第五十六話 目覚めと全裸
「……んぁ?」
目を覚ますとそこは見知らぬ天井――などということはなく、見慣れたほの暗い迷宮の天井が、そこにはあった。
「松明が青く燃えてる……あぁそうか、ここは百層のボス部屋で、俺はアイツを倒して……ん?」
状況を整理していると、不意に腕に柔らかな感触があった。
――ふにん、ふにんふにん。
「……いやん」
「いやん、じゃねえ! 離れろ馬鹿!!」
俺は叫び、思いっきり後ずさった。
思考が追いつき、ようやく理解する。一糸まとわぬ姿になったレーヴァがその肢体を俺の腕に密着していたことに。
「おまっ、何ちゅー格好を……!」
「えぇ? それモルドが言うの?」
「はあ? お前何を……って、えええええ!!!?」
見れば、俺も全裸だった。
(何だ、どういうことだ、俺、え、もしかして一線超えちゃった? 幼馴染にあんなに真に迫った告白かましといて速攻で浮気しちゃった? え? なに俺、最低のケダモノだった?)
しばらくそうアワアワしていた俺だったが、そういえば……と気絶する前のことを思い出す。
俺が使ったのは【聖女の呪い】と【地獄炎の加護】をフル魔力で稼働させた【形態・地獄炎】。
消滅と存在の狭間で成立したあの技を使えば、服が燃え尽きて灰になるのも仕方がないと言えるだろう。
俺にかかった【聖女の呪い】――【ヒーリング】で回復できるのは己の肉体だけだ。
炎で燃えカスになった服を修復することなどできない。それは分かる。それは分かるのだが――
「俺が全裸なのは理解できる……で、何でお前は全裸なの?」
「んーー何となく?」
「何となくで女の子が全裸になるんじゃありません!!」
俺が真っ向から噛みつくと、レーヴァは初めて困ったような表情を見せた。
「いやー、実は何となくってのは冗談でね……私もよく分からないんだけど、気付いたら服がなくなってたのよ」
「そんなことある!? いや、そんなことある……か?」
真っ裸な自分の姿を見て、納得せざるを得なかった。
レーヴァの服がどこにいったのかは分からないが、もしかしたら最後の一撃で炎を纏わせたことに問題があったのかもしれない。いや、そうなると今までは剣になってる間、あの真っ白なドレスはどこに消えていたのかって問題はあるが……
「なぁお前、俺に変なことしてないよな?」
「…………」
「なぜ黙る!」
「いや、モルドも意外に立派な剣をお持ちだなーと……じゅるり」
「なぜ舌舐めずりをするそして今その話題を出すとお前への疑惑がますます高まるんだけど!?」
俺は、じゅるりと艶やかな唇を舌で潤ませるレーヴァからさらに距離を取った。
「俺の貞操が危ない……って、何だあの扉? あんなの入ったときはなかったよな?」
卑猥な話題を転換し、俺は目に入ったもう一つの違和感に意識を向けた。
それは激戦を繰り広げた部屋の中央に立っており、ヘルの半分に分かたれた焼死体の後ろに置いてある、用途がよく分からない石でできた扉であった。
「あーあれね、モルドが気絶した後、ゴゴゴゴゴ!って音立てながら現れたのよ。どこに繋がってるか分からないけど、空間魔法が使われてる可能性が高いわね。しばらく探してみたけど、地上に繋がる転移魔法陣も見つからないし……」
「……なるほどな」
【毒肢の加護】で腰から伸ばした黒ムカデに焼死体を喰わせながら、説明に相槌を打つ。
ダンジョンを完全に攻略した後は転移魔法陣が現れる、というのは冒険者にとって常識的な知識だ。
それに加えて、最高の報酬であるダンジョンコアも見つからないとなれば、そう疑うのもおかしくはないだろう。
無論、トラップであるという可能性もなくはないが……
「じゃ、行くか」
俺は石扉の前まで近づき、隣のレーヴァにそう言った。
「いいの? もっと吟味しなくて」
「いいだろ別に、趣味の悪いトラップだったら、それも喰いつくせばいいだけだ」
やることは変わらない、と俺は扉を開いた。
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