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不死王国史  作者: 近衛キイチ
カーナ遠征記
32/38

二年目

 アースエイド歴九七七年、ティタン王ディアニクス・ディプス・コルネルはマグナに本国の防衛を任せると、ライトをカーナに呼び寄せた。

 ディアニクス自身はウィノーウィス族とエルクフィスト族及びプエッラ族、そして、ボルノ・カーナの部族であるがエルクフィスト族と共に他の部族の土地を荒らすハリュキア族を討つべく東に向かう。

 ルフィスにボルノ・カーナの西に侵攻しているミクセル族とベルセル族及びドォオーファ族討伐を命じる。

 ライトはボナ川とラムフィス川の防衛及び、同盟を結び未だにボルノ・カーナに残る事を許されている部族の監視を任された。


 この年より、ミリディウムの国々との距離が余りにも離れる事になり、兵站を海路からも得ることになる。

 東のフリクリ、ゲルタニア、エディン、パシウスから、西のモナモル、イオ、レームア、これ等の国の商人と海軍から補給を受ける事になるが、無論、陸路からの補給も停止されなかったし、他国からの輸送が停止した場合に備えて、ボナ川とラムフィス川を下るための船の建造と曳航するためにの人夫と動物が集められた。


 ミクセル族はラムフィス川の岸沿いに住むアッピア族とエバミンド族の地を占領しており、我々に就いての情報を持たない彼らは、前年にディアニクスから派遣された使節を無視し、その年も引き続き山間部に追い詰めたアッピア族と戦うために我々を気にしていなかった。

 そこに突然現れたルフィス率いる軍勢との戦いで多くの被害を出し、ミクセル族の指導者達は従順を誓うために、使節に多くの品々を持たせてルフィスの許に派遣、彼らの従順を受け入れたルフィスはベルセル族に向かった。


 ドォオーファ族はラムフィス川河口部で暮らしていたアクレタナ族の土地に侵攻して定住しようとしていたが、ホムルクノ・ディ・カーナでドォオーファ族の地を奪ったベルセル族がラムフィス川の沿岸部に現れたために、河口部からさらに西に進みラートリナ族の地に侵攻した。

 ラートリナ族は高度な航海術と造船技術を持ち、アクレタナ族の侵攻により移住を決意すると、海を伝ってモナモルに近くボルノ・カーナの端に住むコラッレス族の地に侵攻しており、アクレタナ族は再びドォオーファ族により住む場所を追い出される事になると、南進してロロギウス族の地に侵攻していた。

 これらの混乱によりボルノ・カーナ西部の部族はイオとモナモルの国境地帯を圧迫していた。


 西側の海では、ミリディウムの中で最北端に在るモナモル半島と、ディヴズ・ソッレとカルプルア族の住む土地から伸び所々湾曲しているプル半島により大きな内海が形成されている。そして、さらにその中でホムルクノ・ディ・カーナから伸びるクリア半島により北と南で二つの湾が形成されており、沿岸地域に住む蛮族は航海術に長けているので普段は海賊行為を行っていた。


 国境を接する蛮族の土地に侵攻する勢力は持たずとも、その攻撃を防げるだけの力を有していたモナモルだが、無数にある誰も住んでいない小島に移りそこを基地としてモナモルの沿岸部に侵入する部族に対処するため、国境を接するボルノ・カーナの部族に対しては防衛に必要な兵しか置けずに、戦役を長期化させることになった。

 

 五十万の戦士を抱えるベルセル族は四つの支族に分かれている、数は多いがそれぞれの支族の支配は長老達の合議により決まっており、我々の進撃に対応する行動はどの部族より遅かった。

 さらにルフィスの放った騎兵により集結を邪魔されて次々と襲われてゆき、十二万の戦士を揃えて会戦に挑むが、我々の斜めに組んだ陣形により、中央と右翼の方陣を崩されて戦列を乱して、その空間から背後に回った我々の騎兵により最強部隊が無力化されてしまい降伏、ルフィスに使節を送り同盟を結んだ。

 

 ルフィスの率いる軍勢は補給のためにラムフィス川の河口に達す、そして、そこで多くの軍団兵が初めて海を望んだ。

 その海はクリア半島により創られた内海で、北の方角に僅かにクリア半島の影が見えたのだが、初めて海を観た軍団兵は、その青さと広さに感動した者も多く居たが、それと同時に不安を覚える者もいた。

 軍団兵の一部は海の近く居ることを拒み、仕方なく海の匂いが消えるまで森の奥に入り設営することとなるが、七十隻の軍船と四十隻の補給船が到着した後は軍団兵の海に対する恐怖心も消え、素早くドォオーファ族が占領している土地に入ることができた。


