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不死王国史  作者: 近衛キイチ
ディプス戦役
24/38

ウェルティコス再起

 我々はオニキアから進発して近づきつつある近衛軍団に向かう前に、ルクサニにて集会を開き、ネル家をニルギスから排しディアニクスにニルギスの王位を授けることを決ると、その旨をティタン元老院に伝える使いを送った。


 ガルバは最初の作戦にこだわり、我々から距離を取りながら後退し、遅れてくるフノンベバの軍団を待った。しかし、フノンベバの率いる二個軍団は分かれて行軍を続け、互いに連絡を取らずに東の地区に向かい、フォルスの率いる軍団は依然として進発するまで至っておらず、さらに、我々の移動速度は正規軍と近衛軍団が三日掛かって走破する距離を一日で進むという、信念も覚悟もない他の軍団には信じられない速度であったために彼らは常に我々の動きに翻弄されることになった。


 追い詰められたガルバは、フノンベバとフォルスに援軍要請を出しておき、小高い丘の上に陣営を作り始める。援軍が到着するまで籠る気であった。

 ガルバと近衛軍団は、その丘の周囲を掘り返して壕を作り、その内側に杭を打ち針金で互いを固定しつつ、杭を中心に土嚢を積み上げ、さらにその上に防柵を立て堡塁とすることで護りを固めた。


 ガルバの意図を察した我々は敵陣から離れた場所に陣営と攻城兵器を建造する、その間にルフィスはガルバに二度降伏を促し、ガルバは二度それを断った。

 二度目の投降拒否の後、ルフィスは戦端を開く。


 堡塁の上に立つ近衛兵は、石、槍、単なる棒きれ、焼いた土など、投げられる物は何でも投擲し、壕を埋めるため土嚢や草木を投げ込む我々の妨害をおこなった。

 我々も投射機で堡塁を破壊するが、どれもその日の夜の間に修復されたために激しい疲労感をもたらした。


 四日後には壕の一部を埋めることに成功するが、蛮勇を誇る部族出身の近衛兵は勇敢にも堡塁から飛び出して、壕を渡り堡塁に取り付いた者達との間で白兵戦を展開する。

 第一軍団の第一大隊で首席小隊長を務めたガイウス・ピウス等が堡塁の一部を破壊、彼は部下と共に内部に攻め入るが、陣営内からの応援に駈けつけた近衛兵に半包囲され、危うい所を第二軍団の小隊長コッタに助けられ脱出した。


 その日の夜、敵陣は騒ぎ立っており、ルフィスは歩哨を多く立たせて警戒した。しかし、敵陣から騒ぎ声はするものの何事もなく夜が明け、敵陣に偵察に向かった部隊はガルバと近衛軍団の姿はなく陣営は空であると報告した。

 ガルバは夜中に騎兵を残して陣営から進発、それを我々に気付かせないため騒ぎ音を立てていた騎兵も朝方になると陣営を放棄して歩兵の後を追ったのだった。


 報告を聞いた幕僚や軍団兵は、頼りにしている援軍が当てにならないと気付いた近衛軍団達は弱気になって逃げ出したと思い、直ちに出撃してその後背を攻めるべきだとルフィスに言うが、ルフィスは相手が待ち伏せしていた場合こちらの追撃が仇となることを警戒して騎兵を先行させた。これにより、近衛軍団は我々を谷間で挟撃するために二手に分かれてそれぞれ左右の丘に登り、我々が追いかけて来るのを待っていることが分かった。


 ルフィスは丘の間を通る道を使う事を避け、西の丘から攻めるべく、丘の背後に回ろうと道を迂回していたが、東の丘の上に居たガルバは森の中を進む我々が上げる僅かな砂埃によりその意図に気付き、西の丘に居る近衛兵を自分達の丘に呼び寄せた。しかし、近衛兵三千名が縦隊に隊形を変えて丘を降り始めたのを見たルフィスは騎兵二百騎を先行させて、降りて来る近衛兵の背後を衝いた。


