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不死王国史  作者: 近衛キイチ
コルネリットの叛乱
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アルトーエス戦役・後

 市壁の焼失により籠城することを諦めたスレイヴスは王都を捨て、武装させた王都の民八千と傭兵五千と共に王都を出ると、北部に分散配置させていた傭兵軍三千名と合流し、続いて西の傭兵軍二千と合流するために、北西に在る山の頂上に造られた城塞都市に向かった。との報が入る。


 経験の浅い少数のニルギスの軍団兵は、敵の多さに驚き恐れ、敵地に深く入り過ぎたから、これ以上進めば兵站を得られる事が出来ないなどと口にしては不安を誤魔化し、陣の設営から天幕の解体まで、あらゆる行動を遅くし、それは行軍に支障をきたす程であったので、ディアニクスは全階級の小隊長まで集めての軍議を開き、彼らに語った


「この戦いに負け失敗に終わるのか、勝利して成功に終わるか、我々の起こした叛乱の行く末は二つ存在する。

 我々が追い詰められている、そう思っている者もいるが、それは違う、窮地に立っているのはスレイヴスである。

 彼は我々と戦わず、無傷で王位に居続けることができる唯一の機会を自ら捨て、数を揃えれば対抗できると勘違いし、その間違いに気付いていない。

 何を恐れる。

 このディアニクス・コルネルの指揮に不安を持つのか、ならば、ここまでの戦いを思い出してみよ、私が諸君を敗北に導いたことがるだろうか。

 我々は神々の祝福を受けているのだ、強い意思を有する者が勝つとは思わないが、しかし、戦う気のない者が勝利を得る事ができるだろうか。

 兵站の心配をする者がいるが、現在、我々と同盟結ぶ街や都市は多くあり、たとえ敵が国境に現れ本国からの補給が無くなろうと、同盟を結んだ諸市から補給を得れば良いのだ。

 無用な弱音を吐き、軍団の士気を下げる者は、我々の勝利を約束しておられる神々の怒りに触れ、その意思に背く行為だと承知しておくべきである。

 夜明けより強行軍に入る、奴らが城塞に入る前に開戦を挑み、この戦役を終わらせる。

 その際には、敵の全てが動かなくなるまで、進撃を止めることは許さない」

 大隊長や小隊長からディアニクスの言葉を聞いた兵士達は、自分達は大丈夫だと総司令官に伝え、その証拠を見せたいと戦いに逸った。


 我々はかつてない速度で行軍を続け、幸運にもその間一度も天候は荒れることなく、半日の休みを挟んで三日目にして、先行していた騎兵がアルトーエス軍の後背を強襲する。


 スレイヴスは我々がまだ遠くに居ると思って警戒を怠り、斥候を放つのを忘れていた。動揺した王都の住民は隊列から逃げ出し、最後尾を突かれた傭兵も動揺して逃げ出そうとするが、スレイヴスは彼らを説得してその場に留め、それを見た他の傭兵も逃げるのを止め、反転して攻勢に出た。


 これにより、敵の最後尾に食い込み、散り散りになりながら白兵戦を行っていた第三軍団は、反転して来た傭兵軍に取り囲まれるが、各兵士は咄嗟に近くの軍旗に集まると個々に隊列を組み応戦した。


 そして、第三軍団の許に騎兵と軽装兵が駆け付け、敵の背後を急襲したので、第三軍団は体勢を立て直す時間が与えられ、次に来た傭兵も見事に打ち破り、スレイヴス率いる五千前後の傭兵が進撃してきた時には、遅れて来た第四軍団が戦列に加わり、ルフィス率いる第一軍団が迂回して、相手の右翼とその背後を衝くと、傭兵達は逃げ出し始めるが、ディアニクスと共に敵の後背に回り込んだ軽装歩兵と騎兵により退路を断たれる。

 戦列の中に取り残されたスレイヴスは絶望すると馬を捨てて歩兵として戦列に加わると、幾つもの傷を負いながら死んだ。



 半日以上続いたこの戦闘により傭兵三千以上が死に、二千を捕虜とした。

 この戦いで軍団には多数の負傷者がでた。その中にはこれ以上の行軍は耐える事が不可能な者も多く、そういった者は同盟を結んだ集落に預け、火葬した遺体の骨は、今後ニルギスで兵士のために造る霊廟に入れるため持ち帰ることになった。


