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不死王国史  作者: 近衛キイチ
コルネリットの叛乱
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神話と伝説と見分

 種族、部族、氏族、そこに住む其々が各々の存在を証明するため、自分たちが土地の正当な所有者であることを証明するため、彼らは彼ら自身のための神話や伝説という物語を持っている。

 彼らの文化や倫理観を一片でも理解せずに関わりを持とうとする行為は時間と金を浪費するだけではなく、自らの命その物を無駄にすることにもなりえる。



 カーナ地方や我々が凍土と呼んでいたディウス・ソッレで信仰される神話では、各部族により多少の違いはあるが、彼らの始祖である神獣ティモロと女神イジェスの子、英雄カーナによる宮殿内での愛憎と冒険談の物語である。

 ミリディウム地方に接する南部の部族は文明に触れることでカーナ神話の呪縛から解き放たれつつあるが、環境の厳しい北の奥地へ行く程に教義の幅が狭くなり、勇敢で野蛮であるほど死後の世界で富を得る事が出来ると信じるものだから、勉学よりも体を鍛える方を優先している。

 この蛮勇が学問よりも優先されることで、文字や話術を学び神官となった者が族長から信頼される助言者となるので、学のない戦士は政治に関わることができないために両者の間には対立が起きやすい。


 我々にとってオオカミは駆逐の対象であるが、カーナ地方に棲む未開の部族にとってオオカミはティモロの眷属とされているので、彼らを殺すことは重罪である。

 誤ってこの生物を傷つけた場合は背中の皮が裂けるまで鞭打ちされ、故意に殺してしまった場合は火あぶりによる極刑が言い渡される。

 神話の基礎部分を共有するミリディウムに住む我々でも耳を疑う慣習であるが、罪を言い渡されるより前に森の中を裸で三日間生存することができた場合、神の許しを得た者として人々から尊敬と敬意を払われる存在となる。

 彼らの心にあるのは、英雄を裏切った自分に対する罪の意識であり、カーナの血をより濃く受け継ぐと信じるディウス・ソッレの民に対する畏怖である。


 アルペニン山脈の雪解け水を利用した大規模潅水を行うアルペニアでは、大神祇官による星や動植物の観測により一年の長さは三百六十日前後とされている。

 一方、カーナでの民と日時を指定した約束をする場合は気を付けなければならない。

 その地では月の満ち欠けを基にして一年を把握しているので我々の一年より短い、さらに夜が来た回数で一日を数えるので誤解が生じ場合がある。



 アルペニア地方の広範囲で信仰されるアース神話によれば、大地を囲む海は戦争により流れ出た神々の血液であり、海洋の生物は滅びた神々の肉片から生まれたとされている。

 月は大神バルバロスの眼球であり、太陽はその父ガイウィウスの心臓である。

 隻眼のバルバロスに斃された巨神の亡骸から生じたこの大地はガイウィウスといい、地上の動植物はアースに対して叛乱を起こした神々の肉片から生まれたとされる。


 我々アースノイドもアースの滅びた肉体から生まれた小さなアースであり、不死王ディアニクスの治世に入ってからはアルペニア地方だけではなく、自然崇拝や祖先崇拝の強いミリディウム地方やカーナ地方にもその信仰が広まっている。

 カーナ地方ではアースの娘アルぺティナをイジェスと同一視する傾向があり、アース神話を信仰し女神の処女性を重要視する者達の中には、半神半獣の英雄カーナを自分達の英雄アルペニウスと同一視ことに嫌悪を表明する者もいる。


 アースの一族郎党とその後継者であるバルトが暮らしているというオルケウス島は、アースにより胴体から切り離された巨神の頭部である。

 アースノイドが暮らすアースエイドは巨神の腹の部分に当たり、バルバロイドが棲む巨神の胸部はエルディウムという。

 エルディウムを通ることのできないアースノイドにとって、オルケウスは神秘的な場所だが、バルバロイドの伝説的な冒険談によると、上陸不可能な島がそこには存在しているらしく、彼らの神話でも英雄的な行いをした戦士が死後一時的に暮らす場所とされている。


