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不死王国史  作者: 近衛キイチ
ディプス戦役
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ティタン王国について

 ニルギスの東を接する国はティタン、王都の名はフリニア、王セルスティヌスは老齢に入って久しい。

 同国はミリディウムの文明開化による混乱の折りに、王を有名無実化して政治から追放していたのだが、周囲の国で次々に台頭する僭主に危機感を覚えた元老院は王を呼び戻して、その権限の一部を元老院の名で与えることで全権を掌握しようと画策していた同僚達の牽制とする、これによりミリディウムの中では珍しく平民が選挙に参加する制度が残っている。


 ティタンの国政を簡単に記せば、傭兵を雇う事を禁じ、代わりに武装可能な市民が任期により兵役を課せられており、非常事態には直ちに召集すると決められている。

 元老院が作成した法案は音読と文章の形で国中に伝えられ、その年の兵役該当者から毎月選ばれる百五十名の代表は、国中に設けられた宿駅を使い、法案の許否を決めに月に一度王都に向かう。

 王都にやって来た兵役該当者の代表は、王都の市民から選ばれた兵役該当者と共に兵員会を開き、上級政務官と下級政務官の選挙、宣戦と講和、元老院の出した立法や予算の賛否と、重罪に対しての判決を下す。


 元老院は、各地の有力者や有産階級等、国家に対して特別な功績などを持つ者がその資格を有し、六十万セナリウスの資産を持つ事が確認されれば世襲が認められていた。

 その政務の内容は、税の徴収と予算の取り決めや法の作成等の庶民が面倒だと感じる国の根幹を担当し、兵員会での判決に不服な者に対して、王と共に再度裁判を行い判決を言い渡した。


 王は、神官団の長と神祇官を兼務しており、種まきや収穫時期の宣言に祭りや神事の儀式を司る、その収入は各市町村の神殿への捧げ物からの一割に頼った。戦時の際にのみ最高指揮権が王とその家族に認められ、戦場で直接軍団の指揮することを求められた。これらは元老院から僭主の台頭を防ぐためにある。

 さらに王は、二名の執政官が非常事態を宣言した場合には、半年間の期限付きであったものの、元老院と兵員会の承認を必要とせずに執政官と共に法の立案を行うことができる、絶対命令権が与えられ事態の解決を託された。



 ティタンと南東に国境を接するエディンは、アルフォという狭い平地の土地を奪い合い、無駄な労力を費やしてきた。

 ある時期に偶然、両国で同じ意見を持つ王が現れて、アルフォに自治を任せる代わりに、両国に税を払う事で領土問題を決着させた。

 しかし、九六三年、首長ビト・アルフォの死により、ティタンに融和的な息子ソニとその弟でエディン王に懐柔されているコニによる後継者争いが始まる。

 

 翌年には、その支持者達による流血の惨事まで起きる、それを見兼ねたセルスティヌスが仲裁に入ると、エディンの王スプリヌスは条約に抵触すると批判し、ティタンがアルフォに介入するのを制するが、スプリヌス自身はコニを利用してアルフォに傀儡政権を作るつもりであった。

 

 東の赤海に繋がる内海のマーレ海はアエミリア王国とミリディウムを繋ぐ貿易路としてかつては多くの櫂船が往来しており、この内海の奥に位置するエディンは国土の南が海に接しており、北西にティタン、西にパシウス、北部にアップル、北東にアリアン、東にペルティペがある。

 当時は櫂を使う者の数が多い方が有利であり、エディンは領土の広さから一時は海運国であるゲルタニアやアイルモの港を奪い、自国の民を植民させると都市国家として独立させるなどして流通を独占していた時期もあった。


 しかし、三角帆の登場と航海術の発達により、エディンの港をわざわざ経由する必要がなくなり、本国よりも寄港のために市民を入植させていた都市の経済が潤う、そこから生じた不和と争いにより、エディンは海運業に力を入れるのを止め農産業を育て始めた。

 本国の支援を受けられなくなった入植地の海運業は、アイルモとゲルタニアの反撃に対抗できずに衰退し、一部の貿易商は海を渡り歩きその名を馳せるがやがては消えていった。



 エディンは以前からニコに対して資金の提供をおこなっており、それらを知ったソニはティタンを味方にしようと、自分が首長に就いた暁にはエディンへ税を納めることを止め、完全にティタンの保護下に入ると記した書簡を出すのだが、その書簡を持った使者が道中にてコニの仲間に襲われ、その内容がエディンに伝わってしまう。


