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不死王国史  作者: 近衛キイチ
ディプス戦役
23/38

叛乱の再開

 ディアニクスが即位してから数十日、ニルギスの北の地区にて蜂起が起きた。その首謀者は我々と共にルクサニで蜂起に参加した後、ディアニクスと意見が分かれ叛乱軍から退いたアルミゲル・ブルクだった。


 叛乱の後、ブルクは仲間と共に東の地区に在るクレイトルという街の市域内で暮らしていた。

 彼は何年経っても以前と変わらない状況や、ガルバの政策により懐柔されてしまった仲間達や途中で事を投げ出し他国の王位に就いたディアニクスに対しても憤りを覚えており、自身が何かをしなければならいと感じていたが、自分ではディアニクスのような指導力を発揮できないと考え、事態が動く切っ掛けを待っていた。

 そしてブルクが待っていた機会が訪れる。


 ある男が幾つかの不運により、金を借りなければならなくなった。それは、数年に一度起きる不作のため、または、豊作による価格の下落分を補うため、妻の病気を治すため、神託に評判のある神殿までの旅費と各地で支払う賄賂に神殿に払う礼金と犠牲獣を買うためと、理由はいくつもある。

 その後、男は利息を払えずにいると、代わりに土地を奪われることで生活の糧を失った。

 国内どの場所でもこの様な借金による生活苦に陥っている者は多くいる、その後、男はクレイトルの街で何とか金を得ていたが、それで得られる金は残った借金を返済するには全く足りず、家族共々奴隷に売られた。


 男は広場で自分の状況を涙ながらに訴え、それに同情した者や同じ状況にあった者達が集まり、広場に集まって都市長官に男の借金の取り消しを求めた。

 しかし、クレイトル住民からの要請を都市長官は拒絶、これに対して広場にいた者達は私兵と共に邸宅に籠っていた債主を襲撃する。

 これに都市長官は直ちに三百の兵を送り、住民数名を殺した。


 逃げずに残った者は投石を行い、街にいた元軍団兵三十名と長官の命令に背き民衆に味方した兵士は広場に集まり、追ってきた兵士達を待ち構えた。にらみ合いの後、数での不利を補うために、狭い場所に敵を誘い込むべきと考えたブルクは、広場から撤退して狭い通りに入るように号令を出した。


 ブルクの号令により、貧困者が多く住む旧市街の狭く入り組んだ通りに入り、彼らは密集隊形を組み、隊形も組まずに長剣を振り回す敵兵に突撃した。街の住民が建物から敵兵に物を投げて応戦し、ブルクが半数の元同志を率いて敵兵の裏に回り込みその背後を衝いたことで敵は戦意を消失して降伏した。


 クレイトルの街は歓喜に沸いた。しかし、直ぐに住民の気持ちは沈んだ、王が自分達を許すはずはないとの考えに至ったからである。このまま蜂起を続け王と戦うのか、王に許しを請うかで住民の意見は分かれ争いを始めた。

 このまま蜂起を続ける積もりだった元軍団兵達と、実際に戦いに参加した若者達がブルクを指揮官とする事で纏まったので、街全体は蜂起を続けることになった。

『コルネリットの叛乱』という成功例があったために、人々の心境は以前よりも希望に傾いていた。


「どんな名匠でも最後まで事をなさなければその作品は失敗作として朽ち、やがて歴史の中に消えるだろう。

 しかし、この作品はまだ朽ちてはいないし、破壊されてもいなければ誰も忘れてはいない。全てが作りかけなのだ。皆、この作品が完成されるのを待ちわびている、さぁ、皆いつまで眠っているのだ、時を知らせる鐘は鳴った、着飾った長衣を脱ぎ捨てよう、短衣に着替え、仕事道具を磨きいつでも使えるようにしておこう。君達以外には、この作品を完成させる事ができる者はいないのだから」

 集まった聴衆にとってブルクの演説は意味の解らないものだった、その上、ティタンに居たマグナと国境のルフィスに向けてアルペティナの小さな像を送った意味を理解しきれなかった。

 

 アルペティナ像を受け取ったルフィスやライトは、ブルクが元叛乱軍の兵士達に援軍を求めているのが解ったが、ブルクから像を受け取ったディアニクスは、元老院と国民を説得して越境をするにはまだ材料が足りないと感じており、元老院の承諾を得てブルクには資金を送るだけしかできなかった。

 像を受け取ったルフィスやライトは直ぐにでも行動に出たいと考えていたが、まだ軍団内の同志達の気持ちが固まっていなかったために、信頼のできる指揮官達と連絡を取るのみに止まっていた。

 

 ルフィスの許にブルクからの手紙が届いてから数日後、ガルバの許にクレイトル蜂起の報が届く、ニルギス国内に蜂起の噂が広まるのはさらに十数日かかるが、元軍団兵や現状に不満を持つ者が各地で集まり『アンディコスの宣言』を履行するように求めた。



 オニキアでは食料と娯楽に加えて金の支給が十分だったので、王都に住む者の大多数の者は現政権に懐柔され不満を持っていなかったのだが、少数の者等が集会を開こうと王都の中央広場に集まる、しかし、ガルバは民衆の言う事等聞く耳を持たず、広場に近衛兵を向かわせ、その場に居た者を殺害して集会を解散させた。

 各地で起きる蜂起に対して、ガルバは近衛軍団を使おうとはせず、国境の軍団を試す意味も込めて、どんな手を使っても蜂起する民衆を解散させるように命じた。


 国民に対して剣を向けるように命じて来たガルバに対して、僅かな希望も持っていなかったルフィスだが、彼は内乱を防ぐために蜂起に参加している者との話し合いをするように頼むのだが、ガルバはルフィスを解任する理由ができたと喜び、彼を王都への召喚を決めると共に、もしも、ルフィスが召喚に応じなければ殺害するように使者に指示を出して送り出した。

