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第五十三話 形態・地獄炎(モード・インフェルノ)


 絶望の先に、私――レーヴァ・フォン・アウレンベルグは『それ』を見た。


「【全治全能(ノアヒーリング)――形態(モード)地獄炎(インフェルノ)】」


 私を握るパートナーの身体は、地獄の炎を思わせる緋色と、万物を癒すであろう翡翠の光を纏っている。――否、漏れ出している。


 川の濁流が岩をも砕き、滝が流れ落ちるように。

 それは、漏れ出し、塞き止められずに溢れ出している。


『ッッ!』


 ギン、と正面の女王がこちらを見据える。

 その瞳に魔の光が宿る――その前に。


「――ッッ!!」


 パートナー・モルドは駆け出していた。

 いや、駆け出していた、という表現は、これもまた正しくない。

 その加速に脚力は用いていない。

 用いているのは、全身から溢れ出す紅蓮の炎。

 炎そのものが、広間の中を縦横無尽に暴れ回っている。


 ゴッッ!! ゴッッ!! ゴッッ!! ゴッッ!!


 炎が軌跡を描き、迷宮の壁に着地、再発進するたびに獣の唸り声のようなものが聞こえる。

 唸り声の正体は炎の噴射音と壁が剥がれ落ちる音だ。

 その音を追いかけるように無数の氷剣が放たれる。放たれる――が、当たらない。


 数千数百の氷剣が驟雨のように降り注いでも、炎は我関せずといった様子で壁や天井に着地するたびに加速を続ける。


『レーヴァ!!』


『!?』


 発声ではない。

 心の中に直接響くようなパートナーの声に、思わず驚愕して、これも契約の恩恵なのかしら……などと考える、その前に。


『そろそろ攻撃を仕掛ける! 一撃で沈める!! 気合を入れろ!!』


『ええ……ええっ!!』


 パートナーのそんな一方的な宣言に、私の剣身は熱を帯びるのだった。



 ――――――――――――――――――――



 溢れ出す滅びの炎と再生の光。

 それは『存在しながら消滅』しており、『消滅しながら存在』している。

 血や肉、骨すらも燃えカスとなり蒸発しながら、かろうじて『存在』を維持している。

 俺は今や――地獄の炎という現象そのものと化している。


 ――【全治全能(ノアヒーリング)――形態(モード)地獄炎(インフェルノ)】。


 これは、あの【彷徨う赤き鎧】から得た【地獄炎の加護】と【聖女の呪い】を掛け合わせた技だ。

 全力の魔力で地獄炎の噴射と【ヒーリング】を行うことで、人知を超えた超加速を可能にする。


 ……発想は、あった。

 死神騎士を倒し、加護を得たそのときから構想自体はしていたのだ。

 だが、威力を抑えた状態――死神騎士が使っていたレベルでの使用すら扱いが難しく、空想の産物、机上の空論としていた。


 自ら崩壊と再生を行うことは、それ自体がスピーディに展開する戦いの中、剣や魔術による攻撃や損傷個所の再生、時には『毒肢』の使用やレーヴァの空中操作などと同時並行的にしなければならないため難易度の高いものとなっていたのだ。


 だからこそ【地獄炎の加護】すら使用を控えていたのだが――、今は状況が異なる。

 今、俺の頭にあるのは『加速』と『決着』の二つのみ。

 この【形態(モード)地獄炎(インフェルノ)】で限界を超えることのみを考えている。


 全力で崩壊しつつ、全力で再生して、地獄の炎と化す。

 炎による崩壊に傾けば肉体は消滅するだろう、逆に再生に傾けば大きく減速する。

 故に、全力を尽くしつつ、完璧な崩壊と再生の調和を保たなければならない。


 正気の沙汰ではない。

 しかし、これはいつもやってきたことと同じだ。

 肉を切り、継ぎ合わせ、骨を切り、継ぎ合わせ……

 その果てにこそ、勝利を掴みとってきた。


 無論、このような芸当、長くは持たないだろう。

 持って六十秒といったところか。

 ――だが、それだけあれば最速に至るには十分だ。


『そろそろ攻撃を仕掛ける! 一撃で沈める!! 気合を入れろ!!』


『ええ……ええっ!!』


 無意識的に心の声で呼びかけたそれに、〈レーヴァ〉の返事が重なる。

 俺はさらなる加速を敢行する。


 数千数百を超える氷剣が放たれるが――、追いつかない、追いつかない、追いつかせない。


(速く、速く、速く――もっともっともっと、速くッッ!!)


 壁や地面の上を跳ねながら、加速、加速、加速、加速、加速。

 身体は狂おしいほど燃え上がる。

 意識は純白の炎へとくべられる。

 加速、加速、加速――その果てに。


『ッッッ!!』


 剣先をこちらに向けていた氷剣を、ヘルは身を守るように展開する。

 さながらそれは氷製のドームであり、城壁であり――

 ――瞬間、俺はそれを好機と見た。


「ぉ、おおおああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!」


 もはや叫び声とも言えぬ雄たけびを上げて最後の加速にして『最上』の加速を敢行する。

 視線の先、ヘルが究極の集中力をもって反応する。

 ドーム状にしていた氷剣を眼前に壁として展開し、さらには地面に忍ばせていた氷狼をも壁となるよう飛びかからせる。


 それは、ここにきてヘルをも『最上』の超反応に至った証左だった。

 数千数百の氷剣と氷狼、ヘルの全身全霊を用いれば、なるほど止めるとまではいかなくともこの加速を減衰させることはできるかもしれない。

 減衰し、奴の眼が俺を視認すれば、【魔眼】や【加護】の力で動きを止めることもできるかもしれない。


 だが――奴は一つ大きな勘違いをしている。

 炎を纏っているのが、俺だけだという、大きな勘違いを。


『いっけぇぇぇえええええええええええええええええっっ!!』


 この一合、『決着』の瞬間の一振りのみ。

 俺は、〈レーヴァ〉にも炎を纏わせていた。


「――――――」


 超速での突貫で無数の氷狼、氷剣を破砕する。

 それらが無数ではなくなり、数百となる。

 薄っすらとヘルの姿が見える。

 未だ氷剣や氷狼の後ろに隠れるヘルであったが――舐めるな、その位置とお前の『線』ぐらい、睨み続けた俺はとっくの昔に掌握している――!


「――――――ッッ!!」


 纏われた炎は集束する。

 地獄の炎により伸びる刀身。

 零れ落ちる火の粉は宙を踊る。

 振り抜きを待機するその数瞬にて、さらにその刀身は伸びる、伸び続ける。


 氷壁を超えて届く、そう確信した瞬間――


「――――――()った」


 俺は、燃える白銀剣を一本の『線』へと目掛けて振りかざした。


 ずるり、と。

 残った氷の盾ごと、燃え、引き裂かれ崩れ落ちるヘル。

 奴の肉体が地に落ちたその刹那――それは炎によって燃え上がり焦げ臭いにおいを充満させた。


 故に、今度こそ俺は冥府の女王に確実な『死』を――


「やったぁっっ!!」


「ぶごっ!?」


 と、確認する前に、柔らかい感触に飛びつかれた。

 見れば、いつの間に剣状態を解除していたのか、レーヴァが抱き着いていた。

 俺の首をギチギチといわせるほどに、強く。


「あ、これ今度こそ間違いなく死…………」


 続く言葉を紡ぐことはできず、俺はぶくぶくと泡を吐きながら意識を手放すのだった。



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