 宮廷内の権力闘争の外にいて、自分が王に就くと思っていなかったエディン王スプリヌスは、自らを擁立した者達の影響力を弱めるために権威を確立させることを望んでいた。

 そして、それを海運業の復興ではなく、領土の拡大で果たそうとしており、ティタンとソニの接近を知ると焦ったスプリヌスは、二千名の傭兵を盗賊に変装させてアルフォに向かわせた。


 エディンの傭兵達は次々に街を襲い、ソニは管轄する地域から追い出されてしまうのだが、この時に捕らえられ無法者がスプリヌスの就任を祝い鋳造された銀貨を持っていた。

 捕らえられた無法者は口を割らなかったが、ただの無法者が特別な銀貨を持っているのは妙だとして、ソニと彼の支援者はエディンの関与を決めつけるとティタンに援軍を要請したのだった。


 要請を受けたセルスティヌスと元老院は一度はこれを無視する。もし正規軍を送った場合、問題はアルフォの後継者争いに留まらず、ティタンとエディンの領土問題に発展することは容易に想像できたからだ。

 しかし、州都が陥落しコニが首長に就くと噂されると、傭兵を討伐するためソニに資金を与えるが、雇った傭兵隊長の裏切りによりアルフォ内は略奪と破壊が広がった。

 

 アルフォと国境を接する地域出身の元老達が危機感を持ち、元老院内の議論は紛糾するが、それでもまだ元老院の大勢はエディンとの開戦を望んではいなかった。

 しかしエディンで傭兵の集結が始まると元老院は開戦を決断し、セルスティヌスの次男のウィルスティヌスに二個軍団八千の指揮権が与えられる。

 

 戦端を開きたかったスプリヌスは、ティタン元老院の議論と軍団の編成を条約違反として九六五年に開戦の意を示すと、それと同時に傭兵と徴兵した市民合わせて三万五千を率いてアルフォに侵攻を開始。


 増援の到着までの時間を稼ぐため、ウィルスティヌスは奇襲攻撃を続けるが、ソニの仲間の中にいた裏切り者によりエディン軍に急襲され斃れる。そして、急遽指揮を引き継いだ末子クインティヌスは、少数となった市民を率いて、無謀にも一騎討ちを挑むために単騎でスプリヌスの前に現れるが、その望みは無視され彼は捕らえられた。


 高齢の父に代わり、ティタン軍六個軍団二万四千と騎兵八百を率いてきた長子コンミティアヌスだが、スプリヌスに傭兵を使いこなす才が有ったのか、緒戦から負け続けてしまい、三千以上の使者を出す会戦の際、自らも徒歩で戦い戦死する。


 頼りにしていたティタン軍の敗北に絶望したソニは逃亡し、彼の支持者は分裂して無力化するとコニが首長に指名されることなり、コニの首長指名により、大義を失ったティタン軍の撤退を始めるが、それに乗じてスプリヌスはティタンの侵攻に乗り出した。


 油断していた所を強襲されティタン軍は要塞に逃げ込み籠城を行う。幸いにも、傭兵軍には攻城戦を行うだけの根気がなかったおかげで籠城戦は長引くが、スプリヌスは捕らえていたクインティヌスを城壁の前に連れ、彼の命と引き換えに降伏を迫った。

 一騎打ち挑むことからその性格が判るように、クインティヌスは自らを取引に使われる事に我慢ならず、その日の夜に縛っていた縄を使い首を吊って死ぬ。


 砦に籠った正規軍はまだ持ち堪えていたが、王の息子達が全員死亡してしまった時、高齢の王以外にその軍団を指揮する権限がなく、その後も影響力を持つことになる同僚議員や、戦で過去に功績を持つ者に指揮権を与えた場合、ティタンの国政に危機を招く可能性があるとして、元老院は他国出身の傭兵隊長を探していた。

 こうして、それまでの功績と発言からティタンの制度をある程度理解し、尚且つ、政治に対して不必要な介入せずに地位に拘らない者としてディアニクス・コルネルが選ばれた。


 ルクサニに戻っていたディアニクスは、ルクサニの市域内の丘にコルネリットとコルネリアの銅像と霊廟を造る計画と共に、元軍団兵と共にバールジャーが中断していた街の拡張と周辺の開墾をおこない、近隣集落と最短で行ける街道を造り、ルクサニが都市となった際の準備を行っていた。

 さらに紡績だけではいずれ街は廃れるとして、次なる産業に香水の生産を考えており、土壌の改良について各地から人を呼んで植物の勉強を始めていた。


 しかし、セルスティヌスの使者から話を聞き、アンディコスの王位就任の際には、真っ先に使節を送り帰して信頼を示したティタンを想い、両国の友好のために、マグナやパトロニウスなど元軍団数百名がディアニクスと共にルクサニから旅立った。

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