 ドォオーファ族を降した後、この部族の侵攻から逃れるために他の部族の土地に侵攻している部族に対し、ルフィスは元の土地に戻るように使いを出す、コラッレス族の地に侵攻していたラートリナ族は喜び、彼らの基準で高価と思われる品々をルフィスに送った。

 要請を受け入れない諸部族に対しては、二個軍団と同盟部族軍騎兵一千割いてその足止めを命じ、そして、ルフィス自身は残りの軍勢を率いてボルノ・カーナの最も西の果て、内海に接するゲニルス族の地を奪ったディウルナ族に向かった。

 しかし、ディウルナ族は我々の接近を知ると、多くが海岸に近い小島に避難し、夜間に海岸に来ては港に停泊する諸国の船や戻ってきたゲニルス族を襲った。


 ゲルニス族の籠る島は西と東に細長く延び、西の地は岩だらけであるが東には良湾がある。ゲニルス族は湾の入り口には鎖を繋いだ船を沈めて、諸国の船が攻め入るのを防いでいたのだが、ルフィスは内海で多く使われている平底の櫂船をラートリナ族などの周辺部族から買い取ると、諸国の船員と軍団兵から志願者を募って小島に乗り込んだ。

 軍団兵の楯により敵の攻撃は漕ぎ手には届かず、ルフィスの率いる二個軍団が島に上陸するとゲルニス族は降伏した。



 ボナ川の周辺領域を占領していたウィノーウィス族はディアニクス率いる軍勢の接近に気付かずに、集結するのに遅れて集まる事ができた少数の戦士達が抵抗したのだが多く屠られ、降伏勧告を発した後も抵抗を続けた戦士達とその家族は奴隷に売られるのだが、この遠征の多くの場面で彼らはその運命を悲劇と捉えることなく受け入れることがあり、我々は生まれる場所が違えばここまで死生観や人生の在り方に違いがあるのかと驚くことがあった。


 エルクフィスト族はボナ川のボルノ・カーナ側の対岸に住むハリュキア族の誘いにより同川を安全に渡河し、ハリュキア族と共に幾つもの部族の土地を荒らしながら南進していたが、プエッラ族と進路が重なり、この部族を恐れた彼らは南進を諦めて、東に進路を変えた。しかし、彼らが侵入を試みようとしているバクタリア半島は、南北に伸びるウルクア山脈によりボルノ・カーナと切り離されており、同半島の内部に侵入するには、船を使うか山脈を登るか、もしくは、バクタリアのガエベタ族が支配する平野を通るかしなければならなかった。


 ウルクア山脈の麓で、エルクフィスト族とハリュキア族は侵攻を止めるとどの道を通るかの話し合いをしていた。

 バクタリアの部族はカーナの諸部族とは違う文化形態を持ち、その勇猛で死を恐れない性質は両ディ・カーナの部族と似ており、周辺に住むボルノ・カーナの部族に恐れられていた。


 被害を出したくないハリュキア族は、山を登り警戒していない麓の部族を急襲することを提案するが、エルクフィスト族は短時間でバクタリア半島に侵攻できる隘路からの侵入に固執したので、これにより両部族の連合は崩壊した。

 我々が彼らに追い付いた時には、エルクフィスト族はハリュキア族に攻撃を仕掛けその多く殺し、何とか逃げ出したハリュキア族の者達もそれまでの行為により、恨みを買っていた周辺の部族に捕らえられると、ある者は奴隷として売られ、ある者は食糧を与えられずに飢えて死に、ある者は生きたまま皮を剥がされたり、普段は行われることのない儀式の生贄として捧げられたりした。

 

 ディアニクスはエルクフィスト族の族長ウェルテクスに使節を送り、それ以上の進攻と略奪を止めるように言うが、ウェルテクスは使節として派遣された元老のルッキウス・ヴェローとランティノエ族の長ローランを殺害、さらに、使節団の者に対しても鞭打ちにした上で拘束した事を知ると、この野蛮な行いに激昂したディアニクスはこの部族との交渉を中断、ティタンの威信とボルノ・カーナでの行動に障害が出ると判断して、この部族に対しては寛容を見せないことを決めた。


 

 戦士三十万を擁するといわれていたエルクフィスト族は非戦闘員を入れた場合、その総数は百二十万前後と推計されるが、その数の多さから三つに別れて行動していた。

 ディアニクスは敵が集結するのを防ぐために、丘の上に築いた要塞に一個軍団を残し、同盟を結ぶ部族に対して要塞への援軍を要請しておくことで、我々が窮地に陥っているとの噂話を真に受けた敵の一部を引き寄せておき、ディアニクス自身は族長ウェルテクスが率いる敵本隊を目指した。


