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不死王国史  作者: 近衛キイチ
カーナ遠征記
31/38

一年目の終わり

 ディアニクスは新たに同盟を結んだ五つの部族から、有力者達の子弟と戦闘に適する年齢の者が到着するのを待ち、子弟の半数を分散して出身部族以外の郷に預け、残りの者はブルクに預けてティタンに送りつつ、アエミュルスと彼が逃げ込んだランティノエ族と、ランティノエ族に住んでいた土地を追われたアルフェフィア族へ使者を送る。

 そして、新たに同盟を結んだ五つ部族から来た戦士一万三千は、それぞれの部族の者が率いたが、騎兵四千はディアニクスからの信頼を得ていたレオニールの指揮下に入れられた。

 

 ランティノエ族は戦士の数でいえば十万余の部族である。同部族はクエン・ディ・カーナでドテアミノ族との争いに勝利するが、さらに北の奥地に住むメニシス族と戦い敗北するとボナ川を渡りボルノ・カーナに移動を開始した。

 グルパシア族はホムルクノ・ディ・カーナから南進してきた部族であり、ミカテリス族を破った後も進軍を止めずに、ランティノエ族が侵攻していた土地のすぐそばまで進軍していた部族である。

 両部族は亡命したアエミュルスより我々の情報を得ると、同盟を結び互いの子弟を交換した。


 先の戦闘から十四日程経ってから、我々はランティノエ族とグルパシア族が占領する土地を取り返すために進軍を開始するが、すでにランティノエ族とグルパシア族は川の対岸に集まって陣を張っており、我々の渡河を阻止するために幾つかの地点にも見張りを置き、渡河しようとする我々を何時でも本隊が移動して攻撃することができる態勢を整えていた。

 

 この川の名前はウェザヌスといい、川幅は問題ではなかったがその水深から重装歩兵の渡河には時間が掛かると思われた。

 ディアニクスは始めに投石機や射出機の建造を命じ、次に船を繋げて橋を建造しようとしたが、それまでの部族同士の争いにより敵の渡河を防ぐために船は破壊されたり、焼かれて沈められたりしていたものの、僅かな数の船を入手することができたが、これらの船は食料の輸送に取っておかなかればならなかった。


 

 ディアニクスはランティノエ族とグルパシア族の警備を緩めるために、グルパシア族の背後にあるファルケアス族の土地を占領していたブラキシオ族に同盟を結ぶ使節を送り交渉するが、族長のコロナはこれを拒否するものの、グルパシア族の窮地を知ると、その領土を狙い移動の準備を始める。

 ブラキシオ族の思惑を知ったグルパシア族は、ランティノエ族と対ブラキシオ族で同盟を結ぼうとしたが、ランティノエ族は自分達の方にその危険がなかったために同盟を断った、これにより両部族の同盟は崩壊、ディアニクスの思惑とは違ったもののウェザヌス川の護りは半数に減った。


 対岸の護りが二つの部族から一つになると、ディアニクスはパトロニウスに騎兵六千に弓兵と軽装歩兵を二千を就け、我々が敵を対岸に引きつけている間に渡河して、敵の郷を襲うように命じて送り出す。

 パトロニウス率いる部隊をウェザヌス川の下流に向かわせた次の日、我々はランティノエ族の陣営の前で全歩兵部隊を整列させると、ランティノエ族も全ての戦士を対岸に集めて戦闘態勢に入る。

 ディアニクスは渡河するかのように、騎兵と軽装兵を川の浅瀬の中に入れては後退を命じたり、レオニール引きる騎兵と同盟部族の兵を上流に移動させたりして敵の注意を引きつけ、パトロニウスの渡河が成功したとの報を受け取ると直ぐに全軍を撤収させて、ウェザヌス川より半日の距離にある森まで後退した。


 パトロニウス率いる歩兵部隊は、予め用意していた革袋に葦を詰めて水に浮きやすいようにしていたので、容易に対岸まで泳ぎ川を渡る事ができ、ディアニクス率いる本隊の陽動により、敵の妨害もなく指示通り全員が渡河に成功すると、護る者の居ないランティノエ族の郷を襲撃して回った。

 パトロニウスによる郷の襲撃を知ったウェザヌス川に集結していた戦士達は、物事を正確な数で語らない悪癖により敵の数を誤認し、家族の身を案じて浮足立つ、そして、同川の警戒に最低限の見張りを残してパトロニウスが率いる部隊の討伐に向かった。


 ランティノエ族の本隊が撤収するのを確認すると、レオニール率いる同盟部族軍の騎兵に、離れた地点から渡河して対岸にいるランティノエ族の背後を襲うように命じ、ディアニクス自身は歩兵と僅かな騎兵のみ率いて森の中から出ると、対岸にいるランティノエ族の戦士に向かい渡河をする振りをして敵の注意を引きつけた。

