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ダンジョン開発を楽しみすぎな大日本帝国が人手不足に陥っている1932年。その他の国のダンジョンとの向き合い方はバラバラだったが、おおむねダンジョンを『邪魔なモノ』『不良債権』『さっさと消えてくれないかなあ!』と感じていた。
日本以上に積極的と言えるのは、ヒジャーズ・ナジュド王国、この世界では1933年にサウジアラビアになる国である。
乾燥地を多く抱え、一方未だ油田の発見されていないこの国は、生きていくのに必須の水や食料、薪を確保するためダンジョン開発に乗り出していた。
だからか、開発されるダンジョンは水・食料・薪の得られるモノに偏っており。工業化に繋がる鉱石の豊富なダンジョンは金や銀といった貴金属のモノ以外放置されていた。
またダンジョンへののめり込み具合から、国の統一が遅れてしまってもいた。
日本と同程度に積極的なのは、アイスランドとウルグアイだろう。
デンマークと従属的同君連合の関係にあるアイスランドは、独立に向けて邁進しており。その一環として、ダンジョンという鉱山を利用していた。
特にボーキサイトの豊富に得られるダンジョンが目玉で、それと水力発電を組み合わせることで膨大なアルミニウム生産を実現していた。
また体力仕事なダンジョン探索者のために、寒冷な土地柄と過放牧から放棄されていた牧場や農地も復活しつつあり。豆と大麦、牛乳に牛肉の生産量が伸びてきていた。
ウルグアイの方は、鉄鉱石の得られるモノと石炭の得られるモノを喜び勇んで開発。小さな高炉まで建てて工業化へ邁進していたが、やはり人手不足で困っていた。
日本ほどではないが積極的なのは、イタリアとペルシアだ。
紀元前から栄えてきた半島に位置するイタリアは、あまり化石燃料に恵まれておらず。また地中海性気候で渇水に見舞われがちな南部と、程々に水があり鉱業も工業も盛んな北部との経済格差にも苦しんでいた。
大恐慌後のブロック経済化の進行する中、資源の輸入に苦労していたイタリアは「軍事調練にもなる」と、軍と国防義勇軍(元黒シャツ隊)をダンジョン、特にフィールド型と呼ばれる開けた地形のモノに投入した。
得ていた資源は水・石油・石炭・木材・焼物向き粘土が主。生存に必須で南部で不足しがちな水を、焼物に詰めて低価格で販売。石油や石炭は軍の訓練に使った残りを安価で市井に流し、国と軍の予算の源とした。
また倒したモンスターのうち食べられるモノは食料として、ダンジョン調練中の軍や国防義勇軍が消化してもいた。
ペルシアの方は、一にも二にも水・水・水と、とにかく水の得られるダンジョンに突入していた。余力があれば薪・金・食料といった状態だった。
まあまあ探索していたのは、ドイツとオマーンだ。
ドイツが探索したのは、燃料となる石油と先の大戦の賠償金に使える金・銀の掘れるモノのみ。
その他のダンジョンについては。この時はまだナチスが政権の中心になかったことから、共和国軍がダンジョン内からモンスターが出てこないよう、細々と探索していた程度。
後に(1933年1月30日)ナチスが政権を握った後は、政治資金と再軍備の予算稼ぎのため、親衛隊が本格的な探索を始めるも。やはり金・銀・石油の得られるダンジョンに偏っていた。
イギリスの保護国であるオマーンの方はもっぱら水の得られるダンジョンを攻略していた。乾燥し飲み水にも困るこの国にとって、ダンジョンは『恵みの泉』だった。
その他の国は、ダンジョンの出入口に警備を置くか、ダンジョン出入口近くへ進入して警備するか、に留まっていた。
資源が欲しかったら鉱山から掘る方が安くて安全。食料が欲しければ畑や家畜がある。水は河や井戸があるでしょ?
だからわざわざダンジョンに入る必要がなかった。
アメリカの一部地域において、暴力性の治療の見込みがない囚人をダンジョンに投入しその変化を見る実験が行われたが、全滅するか叛逆されるかで結果が出なかったことも、この動きを加速させた。
そんな有り様なので、日本がダンジョン景気に沸いているのを、世界は気狂いを見る視線で眺めていた。
モンスターなんて危険な化け物がいるところに歓声を上げて突っ込んでいけば、法が整備される前は女子供ですらそんなことをやっていれば、そうもなる。
武士の流れを組む一族が特権階級的に存在し。また軍国主義的思想も市井一般に流布しており。武術が現存している。そんな国にダンジョンが湧いた、と考えれば、日本の動きは何もおかしくないのだが。他の『先進国』は『理性的(笑)』『知的(笑)』『平和主義(笑)』なので、ダンジョンなんぞに入れ込むことはなかったのだ。
ともかく。日本ほどダンジョンを探索している国は少数でしかなく。また国ぐるみで組織的に探索しているのは、日本の他にドイツとイタリアしかない。
列強の中では、ドイツ以外は明らかな格落ちで、そのドイツもイギリスフランスの格下と格付けが済んでいる。
だからその他の欧米諸国はダンジョン探索を『貧乏国家のすること』と嘲笑して。ダンジョンに入れれば解消する失業者の問題に七転八倒していた。