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不死王国史  作者: 近衛キイチ
ミリディウム戦記
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混乱の始まり1

 コルネル陛下が病により死の淵に立っている事を王の側近と元老達は隠そうとしたが、軍団兵がそれを知りえたように、陣営に出入りする者達によって彼の病は各国の支配者に知れ渡っていた。

 強大な指導力を持つ陛下の亡き後、次のティターン王を選出するにあたり、元老院による指導体制は混乱すると考え、王達は謀略を企み戦争の準備を始めていた。


 跡継ぎのいない王の死後、周囲の国がティターンの領土と影響力の低下を狙い戦争を仕掛けてくることを警戒していた元老院は、使節と密偵を使い各国の大臣やその子弟などの関係者から王達の思惑を探り、アップル、キリキア、ピラニレ、ニコロ、この四つの国が同盟破棄の機会を窺って話し合い、臨時の税を国民に課し募兵を開始しするなど、不審な動きがある事を確認された。


 アップルとキリキアの両王は、ディプス王の協力により王位に就いたためにティターンの影響力を疎ましく感じており、ティターンを盟主の地位から降ろすため予てから策謀しており、これに、ティターンの勢力が自国に迫るのを嫌ったフリクリと、アップルの南と西南に国境を接する小国アニスィナとアリアンを加えた三国の援軍が約束された。


 ピラニレとニコロは「アルタクレス戦役」の際に受けた屈辱を晴らすため同盟を結び、ティターンの勢力拡大を恐れていた両国の南に国境を接するバイバドとその従属国ヴェルモンド及びニースト山脈に接するティモラとアルウアが援軍を約束した。


 ニルギスとアルトーエスの常設軍八個軍団とティターン市民軍六軍団が出払っているこの時期に、周辺国全てが同盟を破棄すれば、総数二十万を超える軍勢と戦う事になるとして、普段は落ち着き厳格で通していた元老達も慌てふためき、議事堂で昼夜を問わず話し合いが続けられた。


 蛮族からの脅威が過ぎ去ったばかりでティターンに国境を接していないゲルタニアとモナモルは不干渉を使節に伝え、国境を接するレームアとイオそれにエディンとパシウスの四ヶ国から同盟更新の使節が派遣され、ティターン、ニルギス、アルトーエスの三ヶ国が完全に包囲される事にはならない、と判断がついたところで、元老院は安堵し落ち着きを取り戻したという。




 冥界より舞い戻ったディアニックス・ディプス・コルネル陛下は、元老院から緊急事態との報を受け取るが、国王は直ぐには動かなかった。

 この機会に、周辺国の王に不誠実を行う者はどうなるのかを知らしめる事と、カーナへの道を確実にするため、キリキアとアップルが本格的に行動を起こすのを待つために、陣営に籠もって病身の振りを続けることにしたのでした。


 カーナで陛下が籠っている野営地に出入りする者により、その病状は重く、王の死期は近いと伝えられた直後、女神により治癒されたとの情報がキリキアとアップルに入る。この余りにも現実離れしたその出来事を誰も信じる事ができず、両国は危機に陥った元老院が流した偽の情報と考えた。


 そして、野営地が光に包まれるという女神による不可思議な現象が起きた後、ティターン王はまだ重体であるとか、次に病状は回復しつつあり、病が治り次第不義を働いている国々に制裁を加えると宣言している等の情報が野営地に滞在する元老達を通じて、野営地に立ち入ることができずにいた各国の大使たちの元に届いた。


 次に、ティターン王は一命をとりとめるが直ぐに動ける様な状態ではないとの報が王達の耳に入ると、これが事実であると考えた各国の王は、女神などと見え透いた嘘を流す程にティターンは追い詰められていると判断、自分達の作戦に一層の自信を持ち、キリキアとアップルは陛下の病状が完全に回復する前に行動を開始する事に決めた。


 キリキアとアップルが申し合わせた期日よりも早く戦端を開いたとの報が、十五日程遅れてピラニレとニコロに届き、両国の王は驚き慌ててティターンに宣戦布告する。


 フリクリの援軍は間に合わず、すでに到着していたアリアンとアニスィナの傭兵三万と、キリキアとアップル両国の傭兵軍を合わせて八万の傭兵を動員しての開戦であり、ニコロとピラニレも同盟国からの援軍が間に合わない状態で戦端を開くことになったため、予定していた数の軍勢とは程遠かった。


 キリキアとアップルが同盟破棄を伝えたとの情報が入ると、ディアニックスは陣営を畳み、ルフィスにニルギス軍四個軍団と共にキリキアに入りその国内の掌握を命じ、ライト率いるアルトーエス軍四個軍団にも同じように、アップルの国境に向かい砦の攻略とその国内の掌握を命じた。




