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不死王国史  作者: 近衛キイチ
ミリディウム戦記
41/41

平定の後

 アエミリア王国の成立によりミリディーウムで起きた僭主乱立の時代、ティターンでも同僚議員によって引き起こされた混乱の後、試行錯誤の結果、国家の軸を元老院と市民だけではなく、名称しか残されていなかった王を復活させる事により安定させようとした。


 王には元老院への勧告と軍団の指揮権と最高神祇官に最高裁判官としての権限が与えられた。

 使節団は元老により構成され、遠征の際には同行する元老が軍議に同席して王の監視を行い、市民の私兵化を回避するために、元老の子弟が大隊長として王と軍団兵の間に入り、軍団も一年で総入れ替えが行われるなど、王に市民の支持が集中して体制を崩壊させないように配慮する事が伝統となった。


 新たな経済構造を構築する事ができずに衰退してゆくミリディーウムの国々は、馴合いと縁故主義により経済が回り、僭主は富の再配分という課せられた使命を全うせず、富者は貧者から略奪し、富者から借金をしていた僭主はこれを返済するために他国への侵攻を必要としてた。


 当時の状況からティターンの元老達は、自分達に足りない用兵家としての才を必要としていた。

 コルネル陛下の人となりに安堵しつつも、偉大な王の死後の混乱に備えて、それまでの慣習を捨て去り、自分達の息子に軍事を学ばせると共に、征服した各都市を整備し、気前よく市民権を与え、現在のティターン体制が素晴らしいものと感じさせる様に気を配りました。


 不老不死という我々が経験も想像もできない事を体験している陛下の精神状態を想像するのは難しく、もしも、自分達が陛下の暴走を止められなければ、世界に対して恐ろしい禍の種を残す事になると考えた元老院は、緊急事態に素早く対処するという名目で、属州に赴く総督には軍団の指揮権と編制権を与えて送り出し、属州民の警戒というよりもティターン王ディアニックス・ディプス・コルネル陛下の監視を行いました。


 その後、古き良きティターン元老院の時代から、若い頃から王と共に戦ってきた元老達の時代になると、古からの掟よりも民衆派の扇動による兵員会の混乱を制限するために、先代の元老達が忌み嫌っていた市民の懐柔をおこなうようになり、陛下の急激な意志の喪失も相まって「神々の祝福を受けた王を戴くティターンの国政こそアースエイドを征するのは正しい行いであり、陛下の代行を任された自分たち元老院こそが支配者として君臨するに相応しい」と考える様になりました。


 カーナで信仰されているように、我々は死後の世界が存在するとは思っていない、そのために、一度の人生で名を残し後世に語り継がれる事こそが不老不死となる方法であり、有力氏族として生まれた者の目的となり、祖先の名を貶めるが如き所業は最も嫌悪されている。


 領土を広めたティターンの元老は、特に実際に軍団を率いて征服に関わり属州を整備した者は、征服した土地の民全てを奴隷とする権利を行使せずに庇護下に置き彼らの代弁者となった。それは先に述べた様に、そうする事で彼の名を高め後世に語り継がせることとなり、属州民を掌握することにもつながった。


 その良い例としては、アイルモ総督のセクトゥス・ティルティウス・ムミウスの招集に六個軍団の兵が集まったのも、彼の曾祖父であるルキウス・ティルティウス・ムミウスがアイルモの征服に関わり、現地の市民から敬愛され崇拝されていたからだ。




 一〇五一年に起きたピラニレとパシウス王の戦役に介入したティターンは勝利して両国を属州化するものの、この成果を上げるために市民軍は多くの死者を出し敗軍の装いでした。


 それとは逆にフリクリの総督が率いる属州の市民からなる軍団が侵攻したアリアンとアニスィナとの戦いは、彼の地が攻略困難な山岳地帯に在ったのに圧勝に終わるなど、ティターン本国の市民と属州民で構成された軍団では士気の違いに大きな差が出始めた、これを受けて元老院は徴兵制の撤廃を決める。


 徴兵制度が廃止になり自分達が遠くの地へ戦争に連れて行かれる不安がなくなると、王都で自堕落な生活をしていた市民は政治への関心を完全に失い、兵員会が開催されない事に対して誰も文句を言わなくなり、元老院の独裁ともいえる権限強化を許す様になりました。


 一〇五六年にフラミー川沿いの都市ルクレシアとその一帯が地震により崩壊、この揺れによりフラミー川の流れが東に移動するなど大きな被害がでました。

 運河を使用した貿易によって繁栄していた周辺の街は氾濫した水に飲みこまれ多くの死傷者を出し、この時のずれにより孤立した川筋はそのまま湖になるなど地形を大きく変化させた。


 この地震を受けて元老院は、混乱するルクレシアの市民が移住すれば、ティターンの経済が崩壊すると理由を付けると、フラミー一帯の再建に国家が本気である事を知らせるために、元老院議議事堂をルクレシアに移す事を決議、その後十年をかけてルクレシアとその一帯を再建しました。


 フラミーの地震を切っ掛けにして、アルモーアが再びティターンに宣戦布告、パラクターニアを巻き込み十年を掛けて戦ったティターンは、パラクターニアの一部を占領すると、これの放棄を条件にパラクターニア王ネルティモと停戦協定を結び、アルモーアとの戦いに三十個軍団十八万という当時のミリディ―ウムでは考えられない規模の兵を一度に派遣し勝利を得ると、アルモーアの王制を廃して属州とした。


