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不死王国史  作者: 近衛キイチ
ミリディウム戦記
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掟からの脱却

 アースエイド暦九九五年。

 ティターンと独自に和平を結んだペルティペ―に対してゲルターニア王キアノスは憤り、ペルティペ―への制裁としてその国土への侵攻を計画した。

 キアノスとその宮廷は秘密裏にことを進めている積りであったが、後に「善き人士」と称賛されるティターン元老院は、商人や大使からの情報により、ゲルターニアのペルティペ―侵攻計画を掴んでいた。


 エディン王スプリヌスの死により生じた先の戦役の事もあり、元老院は両国の弱体化と孤立を加速させるための工作を行いつつ、事態の推移を見守っていたのだが、それまで対ゲルターニアで友好を築いていたアルモーア王ベアクトスが、一転してゲルターニアと同盟を結ぶと態度を改めなければならなくなった。


 アルモーアはミリディーウムの国であるが、彼ら自身はアルぺーニアとはアムル川を挟んで接しており、北と東の大部分はマーレ海が自然の要害となってミリディ―ウムから隔絶されていることから、自分達がアルぺーニアに近く最も文明的だと考え、ティターンを含めミリディ―ウムの国々を下に見ていた。


 ベアクトスはティターンが海軍の増強に力を入れ始めていることに危機感を持ち始めており、ゲルタニアと唯一ミリディ―ウムで国境を接するアルウアを巻き込んでティターンの包囲を画策してた。

 そして、ティターンが支配の正当性のために、神々の加護を得たコルネル陛下をアエミリア王国を興した大アエミリウスの再来と喧伝し始めたのを利用することで、虚栄心が強いアルモーア国民はベアクトスの決断を支持する。

 海軍戦力として最も協力が必要な沿岸部の諸都市も王に賛同する。廃れて勢力的に無視できていたはずのエディン出身の商人が、ティターン王の権威を借りて商いの邪魔を始めていたことがその理由だった。


 僅かに残されたゲルターニア海軍と共にアルモーアの海軍はペルティペ―の海上封鎖を始める。このままではアルモーアとゲルターニアにマーレ海の出口であるウィティス海峡を塞がれるどころか、内海の制海権までも奪われると危惧したティターンは、アルモーアに対してマーレ海中央に在るマーレ島への入港と島の北部より先に航行する事を禁じるが、元々ティターン海軍の増強がアルモーアにゲルターニアとの同盟を結ばせる一つの要因であったために、アルモーアとゲルターニアの海軍は内海の奥、エディン沖にまで現れる。


 制海権を維持するためという理由で戦端を開いても、軍船同士の戦いだけで終わるかどうかは分からなかった。

 敵が補給基地としている諸島の占拠、延いては海軍の本拠地や造船能力を持つ港の奪取、港を護るために派遣される敵の野戦軍との戦い、場合によっては本国への侵攻が必要になる。

 しかし、だからと言って、このまま制海権を完全に奪われるままにしていても、開拓されたばかりのカーナ東部に繋がる海路を塞がれる上に、後年にはペルティペ―を制圧したゲルターニアとアルモーアが陸と海からエディンに侵攻してくることが予想された。


 この混乱の原因は、ペルティペ―に対する戦後処理とゲルターニアの国力を削ぎ切れなかったことである。

 そのことの必要性は当時から陛下を含め元老院の殆どが理解していたのだが、元老院内で少数派となっていた民衆派が自分達の意見を通すための手段として、王都の民を扇動するようになっており、この時の兵員会も本国に危険はないとの流言に騙された王都の市民による圧力に負け野戦軍の派遣を拒絶した。


 人士としての品を捨て去り、古来の扇動政治家のように振舞う民衆派に対抗するために、陛下は兵員会の参加資格を持つニルギスとアルトーエスの小隊長達を王都に呼びよせ、彼らの協力を得て兵員会で開戦の許可を取り付けた。

 

 元老の扇動と交渉により、ゲルターニアとアルモーアに併合されていた沿岸部の元都市国家の一部が独立運動を始めたために、敵海軍の士気は下がるが、何とか集めた三段層櫂船を百九十隻と戦闘員一万九千を持ってティターンに海戦を挑んだ。

 しかし、当時の東の海には存在しなかった五段階櫂船二百隻を導入したティターン軍により、ゲルターニアとアルモーアの海軍は百隻以上が拿捕された。


 この戦いによって軍船の多くを失ったゲルターニアとアルモーアはマーレ海から追い出される事になり、戦場は海戦から敵が保持する島嶼とゲルターニア本国へと変わる事になった。


