5 謎現象に疑問は尽きない
◇◇◇
「いや〜……………びっくりだよね」
王都へと出発して三日目の夜を迎えた。
野営の準備を始めた使用人たちを遠巻きに眺めながら半笑いでぼやいていると、護衛の一人である幼馴染みのジェイドが器用に片眉を上げた。
「道中野盗や魔物が出ないことはお前たちの定期的な巡回のおかげで分かってはいたけど、野営中に三日三晩毒蛇やら毒虫やらが僕の天幕にだけ出没するのは何でだろうね。これは所領から出るなっていう神様からの警告じゃないの」
「偶然だ」
「毎夜僕の所にしか出ないのに?」
「偶々だ」
「そのすべてをセレニアが仕留めてるってのもどうかと思うんだ。何で彼女は毎晩僕の天幕に居るのかな。普通はジェイドの役目じゃない?」
「俺は天幕の外を見張っているからな」
「未婚の男女が同じ空間で朝を迎えるのは外聞が悪いにも程があるだろう?」
「ならばアシェルは、彼女に一晩中外を見張らせるのか? 夜露に濡れてもいいと思っているのか。お前はそんなに薄情な男だったのか」
反論しにくい言い方だと目を眇めながら、アシェルは旗色が悪いこの話題を早々に終わらせた。
そのセレニアだが、先程から姿が見えない。野営地についた途端姿を消すのはこれで三度目だ。
「セレニアは?」
「ケイリー殿と苔桃を採取しに森へ行っている。護衛も付けてあるから心配いらない」
「また苔桃?」
このやり取りも三度目だ。何やら怪しいとは思っているが、本当に真っ赤な小さい実を籠一杯に摘んでくるから聞くに聞けない。
「もう三日連続で晩御飯に苔桃が添えられてるけど、あれってやたら酸っぱくて苦手なんだよね……」
「お前がそう言うから自ら採取した彼女がわざわざ蜂蜜をかけてくれるだろ。旅の間くらい我儘言うな。苔桃は栄養価も高くて」
「はいはい。ビタミン・ミネラルが豊富で壊血病予防にもなる、でしょ。何度も聞いたよ」
うんざりとため息を吐く。
ジェイドのセレニア贔屓はいったい何なんだ。あれか、恋煩いか。お前一度セレニアが淹れた茶を飲んでみろ。百年の恋も一瞬で冷める壮絶な味だぞ。一月も継続して飲まされている僕の身にもなれ、とアシェルは苦り切った顔を向けた。
セレニアが配属されて以来、彼女の他に誰もお茶を淹れてくれなくなった。何故だ。
そろそろ僕の味覚も再起不能に陥るんじゃないか――などと真剣に悩み始めた時、森からセレニアとケイリーが姿を見せた。その後方から護衛が三人続く。
セレニアが抱えた籠には、案の定小さくて赤い実がこんもりと小山を作っていた。今夜もあれをたらふく食べさせられるのか、と遠い目をして暫し現実逃避に浸る。
こうして三日目の夜も更けていき、翌朝になって既に恒例化した毒蛇と毒虫の死骸を、アシェルは目覚めとともに天幕内にて確認するのだった。