 しかし、ガルバの思惑は密告者によりルフィスに知らされ、この事が全軍に伝わると、軍団内にいて悩んでいた元叛乱軍の兵士達は蜂起に参加することを決めた。


 第一軍団は『スレイヴス戦役』の最終戦で起きた遭遇戦の折、多数が負傷してアルトーエスに残っていたために軍団に残っていた三分の一が、第二軍団から第四軍団まではほぼ四分の三が、第五軍団からは半数が離脱を決めた。

 各軍団長の親衛隊を入れた十三個軍団六万二千名と騎兵二百騎の内、七千二百名の軍団兵と騎兵百騎が叛乱に参加することになった。




 ルフィスたち離反者が砦を出る際に、残った軍団兵と戦闘が起きるかと思われたが、彼らは整然と隊列を組んだ我々離脱組に近づこうともしなかったので、我々は集団で砦から出ることができた。

 第一軍団から第五軍団までに所属していた兵は、自らの意思に従い行動に出たが、第五軍団以降の八個軍団を指揮する軍団長から小隊長までは全てガルバが選定に関わっており、王都に忠実な士官達は離脱者を警戒し、王都の命令に違和感を持った少数の軍団兵は処罰を恐れて何も言えなかった。


 国境の軍団を不審に思っていたガルバは我々の行動を知ると、軍団を離れた我々を叛乱軍と公称し「国家の敵」に指定、叛乱軍に協力する者は厳罰に処すと布令した。

 ガルバはルフィス達は地の利があるルクサニの周辺で集結すると考えると、ルフィスに代わり自らを総司令官に任じ、叛乱軍の集結を阻止するために、残った八名の軍団長から五名を司令官に選び、駐屯する各要塞から出て来る叛乱軍の足止めをするように命じつつ、ルクサニ方面に行く叛乱軍を待ち構えるために、自身は近衛軍団八千を率いて王都より進発した。


 各軍団が各個撃破されないために、ガルバは各防衛線の軍団長から司令官を任命したのだが、彼は間違いを犯した。

 第六軍団は少し早いが第七軍団から第九軍団は同時期に編制され、その後、少し間を置いて第一〇軍団から第一三軍団が同時期に編制されている。

 これらの軍団は実戦経験どころか訓練も満足に行われておらず能力的にも同列といえたが、ガルバにとってルフィスを警戒せずに選別が行えた一〇軍団からの方が裏切る可能性が低いと感じており「数が若い軍団ほど優位性を持つ」というのは始めから勘違いでしかなかったのだが、番号が近く権限も同じと思っていた者同士にとって、同格の相手に従わなければならないというのは、何よりも腹立たしいものだった。


 敵対していた部族の出身だったこともあり、第一二軍団の軍団長だったフノンベバの命に、第一三軍団の軍団長ウェルギウスは、軍議の際には司令官の提案に反発しては場を混乱させて議論を停滞させる。

 上官同士がいがみ合った状態は中隊長の間に敵対心を生み、士官達の険悪な雰囲気は下級兵士にも伝わり、共に野営地に入れば些細なことで争い、水汲みに行っていた第一二軍団と第一三軍団の兵が些細な事で言い争いを始め、それが死者を出る程の暴動に発展し、それを見た第五軍団に残っていた兵士達は脱走すると叛乱軍に合流、フノンベバは第一三軍団の指揮を諦め、お互い別の道を選択してルクサニへ向かうことになった。


 単純にルクサニから近い軍団ということで、南の国境地帯の東の砦を担当していた第一〇軍団のフォルスが司令官に選ばれたのだが、同じ国境地帯の西にある在る砦を担当していた第九軍団の軍団長アルベ・マグナは、自分よりも格下と思っていた第一〇軍団の軍団長に命令される事に怒りを覚えた。

 マグナは同じ国境地帯に駐屯する第二軍団の残兵と第一一軍団に自分を支持するように説得すると、何かと理由を付けては進発を遅らせ、最終的には、第一〇軍団が砦から出れば敵対行動に出るとまで宣告した。

 

 ルフィスとライトはそれ以前からの遣り取りで、分散したまま王都に向かえば近衛兵と正規軍に挟まれ個々に撃破されるとし、ガルバの考えた通りルクサニを集結場所に選んでいた。

 しかし、ガルバは叛乱軍の行軍の速度を把握しておらずに、己の予想に固執してしまい、彼はその誤りに気が付くこともなく、ルフィス率いる三千二百名はブルク率いる元軍団兵など合わせて八百と合流し、さらにルクサニでは、ライト率いる二千名余と、東の国境線に在る砦から来たクルクス率いる二千余に、さらに叛乱に参加し『スレイヴス戦役』の終了とともに退役した者達と合流、計一万を超える兵力を擁するようになっていた。


 余りにも少ないように思われた叛乱軍だが、ガルバにより除隊させられた騎兵から、ディアニクスと共に戦った経験を持ち己の力に自信を持っていた者達は、我々が叛乱を起こしたことを知るとこの戦いの勝者がどちらになるかを確信し、親兄弟の反対を押し切り騎兵として参戦した。


 集結したルフィス達は、クルクス達を追ってきたゴダンの率いる第七軍団と第三軍団の残兵を目指す、実戦を経験した事のないゴダン率いる軍団兵は、叛乱軍の多さに驚き、ゴダンの説得も通じず軍団兵達は降伏を決めた。

 降伏を受け入れたルフィスは、彼らの武具を没収し、二度と我々に剣を向けないことを誓わせると解放した。

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