 攻撃を受けた近衛兵は騎兵による背後からの攻撃と、さらにその後方から来る重装歩兵に備えて円陣を組むが、彼らは余りにも密集しすぎたために、思う様に動くことができなくなっていた。

 それを見たルフィスは、軽装歩兵に矢玉と石を重装歩兵に槍の投擲を命じ、その円陣を崩させてから重装歩兵を進撃させると近衛兵は敗走せざるを得なくなった。


 もう一方の丘に居たガルバは地の利を捨て、手許の近衛兵を率いて平地まで下りようとするが、そこをライト率いる騎兵と軽装歩兵に強襲されることで思うように動くことができず、包囲された円陣の中からニルギスの軍旗が消えるのを見ると戦意を失い撤退を始めた。


 ルフィスは逃げ出した近衛兵を追撃する部隊を呼び戻し、西の丘に居る近衛兵の包囲を完全なものとし降伏に追い込んだ。

 その後、我々はガルバの追撃には向かわず、後方に近づきつつある第一三軍団に向かった。

 第一三軍団の軍団長ウェルギウスは、険悪だったフノンベバにこの事態を伝えず陣営に籠るが、味方の危機を知ったフノンベバは第一三軍団を見捨てアカイアに逃げ込んだ。


 叛乱が始まって二ヶ月も経たない内に、ガルバにより任命された司令官は五名から三名となり、正規軍の残りは二万二千名余となっていた。

 これにガルバの率いる敗走中の近衛兵二千名余がいる。


 一方、ニルギスに存在していた叛乱軍は一万五千余であるが、二つに分断されていた。

 一つは、北と南と東の軍団から退役した者達でルフィスが指揮をする一万、もう一つは『アルペティナの誓い』の際から叛乱に参加していたビブルス・マルカ率いる第四軍団からの離脱組と西の地区で叛乱に参加するために集まった者達、合わせて四千名余である。


 マルカ率いる叛乱軍四千は、ルフィス達と合流すべく北方面の道を通り東に向かおうとするのだが、その途中、第一軍団の残兵を待たずに、配下の第六軍団を率いて進発したプラエコスに行く手を阻まれ遠回りをしている内に、ネルバ率いる第八軍団と第四軍団の残兵に背後を奪われてしまい、マルカは挟撃をされるのを防ぐため、護りの厚いリコティアに入ったが、それにより、ネルバとプラエコスの合流を許し、九千を越える軍勢に包囲されていた。


 ただ、マルカ率いる叛乱軍は幸運なことに、リコティアを包囲したプラエコスとネルバなどの軍団兵は攻城兵器を効率良く運用することを知らず、さらに、フノンベバやフォルスの軍勢と同じ様に反目し合い、攻城戦を合同で行わずに、一日交替で司令官麾下の軍勢を投入するという愚行を採用し、籠城する側とほぼ同数の軍勢で戦っていた。

 

 ガルバと近衛軍団の敗北を知ったコモスは、元の地位を取り戻そうと企て、ニルギス王の名声に疵を付けたとしてガルバを非難した。

 身近にいた秘書の言葉を信じたアンディコスは、ガルバから総司令官と執政官の職を取り上げ、新たにコモスをその職に就ける。


 ルフィスが早々に追撃を止めたため、敗走中の近衛軍団には二千余が残存しており、ガルバは散っていた親衛隊と残った近衛兵を纏め、兵らに敗戦の責任を押し付けることなく、負けて落ち込んでいる兵達を慰めた。

 奮起していた近衛兵の許に、ガルバの執政官職と総司令官職の剝脱を伝える使いが来る、これにガルバは激怒して近衛兵に事情を説明すると、近衛兵達はガルバに同情し、王都に籠り出てこないコモスへの怒りを露にした。


 王都に帰還したガルバは、指揮杖受け取るために王都の外で待っていたコモスを殺害、そのまま無防備な王都に攻め入り、ネル城に居たアンディコスを殺して、軟禁状態となっていたウェルティコスを解放すると再び王位に就けた。



 再び王位に就いたウェルティコスは、アルトーエス、イオ、ピラニレに援軍を要請、さらに、ディアニクスの動きを制限するために、キリキアとパシウスに多額の礼を約束してティタンの国境を脅かすように仕向けた。