 ディアニクスの命によりパトロニウスの強襲部隊が最後尾にいる弱い者達を襲うと、多くの者が混乱に陥り逃げ出そうとして前を進む者達を踏み殺し、また、彼らも後から迫る者に踏まれて死んだり、人同士に挟まれたりして圧死。

 そして、戦士は集結するのに時間が掛かり過ぎて、集まっても軽装兵による飛び道具の攻撃によって散らされ、騎兵による襲撃に曝されて殺された。


 逃げ出してきた同胞により、十万の戦士を擁する別動隊が壊滅したことを知った族長ウェルテクスは、追ってくる敵の騎兵から身を護るために、荷車や手車で円陣を作りその内に籠っていたのだが、パトロニウス達が屠った者の首を円陣内に投げ込むと、怒り狂った戦士は攻撃を仕掛けようと円陣内から飛び出すが、パトロニウス率いる部隊が慌てた様子で退却すると、今度は勇気を得て我々に向かい行軍を開始した。

 

 ディアニクスはこの戦いで戦車を用いる。

 我々やアエミリウスが率いた軍団は戦車を攻略していたのだが、カーナの部族にとってこの兵種は効力があり、これに我々の戦術が加わることで敵の中央は引き裂かれ、周囲の状況が判らない中で同胞の悲鳴や怒号に混乱し恐怖したエルクフィストの戦士は逃げ出した。

 朝から始まった戦いは昼過ぎにエルクフィスト族が敗走した事で決着が付いたのだが、ディアニクスは騎兵にその追撃を命じた上に、捕らえた戦士の十分の一を彼ら自身で処刑させると、非戦闘員と共に他部族に分散させることでこの部族を消滅させた。


 その後、ディアニクスは自身の出した偽の救援要請を信じて動揺していた族長たちを集め安堵させるが、多くの戦士達が我々からの離反を叫んでいたことが判明すると、ディアニクスは蛮族が噂話を信じやすいことにあきれ果てており、彼らのこの性質が今後大きな問題になるのではないかと不安を感じる。


 そして、ディアニクスの不安は現実となる。

 フリクリから買い付けた痛んだ穀物を食べた軍団兵の多くが寝込み行軍が不可能な状態になると、一度はディアニクスを盟主と認めたプエッラ族が離反に向けた謀議を始めた。

 密告によりプエッラ族の裏切りを知ったディアニクスは怒り、寛容を見せるべきではないと考えたものの、エルクフィスト族と同じような仕打ちを行う気にならず、首謀者と賛同者の追放と、有力者の子弟をティタンに送ることで彼らを許した。



 ボルノ・カーナの東側から北の蛮族による恐怖を取り除くことに成功すると、女子供など戦闘に不向きでそれまでニルギスとキリキアの国内に残留を許していた、テニウニス、セミサティス、ミカテリス、ファルケアス、ブリンダル、これらの部族の者をボルノ・カーナへの帰還を始めさせる。

 ラムフィス川とボナ川周辺の警戒と、次の年に行われる遠征の準部として、両ディ・カーナへとの中継基地とするために、ミリディウムの都市国家が沿岸部に築きその後放棄された港の整備が行われた。


 こうして「カーナ戦役」二年目には、ラムフィス川とボナ川を防衛線として確立する事に一応の見切りを付ける事に成功し、ミリディウムの諸国を圧迫する部族は我々と同盟を結ぶ事により平穏な日々を取り戻す、しかし、我々と同盟を拒み抵抗する土着の部族は多く、特に西方面のモナモル王国の周辺と東の半島に住む部族は両ディ・カーナと接していないために、その必要性を感じなかったのだが、ルフィスは反抗的な部族を取り囲む様にその周辺部族と同盟を結び、これ等の部族から援軍要請があれば駆けつけるとして、直接対立するのを避けた。



 ミリディウムでは、レームア王フォグナリオとキリキア王アルキビアスが病死。

 レームアはディアニクスの支持によりその息子達ではなく、アンブラシオが王位に就く事になる。ティタン及びディアニクスの意向に逆らわない事が国を守る最良の手段と判断していたアンブラシオにより、レームアからの補給支援は益々充実、レームアは良き同盟国となった。

  アルキビアスはディアニクスとティタンに友好的であったが、ディアニクスはカーナへ向かうための道としてキリキアはぜひ必要であったため、表向きにしてもティタンに忠実な姿勢を見せる第一王子アルケサノスをディアニクスは推し、その支持により王位を継ぐことになった。

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