鳳凰と善人
大昔、食うや食わずの生活ながら、正直に生きてきた男がおりました。その男の名は五平で、姓がない小作の百姓でした。
ある日のこと、朝の薄い粥をすすり、いつものように田畑に出てきた五平は、そこに今まで見たこともないとても綺麗で神々しい姿の鳥がいるのに気づきました。その美しさに我が目を疑った五平は、両目をこすって見直してみましたが、どうやら見間違いではないようです。五平はすでに亡くなっている両親が、子供の頃、寝る前の子守唄代わりに聞かせてくれたおとぎ話に出てきた鳥のことを、ハッと思い出しました。
「鳳凰だ! これが鳳凰に違いない!」
五平は両親がこうも言っていたことを思い出しています。
(正直で行いが良い者の前に鳳凰は現れるんだよ。鳳凰は現れた者にね、一番望んでいることを叶えてくれるんだよ)
五平が望んでいることは決まっていました。
「おっとうとおっかあとまた一緒に暮らしてえ」
五平にはそれ意外望むものがなかったのです。鳳凰はその言葉を聞いて、しばらく悲しい目で五平を見ていましたが、やがてどこか遠くに飛び立って行きました。呆然とそれを見送る五平でしたが、
「……まあ叶うわけねえよな。それにしても綺麗な鳥だったなあ」
そう独りつぶやき、また田畑での辛い仕事に戻りました。
数年後、五平は辛い仕事と満足に食べられないのが祟って、若くして亡くなってしまいました。村の衆が簡素な葬式だけは行ってくれましたが、独り身だった五平が亡くなった後、五平の家には誰もいなくなりました。五平は小さな墓石が据えられている山麓で、一人ずっと眠ることになりました。
一人寂しく五平が眠り始めて一月が経ったある日、数年前に生前の五平の前に現れたあの鳳凰が、五平の墓前に再び神々しい姿を見せました。鳳凰は大きな翼を目一杯広げ、時が経ち散らばり始めていた五平の魂を集めると、どこまでも高く高く飛び、星の外へ出るまで上がっていきました。そして、とてつもない速さで、五平が住んでいたのとは違う星へ五平の魂と共に飛んでいきました。
どのくらい鳳凰は飛んでいたのでしょうか。鳳凰は違う星へたどり着くと、その星のある町に住んでいる夫婦の契りを交わした若い男と女の家の屋根にとまり、女のお腹に五平の魂を宿しました。
「あっ……」
「どうした?」
「いや、なんでもないんだけど……今、体の中に懐かしいような温かいようなものが……」
そう言うと女は何かがこみあげてきたのか、その場で声を上げて泣き始めてしまいました。その夫である男も何かを感じたのか悟ったのか、女をそっと抱き支えています。それを見届けた鳳凰は、また何処かへ飛び立って行きました。
その後しばらく月日が経ち、若い夫婦は真悟という玉のような男の子を産み授かりました。男の子は貧しいながらも、皆が特に不自由なく暮らせる国で、両親と仲睦まじく暮らしながら良い子に育っていきましたとさ。