 神々に選ばれた陛下に権限を一任された元老院は、降伏の後に同盟を結ぶことを止め、王を廃して属州にするという手法に切り替えたことで、ミリディ―ウムではバルト共和国の従属国となっているアニルヘルと大陸側の領土を失い島国となったモナモルの二国を除き、殆どの国がティターンの版図に加わった。


 

 一〇六九年、ミリディ―ウムを覆っていた僭主による圧政と戦乱の恐怖が消え、ティターンによる黄金に輝く時代が来ました。


 ティターンから派遣された総督により税制の改革と官紀の粛正が行われたので、重税から解放された属州民にとっても平和が訪れ、職を求めて都市に集まる無産階級には低価格で小麦が与えられた。


 王の気まぐれにより富が奪われたり、商いが中断したりする事がなくなり、元々富を持っていた者はその富を増やすために投資し、これによりミリディ―ウムで今まで開発されなかった鉱山や沼地が開拓されて経済は活性化した。

 

 しかし、ミリディ―ウムの征服が終わった後、征服者や解放者としての名声を手に入れる事ができなくなり、それに代わって行われる様になったのは、見世物や食糧の無料配給による買収だった。


 初めは些細な行事だったのが、やがては借金をしてまでの一大事業となり、無産階級に属する市民はこの施しを目当てに都市に集まり政治家に依存するようになる。


 ルクレシアに議事堂を移した元老院は、属州から流れ込む富と新たな首都を掌握することによって自由に行動できる基盤を手に入れることになる、一方で都市部の市民は、特にティターン本国に住む市民は甘やかされ精神的な後退と自立心の低下がおきた。


 

 ティターンによる黄金の時代は四十年余りしか続かなかった。

 四十年といえば凡そ二世代になるが、その間にティターン元老は急激に堕落した。


 市民を政治から遠ざけるために行っていた懐柔政策は、軍事的成功による栄達が不可能となった元老の人気取りに変わり、自身で稼ぐ事のできない元老は総督職に就くと、私腹を肥やすため利益の独占や罪を犯した富豪や税徴収人から賄賂等を受け取った。


 罪人と元老院の癒着により、様々な所で不正が正されずに、任期を終えて戻った総督を属州民が元老院に訴えるが、元老院は共犯意識が高いために無罪を言い渡すなど、不誠実な態度が目立つようになる。


 軍団が志願制に変わったことで市民の持っていた選挙権は意味をなさなくなり、崩壊し住民が居なくなったルクレシアに共和制を理解しない者を住民として連れ来ることで、元老院は自分達の間で政務官職を決めるなどの独裁を始めた。


 各地から集められた教育を受けた人々による元老院が、流言に惑わされる兵員会を気にして立案をおこなわずになった事は利点だったが。人材を適切な場所に配しその才能を活用する。という選別が行われなくなり、議会内での人脈や好きか嫌いかという馴合いの縁故主義の政治が行われる様になり、大した才能もない家系が執政官に就くようになっていった。


 放蕩により没落する貴族が存在すれば、成功して富を蓄積する新参者も現れる、彼らは邸宅を豪華に飾り付け日々の食費にどの位金を掛けているかを自慢し合い、自身の功績を残すために公共事業を行い、市民の関心を買うために手の込んだ催し物を開き注目を集めるなど、属州から得られた金を彼らの欲のために使い込んだ。


 地方の各都市でも自治を任された富豪達により、都市は整備され美しく飾り立てられたが、その資金を得るために土地を奪われた農民や周辺の集落から職を求めて来た者達と余所者を恐れた者により治安は悪化した。


 被支配者が支配者を習うのはどの国を見ても同じ様に、市民も元老議員を習い堕落し始める。

 ティターン本国の他にニルギスとアルトーエス、それに州都や大きな都市などの市民は比較的豊かな生活を送ったが、それ以外の、つまり大多数の属州民は、主食である小麦が属州総督と商人等により人為的に高騰し、貧しいものは飢餓と借金に苦しみ、そのために土地が奪われ奴隷に売られる等の恐怖に耐えなければならなくなった。

 

 高祖父と曾祖父により整備されたティターンが、自分の時代に崩壊するのではと危惧した元老も中にはおり、彼らは属州で功績のある者を元老院に入れて自浄作用を促そうとした。


 しかし、そうした徳を有する者達も他の元老に懐柔されて堕落するか、それを拒絶する者は正当な手段で改革が行える唯一の機会である執政官や法務官等の高級政務官に指名されることはなく、敵対する元老の庇護民からの告発により名誉を傷つけられては、大権を持てないままに元老院に絶望し隠居することになった。


 ルクレシアの市民やフリニア等、王国内の市民を頼り元老院を批判する演説を強行しても、元老院などの裕福層に寄生して生きている市民の耳には届かず、何を訴えても市民の怒りを買うだけに終わり、自身の立場を悪くするばかりだった。


 しかし、そうした元老達も属州民を扇動し叛乱を起こして王国を崩壊させるまでは望まなかった、また、彼らにはそうした指導者として才能もなかったのだった。

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