 ディアニクス率いる軽装兵と騎兵の偽装に釣られて川の中に入ったランティノエ族の戦士達は、対岸に並べられた射出機と投石機から放たれる、それまで見た事もない強力な攻撃に驚き慌てて後退し、背後をレオニール率いる騎兵に襲われて多くが屠られた。

 

 ランティノエ族が混乱しているのを知って、クエン・ディ・カーナとの境界線となっているボナ川の以北にいたメニシス族が、ボルノ・カーナに侵攻する機会と捉えて移動を開始したとの報が入る。

 ディアニクスは分散したランティノエ族の制圧と争っているグルパシア族とブラキシオ族がこの土地に侵入しないように、六個軍団と騎兵三千及び同盟部族軍の戦士一万五千をルフィスに預け、自身は軽装歩兵と重装歩兵を乗せた軍団騎兵と同盟部族騎兵を率いてボナ川に向かった。


 メニシス族はまだ部族の全員が川岸に到着していなかったので、先行した岸沿いに射出機を設置してメニシス族を威嚇すると、数日後に同部族は渡河を諦めて、森の中に引き返した。

 しかし、森の中に潜み我々が過ぎ去るのを待っている可能性があったので、少数の同盟部族を偵察のために川を渡らせておいて安全を確認すると、ディアニクスは四個軍団と同盟部族軍の戦士八千及び騎兵六千の兵を率いてボナ川を渡河、メニシス族の後衛を衝き彼らを北の奥深くに追い立てた。

 

 元老院がディアニクスに許可したのはボルノ・カーナでの戦闘であったために、クエン・ディ・カーナでの行動は素早く済ませねばならず、メニシス族の従順を取り付けたディアニクスは、周辺部族の長達と同盟を結び、これを無視した部族に対しては、警戒していなかった彼らの郷を荒らし回った後に同盟を結ぶ。


 ディアニクスがクエン・ディ・カーナで行動している間ボルノ・カーナでは、ルフィスが同盟を結ぶ事を拒むランティノエ族を平定した後、ラムフィス川の対岸に侵攻していた少数のラピティウス族の対処に追われていた。

 元々、ブラキシオ族がホムルクノ・ディ・カーナの土地からボルノ・カーナへの移住を決断したのは、エピストラ族とラピティウス族に土地を追われた事にあり、グルパシア族に戦いを挑んでいたのは、この二つの部族がラムフィス川を越えることを決め、移動を開始したとの話を聞いたからである。


 ラピティウス族を恐れてラムフィス川から少しでも離れた土地に移動しようとして、グルパシア族を攻めていたブラキシオ族だが、グルパシア族の激しい抵抗に南進するのを諦めて、ボナ川の支流がある東に向きを変えて、ランティノエ族の土地に侵入しようとするが、ルフィスの強襲により混乱に陥り、既に川を渡り終えていた者の多くが負傷し、川に逃げ込んだ者の多くが上流から流された木材に押し流されたり軽装兵の攻撃の的となったり、森の中に逃げ込んだ者の多くが捕らえた。


 そして、ルフィスはランティノエ族の監視のため、マルカに二個軍団を割き、ルフィス自身は残りの全軍で逃げるブラキシオ族を追撃、これにブラキシオ族はクエン・ディ・カーナへ向かうためにボナ川の源流が在るフォド山脈に逃げ込むと、ルフィスはその情報をディアニクスに伝えておき、一個軍団と同盟部族軍の戦士二千を砦の建設に残して、自身はラピティウス族の渡河を防ぐためにラムフィス川に向かった。


 ルフィスが最強行軍の後、ラムフィス川に到着した時には、ラピティウス族は七万程が渡河に成功していたが、我々が現れるとは思っていなかった彼らは混乱に陥り多くが屠られ、対岸にいた者達は森の中に逃げたが、ルフィスは川を渡ってそれを追撃すると、ラピティウス族は我々の移動の速度に驚き戦う意思を失って降伏した。


 既に頂上には雪が積もるフォド山を越えようとしたブラキシオだが、この山脈に住むフォド族に頭上からの攻撃や足を滑らせて谷底に落ちるなど、多くの戦士と家族を失い、ようやく山を下ると、進行を阻む野営地が築かれているのを目の当りにして、族長コロナを含む戦士達は士気を維持する事ができず、ディアニクスに降伏を伝える使節を派遣、これまで同盟を結んだ部族と同じ条件を飲むことを彼らが受け入れると、コロナを含む周辺部族との協議の下、クエン・ディ・カーナの土地への居住が決まった。

