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不死王国史  作者: 近衛キイチ
コルネリットの叛乱
14/36

アシッピアの会戦

 コルネリット自身は復讐の半分を果たし満足したのかも知れない、だが一騎打ちによる復讐という発想は指揮を執っていた者達にはなかった。叛乱の旗手を失った動揺から立ち直ったルフィスやマグナなどのいわゆる指揮官連中は彼の行為に対して失望を感じ、信頼が厚いはずのルクサニ出身者の中からも彼の自己満足に付き合わされたのかと怒りを表明する者が現れる。


 コルネル家の子供達と幼馴染連中は、ディアニクスとコルネリットの両者が相談をして物事を決断していたのを知っていたので、ディアニクスが叛乱の旗手になることを素直に受け入れることができた。しかし、今までの行動全てがコルネリットの主導だと思っていた者達はこれを受け入れることが難しく、不満分子はこれに乗じて動揺する者を扇動したために数名が逃げ出し、残っていた者達の間にも不安が漂うことになる。


 叛乱の旗手を任されたディアニクスは、傭兵から奪った戦利品を相場よりも高値で買い取ることで浮足立つ者の心を鎮めると共に、指導者としての立場を確立するために彼の主導でアルペティナの名の下に不屈の誓いを交わす。

 なおこの『アルペティナへの誓い』は大げさなものではなかったのだが、危機が迫るたびに我々の心の支えとなる。


 動揺から立ち直った我々は、戦闘中に捕らえ損ねた傭兵が盗賊行為をするのを防ぐために森の中を探索する共に、行く先々で募兵官を拘束してその名簿を奪うことに成功する。

 名簿を元に傭兵に登録した者を見つけ出しては、彼らに我々が傭兵同士の行う金を得るための生温い戦いではなく、本当の殺し合いをする覚悟だと伝え、叛乱が終わった後にも名簿にその名があれば報復すると脅した。




 王都オニキアはニルギスの中央からやや南寄りにある、アルペニアの解放により起きた急激な文明化から都市国家同士の併合により発展し、東西の嗜好品と共に文化が通る場所、その首都は最盛期には十万を数え、市内には集合住宅がいくつも建てられており、それでも住む場所が足りなかったために市壁を越えて人家が立ち並んでいたのだが、九六五年には市壁の内側で事足りる五万以下にまで減っている。

 王制時代には都市の中心にある三つの丘の一つに王の城塞が建ち街を支配していたが、その後、共和制の時代になると増築されて元首の館と議事堂が建つようになり、アナハルドによる改築で再び城塞となり、その後、幾度かの叛乱により城と丘の一つを防壁が取り囲むようになっている。

 そして、城が建つ丘の周囲にある高所には、湿気が溜まる谷間から逃れた金持ち連中が住んでいる。



 叛乱の開始直後はコルネリットの手紙に騙されていたニルギス王ウィルティコスだが、リコニスの都市長官が敗れたのを境にコルネリットに対し懐疑的になる。

 さらにコルネリットの死を知ると自身でも募兵を開始すると共に砦の司令官達と都市長官達にも募兵を命じるが、ディアニクスから賄賂を受け取っていた司令官達の行動は遅く、彼らは王に対して給料の引き上げや酒の購入代として多額の金を要求する。

 我々を侮り、傭兵の怠慢に我慢ができなかったウィルティコスは王都に駐留させている傭兵四千と王都の住民七千名に加えて、遠征の話を聞いて金儲けの機会と捉えて何処からか遣って来た商人や娼婦などを酒保として率いてルクサニへ向かった。


 王が率いてきたニルギス軍は、途中で都市に配していた傭兵や普段は森の中に潜んでいる犯罪者に加え、有力者の子弟やその私兵を吸収して二万余となる。

 傭兵の中でも王の側近である精鋭は他の傭兵のように武具の一部を欠くことなく長剣と銅で補強された円盾を装備する集団だった。

 豪勢な装備を身に着ける精鋭達に比べて、王が不在の際に暴動を起こさないように招集された王都の住民は、小さな斧や短剣を持つ者もいたが殆どが木製の槍か棍棒を持ち、その多くが戦闘を経験したことのない者達であった。


 一方、ディアニクスの出した勝利の報に勇気付けられ、叛乱に参加すべく多くの者が許に集まったものの我々の総数は六千に留まった。

 白兵のための槍と短剣と楯を持ち、全身を護る鎧と楯を着けた重装歩兵が三千。

 投槍と槍を持ち白兵戦にも耐えることができるが、重装歩兵よりも素早く動けるように楯を持つが兜のみを装備する軽装歩兵が二千余。

 楯も鎧も着けずに散開し、矢玉や投石などで攻撃する軽装兵が一千余。

 敵騎兵の三百に対して我々の許には二百の騎兵しか存在しなかったが、敵騎兵の殆どが人質として招集された有力者の子弟だったことが解っていたので、ディアニクスはこの数で十分に戦えると判断した。



 ルクサニの北に在るアシッピアの広原にて、ウェルティコスと我々は会戦を行った。

 広原は周囲を森と丘に囲まれており、ディアニクスは放牧されている家畜を買い取ると共に、森により狭まっていた東側の丘の上に設営をすることで、遅れて広原に辿り着いたウィルティコスを西の広い土地に設営するように誘導した。


