8 謁見
ギリギリ企画期日の終了時間内にもう1話追加できたァァァァ
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嫌な予感はあった。
立ち入りを禁じられているはずの王都へ来るよう命じられた時も、母が儀礼用の剣を用意すると言った時も、今回大公家の色を纏ってはいけないと言われた時も。
謁見で国王陛下に何を言われるか、なんとなく想像がついていたのだ。ただ理解したくなかっただけで、みっともなくギリギリまで気づかないふりをしていた。それで国の決定が覆るはずもないのに。
「デリックは王太子の立場に在りながら、倫理観と道徳的見地の欠如が著しく、また植え付けられた固定観念により再教育は不可能と判断し、廃嫡することに決まった。臣籍降下とし、一代限りの侯爵に封ずる」
たった一人しかいない王子を廃嫡、そして王族の身分をも剥奪。それだけのことを従兄は仕出かしたというのか。
跪いたまま、アシェルは嫌な汗が背中を伝うのを感じていた。
植え付けられた固定観念というのも気になる。
将来国を背負う立場から、その辺りの教育は徹底されてきたはず。甘言や誘惑に負けるような脆い精神は許されず、騙されない観察眼と洞察力は鍛えられているはずだ。
帝王学を学んだ者が容易く思考誘導されてしまうなんて信じられない。
「デリックは婚約者が定められているにも関わらず、学園で特定の令嬢と不義密通を繰り返した。真実の愛とやらに目覚めたらしい」
アシェルは思わず驚愕の視線を王へ向けた。
豪奢な玉座に坐す国王陛下は、どこか疲れた様子でじっとアシェルを見据えている。値踏みするようなその眼光に知らずごくりと生唾を飲み込んだ。
国の定めた契約には意味がある。権力を偏らせないためパワーバランスの調整はその都度必要で、最も整えやすい手段が婚姻だ。特に王族の婚約は生まれる前から決められていることも珍しくない。
従兄とその婚約者の場合もそうだろう。契約不履行など本来ならばあり得ない。相手側に落ち度がなければ賠償問題が発生し、王家の威厳も信頼も失墜する。
まさか――王の目を見つめ返し、悉く嫌な予感が確信へと変わっていく。勘弁してくれ……!
そのあり得ないことを仕出かしたのだと、アシェルは目眩を覚えた。
王太子としての、いや、王族としての自覚がないにも程がある。十八年間も何を学んできたんだ。
真実の愛? 寝惚けたことを!
「唯一だった後継が使えなくなったとして、王弟であるそなたの父に継承権が移ることになる。だが既に賜姓降下して久しい。年齢からも現実的ではないということで、その息子に継承権が移譲される。上の二人は婚約しており、長男は一代限りの大公家から公爵に叙されることが決まっており、また次男も大公が持つ侯爵位を継ぐことになっている」
続く言葉の予想がついて、ああ、とアシェルは諦めの溜め息を呑み込んだ。
「婚約者もなく、今後ビェルート大公から移譲される爵位も低いそなたが唯一何の柵も持たない。よってアシェル・オストロス・ビェルートに勅令を出す。即刻王籍に戻り、立太子の儀礼に臨め」
アシェルは深々と頭を垂れた。
拒否権など初めから存在しない。返せる言葉など一つしかないのだ。
「―――――謹んでお受けしたいと存じます」