 次にウェルティコスは、残っていた軍団兵に使いを送り、自身に忠誠を誓う様に求め、フノンベバ、フォルス、プラエコス、ネルバはウェルティコスに忠誠を誓う書簡に署名をすると、残っていた軍団兵もウェルティコスに忠誠を誓った。


 王都は五年前の叛乱の際にディアニクスが出した許可により、その防壁に使われていた建材は街の再建に使われ、さらにガルバが都市長官になった後も近衛軍団を設立する口実のために防壁の再建はおこなわれず、籠城するには不向きとなっていた。

 これに加えて、裏切りにあっていたウェルティコスは王都の民を信用しきれずに、ガルバに非効率な攻城戦を行っているプラエコスとネルバに率いられる軍勢の指揮系統を正すように言いつけてリコティアに向かわせておきつつ、ルフィス達をアカイアに釘付けるために、フノンベバには出来る限りのアカイアに籠り籠城戦を長引かせる指示を出し、フォルスとマグナを和解させるために王自らは近衛兵二千名と共に王都を出た。


 ウェルティコスは王都を出る際に叛乱軍に王都が使われないようにするため、近衛兵に命じて城門を破壊するが、興奮した兵により街の数か所に火が放たれる。

 この火事により王都オニキアは住民の三割が死亡、さらに残っていた防壁が倒壊した上に都市の半分が焼失した事で都としての機能を失った。


 アカイアの攻城戦を行っていたルフィスの許に、ウェルティコスの復帰と、彼がアルトーエス、イオ、ピラニレへ援軍要請と王都が放火により焼失したとの情報が入る。

 ルフィスは王都で起きた情報を兵士に知らせる事を避けようと努力したが、恐らく叛乱軍に物資を売る近隣住民から兵士の耳にその情報が入ったのだろう、叛乱軍の兵士は援軍もなく諸国の傭兵合わせて数万の軍勢と戦い続ける事に絶望し士気が低下した。


 攻城戦から二十日後にアカイアを落とした叛乱軍だが、そもそも、敗走した近衛兵の追撃を中途半端にせずに王都の攻略に掛かっていれば、この様な事態を防げたのではないかと考えてルフィスは後悔し、叛乱軍全体の活動が低下していた。


 しかし、ティタンよりパトロニウスが密使としてルフィス達の前に現れ「必ず援軍に向かうのでそれまで希望を捨てないように」とのディアニクスから言付けを聞いた兵士達は士気を取り戻して、ルフィスはディアニクスから総司令官の任を託された身として、自らの全能力を持って援軍が到着するまでの間に叛乱軍を瓦解させないために奮起すると、リコティアを目指して進発を命じた。

 

 リコティアに到着したガルバは、指揮系統を一本化すると、軍勢を率いてウェルティコスの許に向かった。

 これにより、分断されていた叛乱軍は容易に合流することができ、総数は一万五千名を超えた。

 我々は引き続きルフィスを総司令官、ライトを総司令官代理とする事を決めると、ガルバとウェルティコスの合流を阻止するために南進した。

 

 第九軍団のマグナと第一〇軍団のフォルスとの間に起きた諍いにより、国境地帯より出て来られなかった南の正規軍の許に赴いたウェルティコスは、出迎えた第九軍団の軍団長マグナと面会をすると、その席で彼を逮捕した。

 第二軍団、第九軍団、第一〇軍団、第一一軍団の兵士を集め、南の四個軍団が機能不全に陥った責任の全てはマグナにあるとして、彼の処刑を命じ軍団の綱紀を正すと、四つの軍団を解体して、定員が二千名まで減っていた近衛軍団に編入させることで、罪に問われるのではと内心恐れを懐いていた将兵を安心させる事に成功、その総数二万は超えた。


 ここで、アルトーエス軍がニルギスに侵入したとの報が入る。我々はニルギスの正規軍を追うのを止めて、全軍で今後の協議を行い、ルクサニへの後退が大勢を占めた

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