 自分達が自由に展開できなくなる可能性があったものの、森の中を迂回した傭兵に側面と背後を急襲されることがないように、木々を切り倒して通り道を塞ぎ、脇道になりそうな所には刈り取った柴や掘った穴の中に杭を仕込むなどして通行を困難にした。


 戦列を組んだ王は我々を挑発するが、敵の戦力と戦術を確認したかったディアニクスは我々に堪えるように言い、それを見た王と傭兵達は我々が恐怖で陣営に籠って動けないと思い込む。

 この観察により、敵の戦列は我々の戦列よりも倍近い長さになることと、王都の民は左翼に置かれ、精鋭は右翼に置かれていることが解った。


 四日目の朝、食糧調達のために周辺に放たれていた王の部隊がたいした成果もなく戻ってきたことを知り、敵の食料が十分でないことを確信したディアニクスは、皆に十分な食事を取らせてから戦列を組ませると、ウェルティコスとその一族を侮辱する言葉を大声で叫ぶ。

 王は憤怒して直ぐに応戦しようとするが、その日は待機のつもりだった傭兵達を説得するのに手間取り、報奨金を全員に配る約束とディアニクスや指揮官の首級に値段を付けることでなんとか彼らに戦列を組ませることができた。


 我々は陣営の守りに百を残し、中央に軽装歩兵、左翼に重装歩兵、騎兵二百と軽装兵は右翼に配し、木々に挟まれ狭くなった地点を背後に整列する。

 重装歩兵の指揮はバティリウス・マグナが執り、軽装歩兵の指揮はアルミゲル・ブルク、軽装兵はティテゥス・ライト、副官でもあるデキムス・ルフィスは独自の判断が必要な騎兵を率いた。

 叛乱に参加したばかりの者は前衛と中衛に配し、敵の進撃に驚き逃げ出そうとする者を抑え、背後に敵が回り込んだ場合に動揺することがないように女神の誓いを交わしていた者達が後衛に置かれる。


 弓矢と投石による攻撃に恐怖した王都の民は一部が逃げ出し、応戦しようとした者もルフィス率いる騎兵によって排除される。

 ルフィスは次に王都民が退却したことで開いた敵の左翼を抜け、王や傭兵隊長の親衛隊を敗走に追い込むことで敵の指令系統を破壊し傭兵達を孤立させる。


 中央は軽装歩兵による投擲により楯を失い、白兵になると楯の壁が敵を押し止め、傭兵たちが持つよりも僅かに長い我々の武器により次々と倒れ、これに恐怖した敵の後衛は多くが逃げ出すことで戦列を維持できなくなり、ルフィス率いる騎兵の援護により敵の中央は壊滅する。


 重装歩兵と激突した敵の精鋭は楯同士がぶつかり合った時点で、突き崩せない我々の楯の壁を前に戦意を喪失し、司令官たちが逃げ出したことを知ると自分達も武器を捨てて逃げ始める。


 戦場の後方にいたウェルティコスは、味方の騎兵が潰走を始め、それを追う我々の騎兵が迫ると戦場から逃げ出すことしかできなかった。

 逃げ遅れた傭兵達は我々に包囲されるが、ディアニクスは宣言通り彼らの降伏を受け入れず、夕刻には多くの傭兵達の死体が広原に転がった。




 死者の火葬を行うのに数日を要し、我々は逃げた王を追って王都に向かおうとしたが、アルミゲル・ブルクがそれに反対した。彼が言うには。

「もうすぐ秋に入り畑の事が心配な者もいると考える、それに王都に到着しても僅かな期間しか戦いを行うことは出来ない、今年は解散し十分な食料を蓄えて来年の春に再び集合する方が合理的ではないのだろうか」


 ブルクの言に対してディアニクスの反論はこうであった。

「今解散すれば、劣勢に立たされる王に対して傲慢にふるまう司令官も王の意志に従うようになり、国内の傭兵が集結するまでの時間を与えることになるだろう。

 そうなれば、我々が再び集合を試みても個別に襲われ、現在ある勝機を失うことになる。

 そうならないために、秋の内に王都を陥落させなければならない。

 ウェルティコスが他国に援軍を要請をしていれば、国内にその軍勢を侵入させないようにニルギスを平定するする必要がある。

 また、国内の混乱に乗じて他国の王達がニルギスの王位を主張して国内に遠征を行う可能性も十分ある、それ等の可能性が消えるまでは我々は行動を共にし、国内を護らなければならない」


 集会の中でブルクとディアニクスは静かに意見を交換したために、面白がって両者の間に割って入る者はおらず、結局、ブルクと彼の仲間は戦列から離れる。

 残った者達はディアニクスの反論を聞くまでもなく、多くの者が彼の指し示す道こそが正しいと信じ、無条件で彼の意に従う積りだった。


 叛乱に参加する多くの者より良い教育を受けていたブルクは、自ら考え行動に移し、他人を説得し率いることもできる人物だった。

 彼は同格と考えていたディアニクスに指示されることに不満を感じていたようで、このような人物は内部での不和生じさせる原因になる場合が多く、この時期に自ら身を引いたのは叛乱の成功を願っての行動であり、ディアイクスも彼の離脱を非難することはしなかった。

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