 

 その後、ラピティウス族の南進に怯えていたグルパシア族と同盟を結び、フォド族に使節を送り同盟を結ぼうとしたが、フォド族は自分達を制圧できる者などいないと考え、使節として赴いた元老のマーカス・マスキウスとガイウス・トレボニウスを捕らえて拘束する。

 使節の安全も保障できないフォド族の行いに憤慨したディアニクスは、強い決意を持ってこの蛮族の討伐を決めた。


 幕僚としてディアニクスと共に陣営に居た元老の報告により、ティタン元老院はディアニクスの功績を神々に感謝して、十日間の祭を催して多くの供物を神殿に納め、今後も戦争続行する事を決議、ディアニクスの要望により、その年の内にティタン軍六個軍団とアルトーエス軍四個軍団をボルノ・カーナに送ることを認めた。


 二個軍団のみを率いてフォド山に進攻したディアニクスは、峠から岩や荷車を転がすなど攻撃には、軍団兵が隊列を開けて遣り過ごし、頭上から降り注ぐ矢や岩及び荷車の攻撃には重装歩兵と軽装歩兵が隙間無く楯を構えて、その上を転がるようにしたので、軍団兵の損失は数名に止まり、フォド族は一番自信を持っていた攻撃方法が我々に通じない事を知ると、多くが山頂付近にある砦に逃げ込んだ。


 フォド族の砦はアルトーエスのシフィナシス族の物と同じように、巨大な岩の上やそこに通じる道が一本しかない様な場所を砦として立て籠もるもので、ディアニクスはフォド山の麓に待機していた残りの二個軍団に、木材を持ってフォド山に登る様に命じると、その木材を使って幾らかの損害を出しながらもフォド族の砦に足場を造り、または、砦までの道に敵が控えている場合には、褒賞を約束して崖から手掴みで登らせるなどして次々と砦を攻略してゆき、三度目の降伏勧告が出されても抵抗する者は処刑したが、素直に降伏して砦を明け渡した住民に対しては、同盟を結びその場に留まる事を許した。

 

 新たな軍団も到着し、季節は秋を終えようとしていたので、ディアニクスは全軍をボナ川とラムフィス川の周辺の砦五つに冬営させ、新編制の軍団には訓練を指示して、自身もティタン軍と共に冬営に入った。



 ボルノ・カーナに侵入した八部族を降し、ファルケアス族、アルフェフィア族、カルタル族、ウニキス族、ブリンダル族、セミサティス族、テニウニス族及びその他多くの部族の土地を奪い返すと共に。両ディ・カーナの多くの部族と同盟を結んだ。

 ここまでが「カーナ戦役」一年目、九七六年にディアニクス率いる遠征軍の成果である。




 一方、四個軍団を率いてディネント族討伐のためにアップル入りしたマグナは、初めはディアニクスの命令を守っていたのだが、ルフィス達の活躍を聞くと、自らも功績を欲してアップルに侵攻すると、戦端を開くために挑発行為を繰り返した。

 挑発に乗ったディネント族は会戦にて敗走、降伏も捕虜となることも認められずに戦士の多くが死亡し、その後、捕らえられた戦士は処刑され、残された家族は奴隷として売り払われると、ディネント族という部族を消滅、これにより得られた金やディネント族の家財は軍団兵に配った。


 アップルの王テサリウス亡き後、第一王子を推していた宰相と近衛長官は、マグナ率いる軍団の強さに驚き、実質的な戦力を殆ど持たなかった彼らはマグナを懐柔して自分達の味方に引き入れたいと考える、誘いに乗った振りをしたマグナは王都アクリアスに入城すると、第一王子のアムネリウスを含め多くの者を処刑、第二王子のテサリウスを王位に就けた。

 王都に籠もるアムネリウスよりも、防衛線で傭兵軍と共に戦うテサリウスの方に好感を持てたからだ。

 

 王都を陥落させたマグナは、アップル国内で募集した大量の国民を率いて防衛線に向かい、砦と防壁を建て直しつつ、防衛線に取り付く蛮族を破り、ティタン元老院の協力の許アップルとボルノ・カーナの国境線を確定、その際、蛮族風に境界地の木々を切り倒して、国境線を明確にしている。

 その後、未婚の傭兵達をアップル各地から集めた女と結婚させて、退役する者を家族と共に国境線沿いに作った新都市に入植させるなどして、彼ら傭兵が永続的にアップルの防衛線を護らなければならない様にしつつ、蛮族との共生を目指して、国境の周辺に住む蛮族との間に共同の市場を開くことを認めさせた。

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