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第五十話 VS氷剣、氷狼


「――――ッ!」


 矢のように放たれる数十の氷塊。

 己へと殺到するそれに、俺は〈レーヴァ〉で迎え撃つ。


「――――ふっっ!」


 空気を裂くほどの速度で向かってくる複数の魔術を、しかし俺は全て白銀の剣で破壊する。

 ガラスが割れるような音を立て、『死』を迎えるその氷の塊。

 それが砕け散る際に見せた美しい装飾の片りんに、殺したそれが先ほど彼女が中空で展開していた剣だということに遅れて気付く。


『ふ』


 視線の先の女、その口元が僅かに歪む。


『ふふ』


 それを知覚した瞬間、俺は疾走を開始した。


「はぁぁああああああああああっっ!!」


 叫び声を上げ、犬のように走る。

 女は手の平を上げる。空中の氷剣の剣先がこちらに向きを合わせる。


 俺は瞬間、下に意識を向けた。

 裂帛の気合はブラフ。

 本命は『影化』と【未来死の魔眼】による即殺だ――!


 だが。


『モルド!』


 手元の〈レーヴァ〉の声。

 そして『影化』で潜り込もうと左手を置いた地面に拒絶され、気付く。

 そこに俺以外の影が五つ集結しているという事実に。


「っ!?」


 急いで地面から手を引っ込める。

 しかしてそこから現れたのは、五匹の、氷でできた獣だった。


『『『『『グルルルァアアッッ!!!』』』』』


 襲われる刹那、獣たちの命を刈り取るためその『線』に手を伸ばしながら同時並行的に思考する。


 今、地面の影から飛び出してきたこの氷でできた黒犬――狼の方が近いので氷狼とでも言うべきか――は、十中八九間違いなくヘルによって生み出されたものであろう。


 そしてその狙いは、俺を強襲するためだけのものではない。


「『影化』の封殺か――!」


 地面から手が弾かれた先の現象を見て、俺は吐き捨てる。

 俺すらも知り得ていなかった『影化』のもう一つの制約。

 おそらく、「地面に『影』(普通の影ではなく、『影化』によってできた影)が存在している場合、そこには『影化』して入ることはできない」という制約を、ヘルは知っていたのだ。


「っ!」


 襲い来る氷狼を捌き、血飛沫の代わりに氷の破片が舞う。

 その後ろから迫る氷剣も捌いていく。

 見れば再び迫る黒い影。

 その影は俺の足元の周りを囲むようにグルグルと地面の上で旋回する。


 それは、この深淵に挑戦する者は転化種であることを見透かしていたのか。

 それともたまたまなのか。

 それは分からない。分からないが――、


 同じ場所に『影』として入り込めないこと。

 例えば川に飛び込むように旋回する『影』を飛び越えようとしても、得物を手離せばその間に飛び交う氷剣がメッタ刺しにすること。そしてそれが即死もあり得ること。

 これらのことから、俺の『影化』による攻略は完全に不可能と化した。


「――だったら!」


『ギャウンッ!?』


 最後の氷狼を殺した俺は、再び地面を蹴り飛ばした。


 それは許さないと、無数の氷剣が再び迫る。

 雨のように降り注ぐ凶器の刃を、【未來視】として得ていた先読みの力と【特級剣術の加護】や【脊髄超反射の加護】によって補強された速さと技術で破砕していく。

 破砕しながら、走り、前進していく。


 奴は――ヘルは動かない。

 それはヘルの魔術や異能による制約か、それともヘルの王としての在り方か。

 それは分からないが、確信として、奴は動かないと【眼】が判断した。


 ならば答えは単純。

 近付き、『線』を断ち、殺せばいい。

 レーヴァは「弱点はない」と言っていたが、俺には分かる。

 たった一本、薄いそれであるが、彼女には確かに『死』に直結する道筋が浮かんでいる。


「――――っ!」


 さらに踏み込もうとしたその瞬間、【感知の加護】が反応し、『反射』して半回転しつつその場にしゃがみこむ。


『ギャッ!?』


 後方から飛び込んできた氷狼、奴が俺の頭上を通り越そうとしているところに一閃。砕け散る。

 さらに沈み込んだ姿勢のまま、再び半回転。今度は六閃。


『ギャッ!?』


『ギュッ!?』


『ギョッ!?』


 三体の氷狼を『死』によって沈める。

 走り始めたときから『影化』を解除しての強襲は警戒していた。


 それは都合二十五秒後の強襲。


 奴らに『影化』の制約の一つ、「十秒以上は『影』になれない」は適用されていないらしい、というのは、影の旋回による牽制が始まったときからの体感時間によって看破していた。

 それはおそらく、奴らが魔物や人間ではなく、ヘルの術によって生み出された存在だからだろう。

 『影化』の制約が何故に存在するのかは分からない。

 だが、例えば魔力の循環など、生きる者に必須の何かが制約に関わっているのだとしたら、氷人形である奴らはその制約からは解き放たれることとなるはずだ。


「――考察、ばっかりだな」


 俺は吐き捨て、無駄な思考を追いやって剣を振るう。

 眼前に迫っていた氷剣を打ち壊し、しかし、前進することに躊躇いが生じる。


 ヘルの動きが変わったのだ。


 小手先は通じないと判断したのか、数千数百を超える氷剣が宙に浮かぶ。

 ギリ、と歯噛みしたその瞬間、氷剣の群は俺の元へと殺到した。


「う、ぉぉぉおおおおおおおッッ!!!」


 圧倒的な物量で押し寄せるそれらを、決死の覚悟で撃ち落としていく。

 とはいえ、数千もの攻撃を完璧に凌ぐことなどできるわけがない。


 となればやることは一つだ。


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