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ダンジョン国家日本  作者: ネムノキ


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 1931年8月、大日本帝国の人手不足は危険域に達していた。いくら資源を採掘しても、遅くて三六時間後には採掘したモノが復活する素敵()()『ダンジョン』から得られる資源に、国も財閥も軍も国民も狂喜乱舞してその開発に取り組んでいたからだ。

 なにせ、大八洲だけで七〇〇ものダンジョンが発見され、うち二三〇が民間で、二〇が陸軍で、三〇が海軍で開発されている。それだけの数の鉱山が急に増えたとなれば、人手不足も当然の話だ。

 今までの日本なら、人手不足になったところに朝鮮人労働者が進出していたが、そうはならなかった。朝鮮のダンジョン開発も進んでおり、そちらも人手不足気味になっていたからだ。

 なら中華からの移民はというと、そちらは日系移民が引き上げたアメリカにお熱であり、日本へは移民しても台湾止まりだった。

 満州という過疎地域への進出なんて、する余裕がないほど人手不足だった。それに満州で欲しいモノのうち、鉱物資源はダンジョンから、農産物主に大豆はダンジョンからの肥料が行き渡り、また金満政府が治水利水に乾田化工事を推進し始めたことで生産量が増えていた。


 そんな人手不足をなんとかすべく、政府は考えた。

「簡略化・省力化・自動化を進めるべきだ」

 まずはやりやすそうな工業分野から、省力化や自動化を進めよう。そう判断した政府は、実験的に陸海軍の工廠にて、アメリカで行われている『ライン生産方式』を導入しようとした。

 そしてすぐ頓挫した。

「部品に互換性がなくラインを構築出来ない」

 ライン生産は、確かに多量の製品(この場合は試験生産した小銃)を簡単に生産出来るようになった。しかし作業が簡単過ぎて素早く終わってしまい。部品がなくなったから新しく在庫から持って来ると、その部品に互換性がなく作業が止まってしまうことが頻発したのだ。

 そこで政府は、既存の規格(JES)を拡大する形で、工業部品に互換性を持たせようとした。が、そもそもマザーマシンがお粗末な現状、それはとても困難なことだった。

 だから政府と軍は、高性能なマザーマシンをダンジョンから入手した金とのバーター取引で、未だ大恐慌にあえぐ欧米諸国から購入し工廠に導入していった。購入先は、値段と精度から、ドイツ、次いでイギリスが選ばれた。

 軍が購入したマザーマシンは、まず工廠の機械を入れ替えるのに使われ。その後は軍と関係の深い財閥へと渡った。入れ替えられた機械(それでも民間のボロ機械より高精度)は、軍とそこそこ止まりな関係の中小財閥へと売り下げられた。

 これにより、日本の工業製品の精度は格段に向上。1933年中頃には工廠にてライン生産が確立し、民間にも波及し始めた。

 その他、既存のリベット打ちよりも素早く出来るからと、自動車や戦車、艦船の生産分野において溶接の導入が加速もした。




 さて。

 工業分野において簡略化・省力化が進む中。ダンジョン探索においてもそれらが研究されていた。

 例えば、山中五郎が管理しその娘の桜が茶々を入れている西粟倉のダンジョンでは。


「いやー。思ったより便利だな、馬」

「でしょー?」


 ダンジョンから荷を運んできた馬に、道場帰りの桜が飲み水をやっている。

 そう、ここではダンジョンで掘った砂鉄を運ぶため、馬と馬用リヤカーが導入されていた。


「人力リヤカーで十分とは思っていたが、馬だとその倍は運べる。お陰で五層までは鉱山化出来た」


 ここのダンジョンは、三層から砂鉄が掘れるのだが。五層まではその採掘物の純度が高まる傾向にあった。

 だからより深い層から砂鉄を掘る方が利益的には良かったのだが。人力でリヤカーで運べるのは一回一〇〇キロだけ。おまけに運搬者の疲労も凄かった。

 これを馬車に変えたところ、一回で二〇〇キロを運び出せる上に、馬の疲労は人間ほどない。その分餌が必要となったが、知り合いの米農家サンに田んぼの裏作に牧草を育てて貰うことでなんとかした。

 なお六層以降は採掘物もモンスターもガラリと変わるので、その対応に五郎は頭を抱えていたりする。


「馬は丸太運びで馴染みもあるから、冒険者の抵抗感もほぼ無かったしねえ」


 西粟倉は山がちなこともあり、林業が盛んだった。その丸太を運ぶのに人力では間に合わないので、馬が使われることは多々あった。

 だから地元出身の冒険者の多い西粟倉ダンジョンに馬車を導入しても「便利になるなあ」程度の反応で済んだのだ。


「農家サンの間じゃあ耕運機ってのが流行って、お陰で馬も安く買えたしな」


 冒険者の活躍により、鉄が満足に行き渡るようになり、また人手不足も深刻化していた日本では、農業の機械化も国策として進んでいた。

 その一環で、大規模な農場ではトラクターが、小規模だったり細かな農場では耕運機が、普及し始めており。その余波で農場で働いていた馬や牛がお役御免になっていた。

 ダンジョンで大々的に馬車使えるのは、その関係で安く馬が手に入ったから、だったりもする。


「ダンジョンの中でも機械使えたら楽なんだけど。なんか動かないらしいからしばらくは期待出来ないしねえ」

「だなあ。軽トラックなんかかなり便利そうなんだがなあ」


 二人揃って苦笑。

 なお『ダンジョン内で機械が使えない』という認識は正確ではなく『ダンジョン内では特殊な金属で作った機械しか使えない』という方が正しい。が、その事実はまだ日本陸軍しか知らない。

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