 戦争経験の多い市民を直ぐに招集できるティターンのことを理解していれば、同盟を破棄したこれらの国がティターンに勝利することは不可能だった。

 可能性があるとすれば、本国に留まるブルクを懐柔し、同盟を結んだカーナの部族を反ティターンで起ち上がらせつつ、陸路と海路の兵站を止め、カーナの地に陛下と軍団を孤立させることでようやく、従軍している市民の要請により、宣戦布告した国々は好条件で同盟を結びなおすことができたかもしれない。


 キリキア王はティターンに奪われていたボルノ・カーナ方面の砦の奪取をめざした。

 しかし、砦を包囲した傭兵達は攻城兵器などその他諸々の兵器を作る技術もなく、籠もる一個大隊の気力を削ぐために、絶え間なく攻撃を行う根気もなく、各種の射出機を装備し士気も高い軍団兵が籠もる砦に闇雲に攻撃を行っては時間を浪費し、二十日後にルフィス率いる四個軍団の襲来により退却を余儀なくされる。


 ティターン軍と共にカーナに留まったディプス王は全部族の長を招集した。

 王は集まった長老達に、この会議を毎年行う事を誓わせ、その場所はそれぞれのカーナで同盟を結んだ部族から順に毎年場所を変えること、次に、部族間を越えて生じた問題に対処するための話し合いやその処罰はこの会議により結論を出し、最も重要な事として、各部族が毎年それぞれの郷から四百の兵を出し合い同盟部族軍を組織し、同盟部族軍の総指揮は投票により選ばれた四名の総司令官と八名の司令官をその任に当たらせた上で、フィピニア川やボナ川など同盟部族を脅かす存在が現れた際の防衛を行うように命じた。


 会議に集まった部族の長老達は、女神アルペティナが狼の姿で現れたのをあの場にいた子弟より聞いており、ティターン王は彼らの崇める英雄カーナの血族により助けられたと信じ、長老達はティターン王の意に服従する事を誓った。

 


 ニコロとピラニレは前回の敗北から何も学ばず、傭兵と無法者三万の他に、強制的に動員した一万の国民を率いて進発。

 両国の動静を聞いた、総司令官として本国の防衛を任されていたブルクは、防衛よりも攻撃に転じた方が敵を制することができると判断する。


 ブルクの命により、マルクス・ピウスに率いられたニルギス軍二個軍団はホムル川を渉りピラニレに侵攻、その途中傭兵軍と遭遇し会戦にてこれを壊滅させた。

 アルトーエス軍二個軍団を率いる司令官ガイウス・エルバノスは国境線となっているナビィース川沿いに隠れ潜み、敵の主力である傭兵軍が川を渉りきる前に攻撃を仕掛けて、混乱していた敵の多くを屠った。

 カーナで勇猛な戦士達と戦いを続けていた彼らには、贅沢な暮らしを続けるミリディウムの傭兵などでは相手にならなかった。


 三万を超える自軍の敗北と、逆に国内に侵攻された事に驚いたピラニレ王ダニキウスは援軍を急かすが、ピラニレの援軍に向かっていたティモラとアルウアの傭兵軍は王都まで二日の距離まで来ていたにも拘わらず、両国の敗北を知るとそれ以上の行軍を中断して、これ以上の戦争介入を拒絶、ダニキウスは王都の防衛にどうしても手勢が必要であっために両王に頼み込み、傭兵軍から六千程を雇い王都まで進軍させた。


 ニコロの援軍に向かっていたバイバド軍もニコロ軍の敗北を知ると行軍を中断、雇い主であるバイバド王に使い送り指示を仰ぐと、援軍から侵略軍へと豹変して、ニコロと長年争っていたテラーユス川までの領土を奪い取った。


 元老院はティターンの北西、アップルとの国境にある山岳部の砦で防衛に就いている八個大隊の援軍に十二個大隊を派遣、これでアップルとアリアン及びアニスィナの傭兵軍四万に対し十分に持ち堪える事ができるかと思われた。


 そして、準備が整う前に戦端を開いたアップルに対して不信感を持ったアリアンとアニスィナは独自に情報を収集、二十日も経たないうちにティターン王の生存と各軍団の動きを知ると、フリニアの元老院議事堂に大使を送り和平交渉を始めた。



 ニコロとピラニレの処理を各司令官に任せると、総司令官であるブルクはカーナから帰還する同僚達の道を切り開くために、ティターン軍二個軍団と騎兵一千二百騎を率いてキリキアに侵攻した。