 ウェルティコスは敗北が明らかになると戦場から逃げ出そうとしたが、パトロニウスの投石がウェルティコスの馬に当たり、暴れた馬から落ちた所を捕らえられた。

 スレイヴスの遺体は、彼の先祖が造った霊廟に入れるのが礼儀として、王都まで運ぶことになるが、傭兵達の遺体は放置し、その装備を使いその場に記念碑を建てた。



 そして我々は無抵抗のリアナッカスに到着した。

 王都の防壁は雷により焼け焦げ北側の壁は完全に倒壊しており、確かにこれでは籠城は不可能かと思われた。

 ディアニクスは王都の住民を召集して集会を開き、スレイヴスの後継には、我々を恐れ逃げ出した他の者とは違い、王都に留まり我々を迎え入れたスレイヴスの息子アケメウスを推した。


 スレイヴスの持っていた称号を引継ぎ王となったアケメウスは、国内の傭兵軍と再契約すると共にディアニクスと会談を行い、先に記した条約から六項目目までを受け入れるが、平民による集会は政権が崩壊する要因になるとして拒否した。

 同盟更新、ニルギスと個々に同盟を結んだ都市の安全、特権階級による私刑の廃止が守られるならば、ディアニクスもそれ以上は求めず、ニルギスとアルトーエスで講和が結ばれた。


 南の国境線を護る傭兵軍と対峙していたアルクレイシスはディアニクスの仲介で王都入りを果たし、新たなアルトーエスの王と同盟を結んだ。

 ディアニクスは、賠償金により新たな課税や戦役が誘発されるのを懸念して、戦った傭兵達が身に着けていた高価な装身具で十分足りるとし、賠償金等の支払いを求めなかったので、春の内に『スレイヴス戦役』は『リアナッカスの条約』の調印をもって終結する。

 

 

 我々の帰還より一足早くニルギス国内には勝利の情報が駆け巡り、ニルギス軍が立ち寄った街々で感謝祭が催された。

 九六六年の夏前には、それまで同盟更新の意思を表さなかった周辺国から大使が派遣されたのと、内外で戦争へと繋がる不穏な動きが消え去るのを確認して凱旋式の開催が決まった。


 各国の大使を待つ間、ディアニクスは戦死者の霊廟を造り、死者の遺灰を納めた。そして、遺族には支給されなかった数カ月分の給料、退職金、年金、三年間だけ免税を受けられる印を押した銅板に、戦役終結の祝いに造らせた銀貨を送った。

 叛乱に初めから参加していた者達はようやく喪明けの髭を剃り、コルネリットの遺言であるコルネリアの葬儀を行った。


 王都にて、神々へ勝利の報告をするため大神殿に向かうのは、先頭には四頭立ての戦車に乗ったアンディコス、次には白馬に乗ったディアニクス、その後を軍団長、各部隊の隊長と騎兵が続き、各軍団兵は磨かれた武具に着替え、民衆は赤と白の花を振りまき彼らを祝福する。

 その後は、今回の戦いを模した模擬戦や、アルトーエスで出会った者達との談話を演劇にしたもの、各種競技の王者を決める大会等が十三日間に渡り行われた。


 凱旋式が終わってから数日後、突然、ディアニクスは全ての職から退くと宣言し、組合の長による交代制をそのままに執政官代理を正式な執政官に就けると言ってウェルティコスを驚かせた。


 彼は、彼の決めた制度を次に引き継がせることで、改革を叫ぶだけで地位に固執した僭主とは違うことを証明したかったのだが、そのような意図を理解していない王は何とか考え直してほしいと説得する、しかし、ディアニクスの意思は固く、後任の総司令官にはルフィスを推して、その日の内に王に執政官職を返上すると王都を出てルクサニへ向かった。


 総司令官の辞任に続き、マグナやパトロニウスなど多数の者がディアニクスと共にルクサニへ行き、ティティロなど義勇兵として参加していた者達四千名余が、叛乱により起きた騒動は静まったと判断して退役した。


 叛乱の成功と『スレイヴス戦役』の勝利により、正規軍への入団希望者は多く、数の上では、四千名が退役しても支障はなかったのだが、退役した者の内『アルペティナの誓い』を行った者に対して、ルフィスやライトは自分達に課せられた重責を思い、彼らを無責任だと非難した。

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