 ティターンの野戦軍が通過することを拒むペルティペ―により、陛下はゲルターニア半島の沿岸都市に降り立つのでしたが、新たにアルモーアの王位に就いたクレイトスが独立を求めていた沿岸部の都市の懐柔に成功したことで、陛下が率いるティターン軍はアルモーアの海軍とゲルターニアの野戦軍に挟まれることになりました。


 半年後に元老院の主導でアルモーアとの講和が成立し、ペルティペ―の攻略を託されたルフィス殿がゲルターニアまでの陸路を奪取したことで、ようやく補給の安定と軍団の増援を得て、三度の会戦に勝利した後、ゲルターニアの王都ハノンクンに辿り着いたのでした。


 キアノスはコルネル陛下に停戦を伝える特使を派遣、王都ハノンクンにて両王の会談が行われた。

 エディンの所有権はティターンに帰する事と独立を求める沿岸諸都市の要求を認めることでどうにか独立を維持したゲルターニアは、幾つもの良湾を失い、今後海への進出を諦めなければならなかった。


 アルモーアの封じ込めるために、ティターンはアルモーアと国境を接するアルウアと同盟を結び、さらに、アルぺーニアのパラクターニアと同盟を結んだ。

 さらにハイド王国と国交を結ぶために当地へ赴いた元老は、時のハイド王ハイノンの歓待を受けるものの、無用の混乱を引き起こすとして同盟や居留区の設置を断られるが、ハイノンは元老院が目的としていた、難破船の船員が漂流していた場合はその保護を約束した。



 九九九年、先の戦役でゲルターニアに軍船六十隻と傭兵六千を貸したフリクリに対して、ティターンは同盟違反としてその国内に侵攻し王を追放した。


 ティターンの元老院は、エディンと同じようにフリクリの統治も総督に委ねる事とし、その際にエディンとフリクリの総督は、志願者で構成された四個軍団の編成権と兵員会の承認を得ずにその軍団を動かす事を許している。これは、ティターンから離れているフリクリの有事に備えた措置であると説明された。


 確かにこの時の元老達は属州をより良く統治するための処置として、総督に王と同じ権限を与えたのですが、それと同時に視野の狭い兵員会の権限を本国内のみに抑え、死ぬ事を禁じられた陛下が精神に異常をきたして自暴自棄になった場合を考え、軍の指揮権を少しずつ陛下から遠ざける事を考えていたのでした。



 ディプス王陛下とは同郷であり、コルネル家の養子として育った陛下と共に「コルネ―リットの叛乱」を戦い、能力と共に運にも恵まれ、最高司令官である陛下が不在の戦線にはその代理としてほとんど全ての事を任されており、陛下と共にある際には敬称を付けることなくその名を呼ぶ事が許され、陛下の遺言書には後継者としてその名前が記されていたデキムス・ルフィスは、フリクリとの戦いの後、これ以上の軍務には肉体が耐えられないとして退役、その四年後、彼は自身が参加した戦役を記した執筆中の「ディアニックス戦記」に大量の血を吐いて意識を失い、それから三日間意識を取り戻すことなく亡くなりました。


 コロンとの戦いの中にいた陛下がルフィス殿の急を知らせる報を受け取ったのは、王都プリューゲン包囲中でした。

 そして、彼の死から三ヶ月以上が経った後、ルクサーニに戻った陛下は、腐敗せぬ様にと氷漬けにされたルフィス殿の遺体とようやく面会しました。

 

 ルフィス殿が亡くなる前までコルネル陛下は、ティターンとエディンを通るフラミー川やアルトーエスとニコロの国境線なっているナビィース川等、様々な川を運河として整備し、街道の敷設と郵便制度を民間に開放、上下水道の整備に新都市と神殿の建設、無産階級に土地の開墾を認め、どんな環境に居る子供でも初等教育だけは受けられる様にと国庫から教師を雇うことを定めました。


 奴隷に就いても、自らを買い取る権利を明文化し、裁判に就いてもその証言は法的に認めないと宣言することで彼らへの尋問という名の拷問を禁じ、農園に置かれた奴隷に対して過酷な労働を規制するために、市民を奴隷と同数雇い同じ待遇を維持しなければならいとしました。


 そして、一〇一〇年にアップル王ルパシウスが陛下とバティリウス・マグナの定めたカーナとの国境線を納得せずに、ボノノイ族の土地に侵攻した事で開始された「ルパシウス戦役」を最後に、陛下は指揮杖を握る事を止めてしまい、あの時がくるまで指揮権を放棄する事になりました。

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