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8 1933年末〜

 1933年末になると、西粟倉ダンジョン6層の探索を安定的に行える冒険者のグループが複数現れた。

 これにより、モンスター『陶器人形』『木偶巨人』の残骸、及び、ダンジョンに生えている水晶柱や自然金・銀・銅が安定的に獲得出来るようになった。

 しかし、ダンジョン庁西粟倉支部長たる山中五郎と娘の桜の立てた見通しは、あまり明るいモノではなかった。


「ダンジョン深部へ向かう動きは、10年は停滞させた方が良かろう」

「だね」


 ダンジョンの本格的な探索が始まって、まだ2年と半年程度しか経っていないが、日本は大きく変わった。石油も石炭も鉄も肥料も、ダンジョンから豊富に得られるようになったからだ。

 ダンジョン産の安価な肥料のお陰で、農作物はびっくりするほど増産され、飢えに苦しむ国民はいなくなった。

 ダンジョン産の豊富な原料と燃料そして人的資源不足のお陰で、工業製品は農業機械を中心に増産され、売れないことはなかった。

 工業製品が売れることで工業技術と経験の蓄積が増え、少しずつではあるが工業機械の高精度化も進んでいた。

 日本の未来は間違いなく明るい。しかし大きな問題があった。


「冒険者の増員もそうだが、それを支える職人も増えねば、ダンジョン内で冒険者が負傷したり戦死したりする危険が増える」

「ダンジョン探索はすっごい力仕事だから、冒険者の皆はよく食べる。ダンジョン産肥料のお陰でお米も野菜も増産に増産を重ねられている。でも、農業やる人が増えるか農業技術が進歩しないと、これ以上の増員は無理。農作業の増員が無理だと、冒険者が食べる食事を確保出来ない」


 山中五郎・桜の父娘は、現状よりもダンジョン探索を進めて資源を増産するには、全く人的資源が足りていない、と考えていた。

 この世界の1933年4月時点の、植民地除く日本の人口は6800万人を超えた程度。ダンジョン探索を更に推進するには、山中父娘はこの倍の人口は必要だと考えていたし、日本政府は2億人は必要だと考えていた。

 なおこの数字は、大鬼と陸軍精鋭部隊の投入により探索可能となった高難易度ダンジョンや、人魚と装甲海豚が探索している海底ダンジョン、朝鮮半島や台湾、南洋州のダンジョンは除外された数字である点に注意が必要だ。それらの後方支援に必要な人員も揃えるとなると、5億人いても厳しいという、日本の土地の広さ的に非現実的な数字が見えてしまう。

 どのみち、人的資源不足は深刻なのだが。


「国が推進している、湿田の乾田化と河川工事もある。数年は大きく動けんな」

「その間に、野菜だけでも増産する方法がないか、考えないとね」


 父娘はああだこうだと、知恵を絞りあった。




 世界恐慌から完全に抜け出し少し上向いた日本の景気は、1934年中頃から停滞し始めた。

 人的資源の不足。機械化自動化の技術不足。保健医療技術の未熟。不十分な教育制度。等々が重なった結果だった。

 日本人と日本政府は、これらを辛抱強く、ひとつひとつ丁寧に片付けていった。その時間を稼げたのは、世界恐慌から続いた不景気と、1939年9月1日から1945年6月30日まで続いた『欧州大戦』の影響が大きい。

 欧州諸国という日本に対抗する勢力が、日本やアジアに構えないが日本の助けを必要とする環境にあったから、日本は自国内のことに集中出来て。そのおまけのちょっとした余力で欧州(イギリスやソ連など)を助ける代わりに多大な報酬を得られたのだ。

 その報酬のせいで『3極冷戦』と呼ばれる、戦火を交えない大国間の軍拡競争のメインプレイヤーになってしまったのだが。それはそれとして。


 不足する人的資源については、大鬼・人魚・装甲海豚といった知性あるモンスター『魔族』の日本への同化政策と並行した、福祉・医療の充実で対応した。人口を増やすという、長い時間がかかるが確実に成果の出る政策を取ったのだ。

 時間をかけている間に、工業・医療技術の成熟と教育の拡充を行えるから、という、時間稼ぎ的な後ろ向きの意味合いも強かった。しかしこの場合は上手く合致してくれた。




 また。

 日本は、ダンジョン偏重の政策下では、植民地経営は本土の重荷にしかならないことに気付いた。数多あるダンジョンを全て国が抑えなければ、反政府組織に強大な資金源を与えてしまうからだ。この動きは朝鮮半島において顕著で。日本にとって朝鮮半島は、邪魔でしかなくなっていた。

 朝鮮半島が欲しかったのは、国防上の理由もあるが、日本列島にはあまりない鉱物資源特に鉄と金を求めてのことだった。しかし今は、ダンジョンから鉄も金も石油も手に入る。こうなると朝鮮半島は、国防上の理由でしか維持する理由がなくなってしまう。


 1935年。

 日本政府と朝鮮総督府は、25年単位で朝鮮の自治権を段階的に戻していくことを決定。1960年には、朝鮮は『保護国』として、植民地から国へと戻ることが決まった。

 朝鮮人は、自分達の上で勝手に決められたことに憤慨したが、ほんの少しだけ自分達の元へと戻ってきた権限に焦った。その権限を活かし維持するための資金が、今の朝鮮だけては足りなかったからだ。

 結局のところ。朝鮮暫定政府も、日本に出ていた人々を帰還させて、ダンジョン探索に精を出す方針で動いた。既にそれを実行している日本政府の真似が出来て楽だったし、日本が失敗した点を回避出来るからだった。

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