 オルケウス島より北に位置するエルディウムは、寒冷なアースエイドとは違い、季節を問わずに果実や作物が生り動物も多く生息し、生きるために家畜を養う必要もないという。

 そこに棲むのが大神バルバロスの子であるバルバロイド、アース神話によれば大神バルバロスの小指より生まれたとされる存在である。

 寿命は平均してアースノイドの六倍、中には四百年以上生きる者もいるという。

 その身長は我々より頭三つ分大きく、女性はこれよりも少し低い、肌の色や髪の色はバルバロスと同じように赤く明るい、そして印象に残るのは高く長い鼻と耳である。


 バルバロイドの姿を観るにはアルペニアの防衛線まで赴かなくてはならず、自国内から出ることもなく海すら見たことのないミリディウム地方の内陸部やカーナ地方に住む多くの者は、その姿を口伝や誇張された絵や彫像でしか知らないためにバルバロイドに対して極端な恐れ方をする。

 しかし、アエミリアのアエミリウス防壁に出向き死んでいるバルバロイドのその姿を見ると、想像のように恐ろしい形相でも見上げる程の長身でもなく、その筋骨たくましい姿は彫刻家が生み出した芸術作品のごとき造形をしており、死ぬ前に一度その姿を観ることをお勧めする。



 バルバロイドにはバルバロイドなりの神話があり、その神話では、アースノイドとバルバロイドは同じ種族であり、元々は天界で神に仕えていたのだが、罪を犯したことで地上に追放されたのが始まりとされる。

 アースノイドの元となる部族は彼らの神ヘロスの祝福を拒み、彼らの神話において邪神とされるマノロスを信仰したことで体が小さくが変化したとされる。

 地上に遣わされたヘロスの子を指導者として擁立し、その祝福を受け入れた部族の末裔がエルディウムに棲むバルバロイドでとされ、彼らの教義では魂を鍛え上げた者は夜空に輝く星に生まれ変わるが、マノロスを信仰したアースノイドは地の底に在る国へ向かうという。

 彼らは我々をマノロニーと呼び、自分達をヘロノスと呼ぶ。



 バルバロイドがアースノイドとその生息域を分けていることに対する疑問を神話で読み解こうとするように、アルペニン山脈に接するアルペニア地方で暮らすアースノイドもその理由を伝説として残している。


 一族の叛乱により害されたアースの肉体から生まれた我々は、出生の地であるエルディウムで牧歌的な暮らしをしていたが、地上の叛乱に触発されて引き起こされた天上の戦争により状況が変わる。

 バルバロスにより滅ぼされた神々の肉体が呪いとなって地上に舞い降りたために、我々は衰弱してその数を減らし、その後、切断されたバルバロスの小指とも陰部ともいわれる部分から生まれたバルバロイドとの生存競争に勝利することができず、敗走の果てに辿り着いたのがガイウィウスの腹部から腰に当たる北の大地アースエイドとされている。


 旅の途中、アースの娘アルぺティナがアルペニン山脈を創ったことでエルディウムへの帰還は不可能となったが、バルバロイドが山脈を抜ける道を発見するまでの数百年以上続く平和な時代となり、呪いはバルバロイドと交戦することが多いアルペニアの戦士の間で発生することがあっても、致死率も低く季節の移り変わりで収束する病となった。

 

 ミリディウムの神話はカーナ神話に属するものだが、アルペニアに接する一部の国では氏族の始まりをアルペティナに祝福された戦士や女神の血を触媒にして生み出されたアルペニウスとしており、王制や貴族制を執る国ではこの血統を支配の正当性とし、共和制を執る国ではバルトを真似てこの血統を立候補や投票または居住の区分けに利用している。

 


 これらの神話や伝説が事実か否か、矛盾が存在するかどうかすら関係ない、人々は今現在も新たな章を追加することで元の物語に存在する真意を失わせることに熱心になっており、神話に登場するイノシシの寿命をあり得ないものとして説くより、民衆はこのイノシシがどの章に登場したのかを記憶している人物に喝采を浴びせ、その時話題にできる物を尊重し自分たちの過ち指摘されることに憎悪さえする。

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