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 1932年10月初頭。日本陸軍は『大型蜥蜴』の、日本海軍は『装甲海豚』の、捕獲及び調教に成功する。

 ダンジョンで猛威を振るうモンスターの中で、比較的穏やかな方のモンスターを犬猫の如く飼い慣らすことに成功した事実は、ダンジョン景気による人手不足に悩む日本を大いに揺るがせた。


「単純作業ならモンスターにやらせられるのではないか?」

「いや流石にそれは無理だろう」

「荷役程度ならモンスターでも出来ることは陸海軍が証明した。これはダンジョン鉱山の更なる開発に繋げられる!」


 この熱狂にあてられたダンジョン警察のうち、余力のあるところは『モンスターの捕獲・調教』に手を出した。




「あっさり成功したねえ」

「だな」


 1933年1月中頃。ダンジョン庁西粟倉支部長たる山中五郎と娘の桜は、硬質粘液の捕獲・調教に成功していた。


「硬質粘液は人糞でよく育つし肥料の生産量も増えるね」


 硬質粘液は糞尿を好んで捕食し肥大化。肥大化した後倒して干すと、肥料分である白い板『粘液肥料』が目に見えて増えた。


「下肥より粘液肥料の方が効きが良い上に、粘液肥料の増加分は与えた糞尿が下肥になる量よりも多いからな。近場の集落の糞尿を集積して硬質粘液に捕食させるようにすれば、肥料の増産に繋がるだろう」

「ちゃんと腐らなかった下肥は病気の元でもあったし、そうする方が良いね」


 硬質粘液を長距離輸送する目処が立っていないので、糞尿肥料化施設はダンジョン近くに建てることになる。

 西粟倉は人口が少ないから然程影響はないが、都市部近くの硬質粘液の湧くダンジョンにおいては、かなり大きな影響が出るだろう。少なくとも、下水処理施設の整備計画は根底から見直す必要がありそうだな、と五郎は他人事のように考えた。


「で? 問題はこいつらだな」


 そう五郎が睨んだ先では、木偶人形と、西粟倉ダンジョン六層以降に湧くモンスター『陶器人形』『木偶巨人』が突っ立っていた。


「捕獲のやり方は確立したけど、いまいち使い道ないよねえ」


 この三種のモンスターは、警戒態勢に入る前に背後から襲いかかり、頭部を四、五回殴れば言う事を聞くようになる。

 だが、「私に付いて来い」程度の簡単な命令すらこなせないポンコツであった。


「木偶巨人の方はたたら炉のフイゴ回す位はさせられたけど。安定的に木偶巨人を確保出来ないんだから、そんな重要な仕事は任せられないよね」

「そうなんだよなあ……」


 しかもこの三種のモンスターは、ダンジョンの外に出すと一から三日で動かなくなる。その期間が個体によって違ってくることだけでも扱いにくい。


「そもそも木偶巨人も、倒し辛い割に炭程度しか使い道がないからなあ」


 身長一三〇センチメートル程度の木偶人形を、身長三メートル程度まで巨体化させたような木偶巨人の残骸、特に身体の部分は一見使い道で溢れていそうだ。しかし内部の木目はネジ曲がっており、材木としてとても扱い辛いモノとなっている。

 では陶器人形の方はというと、全身陶器で出来たコイツを倒す過程でどうしても割れてしまうため、陶器としては扱えない。ただし粗骨材(注釈:コンクリートに混ぜる骨材のうち大きなモノ。アスファルトやセメントに混ぜる石ころなど)としては優秀なため、西粟倉支部は国や岡山県から『陶器人形の破片』の増産を懇願されていた。

 ただし六層以降の資源収集は、木偶巨人という強力なモンスターのせいで安定しておらず。そのため木偶巨人の木材も陶器人形の破片も、増産には時間がかかるとされていた。


「木偶巨人を安定して安全に確実に倒せるようになるまでに、木偶人形・陶器人形・木偶巨人の使い道を見つけたら良いんじゃない?」

「……硬質粘液の使い道だけで大騒ぎになりそうだしな。その方向で考えるか」




 西粟倉支部では『糞尿の肥料化』という使い道を見出された硬質粘液。

 しかし足尾銅山近くのダンジョンでは、鉱山廃液やボタ石を食わせると、硬質粘液の体内に金属成分がさながら林檎の種のように結晶化することを発見され。

 糞尿肥料化と鉱害軽減のため、大日本帝国は官民一体となって硬質粘液を捕獲・利用するようになった。

 これにより、日本国内において採算が取れないとされたもののうち一〇〇近くのダンジョンの採算の目処が立ち。それらのダンジョンを探索するため、更に多くの人手を必要とされ、労働者不足は深刻化するかと思われた。

 しかし1933年6月頃。複数のダンジョン庁支部にて、『大鬼』と呼ばれるモンスターに日本語を理解させることに成功。

 大柄で力も強く、肉しか食べられない大鬼をダンジョン探索のお供とすることで、民間に公開されているダンジョンのうち、中から高難易度のダンジョンの人手不足は大幅に軽減され。またそれらの資源産出量も増加。


 他、同年5月に日本海軍が『人魚』と呼ばれるモンスターの捕獲及び会話に成功。海底に存在するダンジョンの探索も始まった。


 日本陸軍も負けておらず。『地竜』『翼竜』等、欧州風な竜の捕獲・調教に成功。

 例えば『苔竜』と呼ばれる体長三メートルで尻尾のほぼない地竜は、1932年に制式採用された『九〇式野砲』の連射を平然とはね返し。

 六トンのソリを荒れた平地なら時速一五キロメートルで、傾斜四〇度なら時速六キロメートルで、疲れた素振りもなく運び。

 その癖一日一〇〇キロメートル行軍しても、一日大玉キャベツ二玉程度の葉野菜と二〇リットルの水で足りてしまうという、世界の不具合としか思えない能力を持っていた。

 温厚で鈍感過ぎて戦いに適さない点だけは欠点だった。


 翼竜の方は、陸軍航空部隊の宣伝も兼ねた遊覧飛行か、高さと広さのあるダンジョンの探索程度しか活躍の場がなかった。

 しかし滑走路を必要とせず、直径四メートル程度の円形に開けた平地(多少の傾斜は可)を用意すれば一度に一トンもの物資を運べることから、山奥の村への物資輸送に最適であると判明。

 餌となる肉はダンジョン探索で豊富に得られて値下がりが酷いことから継続性と予算に問題はなく。軍と政府の人気取りもあって、陸軍航空本部補給部直下の組織として『翼竜課』を設置。主に郵便や山奥で行われる公共工事に輸送業務に当たらせる。

 一見強そうに見える翼竜は見事に人々の心を掴み、陸海軍共に『空を飛びたいから』と志願してくる者を格段に増加させた。

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魔法とスキルとステータスアップはないのかな?
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