第四話 絶望的な戦い
突撃を敢行した俺を向かい打ったのは、死神の一振りだった。
ドッガァアアアアアアッッ!!!
「ぐっ――」
俺はすんでのところでバックステップで回避する、が――、
「ぐぁぁあああっ!」
たった一振りで石橋には罅が入り、捲れた石の破片が身体を直撃した。
額から流れ出す血。
なんとか立ち上がるも、ガクガクと震える足。
目の前には、死神が構えている。
『ギギャギャギャギャ!』
怖い。
怖い怖い怖い怖い怖い。
目の前にあるものは、死、そのものだ。
相対するだけで、数秒後の己の死が手に取るように分かる。
だが――、引くわけにはいかない。
少なくとも、後ろに控えるティナが逃げ出すまでは。
恐らく、俺がすぐ死んでしまえば、彼女は恐怖と放心で動けぬまま死ぬだろう。
これは、彼女が俺を諦めるための戦いだ。
冷静さを取り戻した彼女が、俺を諦めて生還してくれるまでの戦いだ。
「うぉおおおおおおおおおおおおおお!」
俺は声を荒げながら突進する。
横薙ぎに振るわれる長剣。
それをスライディングで回避しながら、俺は詠唱を開始する。
「《炎弾よ・我が意のままに・獲物を撃ち抜け》!」
炎系初級魔術・【ファイアボール】。
直進する火の球が、ティナの元へと向かおうとしていた死神の足首を撃ち抜いた。
「お前の獲物はこっちだぜ、鎧野郎!」
ギョロリ、と兜から覗かせた炎の視線がこちらを向く。
無論、【ファイアボール】などで奴を倒すことはできないだろう。
俺の魔術適性も最底辺で、詠唱短縮もできなければ、使用できる攻性の魔術だってこれしかないのだ。
だが、少なくともこちらに注意を引くことくらいはできるはずだ。
『ギィアアアアアアアアアア!』
「うおっ!?」
奴が咆哮を上げながら踏み込むと、石橋が地震のように激しく揺れる。
そこで足をくじかせたのが悪かった。
奴の振りかぶった長剣を、今度は避けきることができなかったのだ。
「――――づぁ!?」
致命傷には至らないが、肩口から引き裂かれ鮮血が舞う。
長剣には何か魔術的な効果があるのだろう。
傷口が、焼けるように痛い。
――と、そんな風に俺が苦悶の表情を浮かべていたとき……
「……《安らぎ癒せ》」
蛍のような優しい光が全身を包み、俺の体を癒す。
俺は視線の先にいるティナに叫んだ。
「なに回復してんだ! 逃げろ!!」
「でもっ、だ、だって……」
「うるせぇっ、早く、いけえええええええええええッ!」
俺は叫びながら、回復魔術を使ったことで標的にされかけたティナの前に立つ。
守らないと。
守らないと。
俺が。
俺が、ティナを守るんだっ!
「うぉおおおおおおおおおおおおおお!」
そこからはもう、ただただ本能で動いていて。
その瞬間から、意識はぷつりと消えていた。
――――――――――――――――――――
それから、どのくらいの間、戦っていたのだろう。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ…………」
いや、きっと戦いなんて呼べる代物じゃなかった。
俺はひたすらに避けて、「時間を稼いでいる」ようにみせるよう必死だったから。
だって、あんなサバイバルナイフや初級魔術でダメージなんて与えられるわけもないだろ?
……まぁ、もうそのナイフさえも手に取ることはできないんだけどな。
「はぁっ、はぁっ……ははっ」
右腕は欠損し、断面からはどろりどろりと血が溢れては地面に落ちていった。
身体中が痛む。
たぶん、怪我してないところなんてないほどに、切り刻まれてきたのだろう。
瞼の上を斬られたのか、視界もままならない。
「でも……ティナは逃げられた、みたいだな」
途中まで続いていた回復は、いつの間にかされなくなっていた。
おそらく、転移結晶でダンジョンから離脱したのだろう。
よかった、これで……。
『ギィ……』
死神が、長剣を突の構えで持つ。
長剣が迫る。
俺は諦め、目を閉じた。
そして。
「《安らぎ癒せ》」
そんな透き通った声で、目を覚ました。
目を開けると、俺は地面に倒れていて。
目の前には。
長剣によって胸を貫かれた、ティナの姿があった。
【勇者からの嘆願】
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