ルクサニの掌握
冬営中のエディンから急ぎ帰国したコルネリットとディアニクスは、ランバルトとウィルティコスに復讐を誓い戦の準備を始めていた街の様子に驚くと共に、妹の死に打ちのめされたが、ここで蜂起が起きれば軍が出動しバールジャーが育てたルクサニの街が破壊されるとして、必死になって戦の準備を進めていた住民を説得した。
夜警団に所属する者は士気が高く銅と錫で補強された棍棒しか持たなかったが、街で一番の武闘派だったこともあり、ルフィスがコルネリットとディアニクスに説得されると半数の住民が蜂起を諦めるが、彼らの計画を知らされていない多くの者はランバルトに対する憎しみが収まらず、それどころか妹を失ったのに平静を保つコルネリットに対して罵声を浴びせた。
「平静でいられる訳がない、ランバルトに対する憎しみに耐えなければ、彼女の死が無駄に終わってしまうではないか。
ランバルトが率いる数百余の傭兵に対して、粗末な武器を手にどうやって戦うのだ、奴に報復をすれば終わりが見えて来る訳ではない、リコニスの傭兵が懲罰のため我々に向かってくるだろう、無力な我々に何が出来ると言うのか、コルネリアが護ろうとしたこの街を戦場にする訳にはいかない、どうか怒りを抑えてほしい。
今は死者の魂がオルケウスに迎えられる様に祈るべきだ」
半数余の住民が涙を流しながら演説を行うコルネリットに同情するが、残りの者達はそれでも報復行うべきとして、武装するための材料を集めると共に、進発に向け保存食の調理を続けた。
ディアニクスとコルネリットは、自分達では広場に集まり陰謀を企む者を説得は出来ないとして、その家族や今回の襲撃で亡くなった者の遺族を説得することにする。
この説得に真っ先に応じ、コルネル家の者と共に説得役に回ったのは、幼い妹が殺されたティテゥス・ライトだった。
ライトもディアニクスやコルネリットと幼い頃からの知り合いで、その言動や行動から多く住民に慕われており、彼の言葉により少しずつ蜂起を叫ぶ者の数は減って行く。
しかし、一つの街だけで蜂起を起こす事がどんなに愚かしいか説明しても、コルネル家がランバルトを庇っているようにしか受け取れない者も中にはおり、その中でさらにコルネル家主導の独裁体制からルクサニを解放しようと陰謀を企てる者達が現れたために、街では無益な暴力事件が頻発、バールジャーが夜警を雇い夜間の安全を確保していたのに、夕暮れ以降の外出が禁止されるまでになった。
示談のために敵対する親方連中の許に単独で向かおうとするコルネリットに驚いたディアニクスは、彼を止めるためにこの事態を解決するために、幼馴染と共に兄の周囲を固めると、コルネリットの勇気を賞賛し忠誠を叫び彼が何をしようとしているのか理解していなかった街の住民の注意を惹きつける、すると街中の住民が次々とコルネリットの周りに集まり、コルネル家の象徴である糸を意味する『リット』と叫んだ。
陰謀を企んでいたメガリウスとその仲間は屋敷に籠って密談を行っていたが、外から聞こえてくる『リット』の声が近くなってくるのを感じ、それが数百に及ぶ者の声だとわかると事態が自分たちの手ではどうにもならないことと察し、十年間の追放を受け入れ街から逃げ出すしかなかった。
住民の支持を得ることができないと思い込んでしまったメガリウスとその仲間のおかげで、コルネリットは蜂起を扇動した罪を彼ら追放者に着せ、ルフィスを含め街の住民を王や都市長官から護ると同時に、反抗的な実力者を街から一掃することに成功し、コルネルによる街の独裁体制はバールジャーの時よりも強固なものとなった。
住民の説得し街の平静を取り戻したコルネル家の者は、春になりニルギスの王都オニキア出向き王ウィルティコスに謁見し、ランバルトに対する裁判の要請と王自身が行った家長権の行使について抗議をする。
王はランバルトとコルネリアの婚姻が無効になったことを認めるが、住民達がランバルトに対して行った恫喝と暴力ついて起訴する用意があるとコルネリットを脅すと、コルネリットに自分の姪との婚姻を迫った。
相手に言い掛かりとなる口実を与えないため婚姻を了承するしかなかったが、コルネリットは怒りを抑えると共に大胆な行動にでた。
妹の葬儀のためと理由を付け、通行税と検閲が免除となる証の発行を求めた上に、将来はルクサニの街が都市となった暁には、彼自身を都市長官に任命することを条件に出したのだ。
このコルネリットが出した条件を聞き、有力者たちは自分と同じように人の死よりも富と権力を求める男と判断、安堵と共にコルネル家がまた繁栄する可能性が広がったと恨み持つようになる。
ルクサニの住民は軽蔑と失望の眼差しを向けるが、ウィルティコスは自らの計略が成功したと勘違いしてコルネリットの要望を叶えると約束した。
婚姻の時期は、葬儀が終わり喪に服した一年と半年後となった。