6 王都入り
五日目の夕刻にしてようやく王都に辿り着いたアシェル一行は、ビェルート大公家の紋章を掲げた馬車のおかげで止められることなく検問を通過すると、その足で大公家まで進んで行った。
物珍しそうに馬車を振り返る都民をこっそり観察しつつ、初めて見る王都の街並みに心躍らせていると、無情にもレースが閉められ、車窓が隠されてしまった。
「ケイリー」
「なりません。御姿を見せないようお気をつけください」
「大公家の馬車を使用している時点で、誰が乗車しているのか大凡の見当はつくだろう?」
「それでもなりません。レース越しで我慢なさいませ」
頑迷な。姿を見られたくらい何だと言うんだ。
アシェルの容姿は美姫と名高い母に似ているが、髪と瞳は父と同じ王家特有の色を受け継いでいる。だがそれは双子の兄達もそうで、王太子と王女もそうだと聞いている。
大公家の馬車にホワイトブロンドと深い青の瞳をした者が乗っていると知られたところで今更だろうに。
ケイリーは何を警戒しているんだろうか。王都へ立ち入りを禁じられてきた事と関係あるのかな。
「アシェル!! 会いたかったわ!!」
見事なブロンドを結い上げた母が、初めて訪れた王都邸で今か今かと待ち構えていた様子で、エントランスホールに入った途端ぎゅっと抱きついてきた。
「母上。ご無沙汰しております」
「顔をよく見せて。まあまあまあまあ! 随分と背も伸びて男前になったわ。体も鍛えているの?」
「はい。ジェイドと共に騎士団長に日々扱かれていますよ」
ビェルート大公領の騎士団長はジェイドの父親だ。座学を終えたら剣術を習うのが幼少期からの日課だった。
騎士団長の勧めもあり、学業を修めた今も変わらず鍛錬を続けている。騎士団長やジェイドのような立派な体躯はしていないけれど、虚弱体質に見えない程度には鍛えられていると思いたい。切実に。
「さあ、お入りなさいな。直ぐにでも旦那様もお帰りになるわ」
「兄上方は?」
「ジリアンとダフィーは婚約者のご実家に挨拶に伺っているから、帰ってくるのは明日になるわね。あなたも明日から忙しくなるから、夕食の後はゆっくり休んで旅の疲れを取りなさい」
「忙しく、ですか?」
登城指定日より一週間前に来るよう言われてはいたが、謁見に必要な物は揃えてきたつもりだ。他に何の準備が必要だと言うのだろう?
「明日は朝一で仕立て屋を呼んでいますからね、正装と外套を数着と、あとは儀礼用の剣を作らせましょう」
「え? 儀礼用?」
国王陛下との謁見に正装が必要なのは当然として、儀礼用の剣?
なに、まさか叙爵されるの? 爵位に叙せられるのは大変名誉なことだけれど、何れかの貴族家へ婿入りする件はどうなっているんだ?