 ティターン領内に侵攻しようとしていたキリキア軍一万との会戦に勝利すると、ブルクはそのまま王都ヘレキアに向けて行軍するが、その途中、ルフィスからフリクリ軍の侵攻が近いことを知った彼は、キリキアへの侵攻を中断、次に六個大隊と騎兵二百騎を輜重部隊に任じ、キリキアで食糧を買い付けた後にアップル入りするように命じると、自身は残りの軍勢を率いて東に進路を変えて、かつてのディネント族のようにキリキアとアップルの国境沿いに在る砦に向かい進行した。

 

 アップルはキリキア方面からの攻撃を予想しておらず、ほとんど兵を置いていなかった事に加えて、アップル王テサリウスがフリクリ軍の到着を待っていて王都に籠もっていたことなどがあり、ブルクが砦の攻城戦を開始してから十日後に、傭兵達は身の安全の保証と引き換えに砦を明け渡し、ブルク率いる軍勢はアップル国内への侵攻を果たした。


 ブルクによるアップル国内での陽動が成功したことで、ボルノ・カーナ方面の砦を攻略したライト率いるアルトーエス軍四個軍団がアップルに侵攻を果たすのと同じころ、フリクリ軍三万四千も国境を越えアップル入りした。


 自らが食する分の食糧を持たず、大勢の従者を従える大軍が通るにはそれなりの道幅が必要だ。さらに、大量の酒や調理済みの食事を欲しがる者達の通る道というのは、あるていど予測が付くのは当然である。


 騎兵を先行させつつ国内の協力者により地理を把握しつつあったブルクは、フリクリ軍の行軍を邪魔するために切り倒した木々を街道に並べて道を塞ぎ、さらに行軍中の傭兵達で警戒を怠った者達を次々に襲い、従者らを懐柔して脱走の助けをするなどしつつ、彼らの食糧と兵員を少しずつ減らしていった。


 ブルクの作戦によって、フリクリ軍はレクアントという街に入ったきり出てこなくなるが、ブルクは籠城する側よりも少ない兵で包囲戦を行う事はせず、街の近くにある丘の上に設営して、敵を監視しつつアルトーエス軍が到着するのを待った。


 そして、アルトーエス軍の接近と、族長たちとの会議を終わらせたコルネル陛下が率いるティターン軍六個軍団がアップル入りした、との報を得たアップル王は、ティターンの砦を包囲する傭兵に使いを送り、フリクリの軍と集結し王都に向かうように命じた。


 アップル王が計画していた作戦が成功していれば、ミリディウムでは初めてであると思われる十万に達す軍勢同士の戦闘が行われるかもしれなかったが、フリクリ本国からの帰還命令と、和平交渉を行っていたアリアンとアニスィナ軍は本国から命で動かなかったために失敗に終わった。

 

 ライト率いるアルトーエス軍と合流したブルクは、これからの包囲戦と後から来るティターン軍六個軍団の食糧を調達するために、率いていたティターン軍二個軍団と共に野戦軍から輜重部隊となり誰かがやらなければならない後方支援に自ら回った。

 

 ティターンの砦を包囲していたアリアンとアニスィナ軍は本国に帰還、残ったアップル軍は傭兵隊長達の独断により砦の包囲が解かれ、傭兵達は自分達の国に帰るか、新たな雇い主を探して国外に出て行った。


 アップルの王都アクリアスの包囲は九八一年の冬が来る前に終わり、キリキアも同じく国内を制圧されて王アルケサノスは王都ヘレキアを包囲され閉じ込められることになるが、王都から逃亡したアルケサノスがイオとの国境付近で捕らえられたため、王都に残った傭兵軍一万は降伏し終了した。


 テサリウスとアルケサノスは王位を剥奪、両国の新王は元老達によりに冠を授けられて主権を失い、宰相や近衛長官も元老達の選別によりティターンに従順な者が任命された。さらに大使として赴任した元老が名目上の顧問として王の傍に就き、王の監視を務める事となる。


 ニコロは司令官ガイウス・エルバノスの考えにより国内深くまで侵攻される事はなかったが、国内の傭兵軍は壊滅させられた上に、バイバドにより王都に近いテラーユス川を奪われ、もはやバイバドの従属国状態となりそうだったために、ティターンと再び同盟を結ぶことを伝えた。


 ピラニレは進軍した司令官マルクス・ピウスが、住民の懐柔を怠り強制的に食糧を徴収したために、住民からの協力を得る事ができなかった上に、王都への道を間違えて侵攻が思うように進まず、ティターンへコルネル陛下が帰還したとの報と共に退却したので、ダニキウスは王都を包囲されることもなかったが、このままでは孤立してティターンに侵略の口実を与えると考え、大使を派遣し停戦協定を結んだ。

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