「――!」

が、少年がそれに気づいた時には再び振るわれた力によって既に無力化されていた。




「怪我はないかい、少年」

「あ、ありがとうございます……」

目の前に転がってきた魔族を見て少し冷静になって、少年が礼を言う。

根本的な問題は何も解決していない。

1人の人間が助けられ、2体の魔族が倒されただけである。

それでもその少年は、

ただ逃げることしかできず、

無力感に打ちひしがれていた少年は、

(僕もこんな風に、誰かのために、強く……)

安心感すら覚えるその騎士の強さに、どうしようもなく憧れていた。




興奮も徐々に冷め、安心からか、少年の体から力が抜けていく。

心も体も限界に近づきつつあった。

上空の魔王が先の出来事を把握し、魔族が少年のもとに大量に押し寄せてきた。

喧騒が再び戻ってくる。

臨戦態勢に入ろうとする騎士に、少年が再び問いかけようとする。

「あ、あの……」

騎士が振り返る。

「僕も、あなたのように強く――……」

言い切る前に限界が訪れて倒れてしまった。

騎士は倒れた少年に近寄って微笑みかける。


「――――――」


意識が遠のく中で、発せられている言葉をうまく聞き取れていなかった。

騎士が立ち上がり、上空の脅威と対峙する。


ひらり……


視界の端で黒い羽が舞い落ちるのを見ながら、少年は完全に意識を失った。


………………

…………

……

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